ギルド
ツェツィーリヤが大口を開いて、トラックを丸呑みにする。というよりも、ツェツィーリヤの唇がトラックに触れた瞬間、忽然と消失したのである。
これがツェツィーリヤの能力。
『自作する災厄の匣』である。
ミロンが感心の声を上げる中、ネリーが頭を下げる。
「助かったわ」
「はっ、気にすんな。チームだろ。これからはミロンもだな」
「え?」
勝手にチームにされたことにより、ミロンが動揺を露わにした。
「何驚いてんだよ?」
「ぼく、きみたちとチームを組むことが確定しているの?」
「ああ。ネリーと俺はギリギリ基準をクリアしてないしな」
『創り者』たちは基本的に三人一組である。神々の死体持ちの戦闘員、サポーター、そして……魔法使い。
ネリーのチームには魔法使いが存在しない。
「でも、ぼく魔法なんて……」
「ああ。なるほどな。大丈夫だって! 簡単簡単」
ツェツィーリヤはそう朗らかに笑うが、ミロンはとても不安であった。
「ま、取り敢えず、報告だけしとこうぜ」
「そうね」
何処かへ報告に行くらしい。
ネリーとツェツィーリヤは迷いのない足取りで歩き始める。
アリアも、初めて来ただろうに、その足取りに戸惑い一つ存在しない。ただ静かに、ミロンの後ろを歩く。
「凄いなあ。第一ドームとは大違いだ」
第一ドーム内は、まるでこの世の終わりのようであった。家屋は老朽化を極め、ガラスは割れていた。
道という道には腐敗死体が転がっていた。
血に汚れていない壁など存在しなかった。
一方で、第二ドーム内は想像以上に豊かであった。
西洋風の住居は実に優雅で、壁には汚れ一つ存在しない。道路はきちんと整備されていて、煉瓦の道を靴が叩く度、軽快な音が耳に入ってくる。
「人も多いし」
全員が『創り者』なのかは不明だが、沢山の人々がドーム内を歩いている。
外部の腐敗した雰囲気とは一変して、明るい印象をミロンに与えてくる。
寸刻きょろきょろと景観を鑑賞していたミロンであるが、前を歩く二人の動きと連動してその足取りを停止させた。
「ここがギルドだ」
ツェツィーリヤが見せびらかすかのように、両腕を広げる。周囲の目が、そのような彼の様子をうっとりと眺める。
美少女のかわいらしい行動にしか見えないのであろう。
本人はそれに気が付かず、「決まった」とでも言いたげにドヤ顔であった。
「で、ギルドって何なのさ?」
ツェツィーリヤは無視して、ミロンはネリーに問う。
「会社みたいなもの。ここで任務を貰う」
「ほうほう。じゃあ、ぼくはこのギルドの依頼で助けられた訳だね?」
「そうね」
ミロンは無意識のうちに、ギルドへと頭を下げていた。ミロンが今こうしていられるのも、全てはギルドのお陰である。
「じゃあ、入りましょう」
ネリーに先導され、ミロンたちは施設内に入った。
ギルド内は絢爛豪華であった。
まず目に入るのがシャンデリア。床には赤の絨毯が引かれており、まるで一流ホテルのロビーのようである。
最高の踏み心地である絨毯の上を歩けば、ここを王宮と勘違いする者も現れるだろう。
受付らしき場所は大理石製。
壁には肖像画や絵画が飾ってある。
「こ、ここ?」
ミロンは臆する。
場違いではないかと、怖じ気付いたのである。顔色を悪くしていくミロンを見かねてか、アリアがそっと耳打ちする。
「御主人様。最高でございます」
「何がさ!?」
アリアとしては場違いではなく、寧ろよく溶け込んでいるということを伝えたかったのだろうが、よくわからない表現はミロンを更に混乱させた。
「何してんだ? 早く来いよ、ミロン」
ツェツィーリヤの声で、はっと我に返って、ミロンは彼の元に駆け寄った。
受付に行き、任務の達成を報告する。
「任務完了。『創り者』ミロン・アケディ並びに機人アリアを回収」
「お疲れ様です」
ネリーの端的な報告に、受付員が愛想笑いを浮かべる。受付員は愛想笑いを浮かべたまま、
「初任務ですのに、回収依頼を完遂させるとは。恐れ入りました」
初任務! とミロンが声を荒らげた。
初めての任務だったというのに、ネリーは実に慣れた様子で戦闘していた。そのことにびっくりしてしまったのである。
ネリーは無言で、胸を張る。
その隣では、ツェツィーリヤがしかめ面を浮かべていた。受付をバンっと乱暴に叩き上げて、受付員を睨む。
「てか、あれはどういうことだよ。あんなに大量の残り者がいるなんて、聴いてねえぞ」
「大量の残り者?」
「ああ。あれは数万レベルでいたぞ。逃げ切るのに俺がどんだけ苦労したか」
ミロンは、トラックが不自然な程にカーブを繰り返していたことを思い出す。
「数万、ですか。おそらく、エヴァチームの失敗が原因でしょうね」
「エヴァたちがミスったのか? で、どうなった? 何人帰ってきた?」
「今の所、ゼロです。彼女たちも初任務組でした。とある工場内の『壊れ者』退治任務でしたが、任務終了予定時間になっても帰還しておりません」
ミロンは展開によくついていけていないが、一つだけ理解できた。あの残り者の群れは、誰かが任務を失敗してしまった結果なのであると。
「ちっ。俺が行く。まだ残ってるかも知れねえ」
「それは遠慮ください。後日、ギルドが正式に任務として発注致します」
「遅えよ!」
「敵の規模が未知数です。今戦力を送り込んでも無駄に戦力を減らすだけ。貴方はそのようなことも師匠さんから習っていませんので?」
師匠、という言葉を出された瞬間、ツェツィーリヤの表情が強張った。拳を力の限り握り締めている。
「わかった。だが、任務が発注されたら即言え。俺らが行く。良いな?」
「了解です」
ツェツィーリヤが舌打ちを漏らし、受付員に背を向けた。




