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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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ツェツィーリヤ・ヘラキャット

 トラックが残り者の肉体を踏み潰す。血液や肉片が吹き飛び、トラックが汚れる。


 ツェツィーリヤはそれをご機嫌な様子で眺め、ワイパーを起動させる。ワイパーがカチコチと一定のリズムを刻み始める。


「俺はサポーターでな」

「サポーター、ですか?」


 サポーターの意味がよくわからないミロンは、おうむ返しに言葉を述べた。そうすると、


「ああん?」


 と、ツェツィーリヤはドスの効いた、比較的低い声で唸った。今までの可愛らしい声が一変して、恐ろしい声へと変わる。


「敬語は止めろ。俺らは仲間だぞ」

「ご、ごめんね」

「わかったらいいけどよ。で、だ。俺はサポーターだ。意味わかるか?」

「ぼく、サポーターが何かもよく知らなくて」

「起きたてなら仕方ねえか。サポーターは、戦闘員の補助をする係りだ」


 ふむふむ、とミロンは頷く。

 それに気分を良くしたのか、ツェツィーリヤが笑う。


 彼の天使の微笑みとしか言い表せない表情を間近で見てしまい、ミロンは心臓の鼓動を早めることになった。


「通常、俺ら『創り者』が任務を受ける時は、最低でもスリーマンセルを組まされる」

「三人」

「そうだ。神々の死体(ホラーチャーム)持ちの戦闘員。魔法での後方支援に勤める魔法使い。そして、サポーターだ」

「……魔法があるの?」

「あるぜ。着いたらお前も教わるだろうよ」

「ちょっと、楽しみだったり」

「ははは。素直な奴だ」


 でな、とツェツィーリヤはサポーターについての説明を開始した。


 サポーターは戦闘員と魔法使いの支援をする。それは荷物持ちであったり、暗い場所での明かりを灯す係りであったり、運搬であったり、探索をしたり、警戒をしたりする仕事である。


 言うなれば、戦うこと以外の全てを担当する係りと言える。負担は相当のものであろう。


「俺の力がありゃ、全部楽勝だがよ。道具持って来放題だからな」

「凄い!」

「そうだろう」


 ふふん、と一通り胸を張ると、ツェツィーリヤが顔をミロンへと近付ける。


「うわわ」


 女性に免疫のないミロンは、どう見ても美少女にしか見えないツェツィーリヤの接近に動揺する。

 顔を赤くする。


「おい、ミロン。お前、どうして顔を赤くしてんだ?」

「や、急に顔を近づけてくるから」

「なっ! お前!」


 トラックが耳に不快な音を立てて、急停止した。ミロンの顔が窓に叩きつけられた。

 鼻血を垂らしながら、ミロンは抗議の声を発する。


「危ないじゃないか!」

「危ねえのはどっちだ? ああん?」


 ドスを効かせた声を上げながら、ツェツィーリヤはミロンの肩を掴んだ。


「俺は、男として、お前と仲良くやろうと、思ってんだ。だのに、お前はよ。男に発情してんなよ!」

「し、してないよ!」

「してるだろうが! 俺はな。この見た目の所為で、下手に男と組むと襲われそうになるんだぞ! わかるか、この気持ちがよお」

「わからない、けど」

「俺を一目で男と見抜いたネリーが連れてきた新人だから期待してたんだがなあ! 後、あの作戦も! だが、お前にはガッカリだよ」


 ふんっとそっぽを向いて、ツェツィーリヤは黙り込んでしまう。そのまま、面倒そうにアクセルを踏み始めた。


「ご、ごめんって」

「ふーん、だ」


 反応が女の子っぽい、とミロンは驚いた。ツェツィーリヤは見た目とは対照的に、不良風の話し方をしていた。

 けれども、妙なところで女っぽさがあるらしい。


 そこで、ミロンの意識はついついツェツィーリヤの足へと向かってしまう。

 実に綺麗な足である。


 男性のものとは思えない程に。


 どうして男性なのに、ミニスカートを履いているのだろうか。

 ミロンは敢えて、その質問を必死に堪える。また、怒らせてしまうかもしれないからである。


 ミロンは悩み、そして、妙案を思いつく。


「いや、本当にごめんね。ちょっとしたジョークだよ! ほら、男同士だと、よくあるじゃない?」

「……」


 刹那の間の沈黙。ワイパーのみが時を刻む。そのような沈黙を破ったのは、ツェツィーリヤの明るい声音であった。


「……だ、だよなぁー! 男同士だと、よくあるよな! はは、ああ、うん。知らなかった」


 後半はミロンに聞こえないくらいの小声で言っていた。ミロンの推理通りであった。


 ツェツィーリヤはおそらく、その容姿から男同士の友情などを知ることすらできていない。

 だからこそ、ミロンが適当なことを言っても、それを信じるしかないのである。


 あはあは、と歪な笑い声を上げて、ツェツィーリヤがミロンの肩に手を回してくる。

 それは彼が抱く、男同士の友情なのだろう。しかし、ミロンにとっては美少女からのスキンシップのようにしか感じられない。


 ミロンが頬を赤らめていることにツェツィーリヤは気が付かなかった。


 トラックは実に順調に進み、あっさりと目的地へと到着した。辿り着いた場所は、錆び付いた門前であった。


「これは……ドーム?」


 見上げる程に巨大な壁が聳え立つ。


「ようこそ、第二ドームへ」

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