包囲脱出戦
突如現れた援軍。
美少女にしか見えない少年、ツェツィーリヤ・ヘラキャットのマシンガンが火を噴く。
耳に発砲音が入ってくる度、残り者が倒れていく。
ツェツィーリヤは異常であった。
儚い印象の絶世の美少女、という風な容姿も異常ではあるが、その程度のことは特筆すべき点ではない。
彼の一番異常な点。
それはその行動にあった。
ツェツィーリヤは自らの小さな口に腕を突っ込むと、そのままゴソゴソと何かを漁るようにする。
暫くすると、
「喰らっとけ」
口の中から大量の爆弾が取り出された。
その爆弾が投擲され、包囲に僅かな穴が開く。
「おい、ネリー。活路は開いたぜ。後は、お前らでこっちまで来い」
と、ツェツィーリヤは口内からトラックを取り出しながら軽々しく言う。
「口からトラック!? どうやって出したの?」
「あれが彼の能力よ。詳しい話は後にしましょう。今はどうここを抜けるか、よ」
「それだけどね」
と、ミロンは思考の結果をネリーたちへと伝達する。その声音はいつも通り、恐る恐る、といった様子である。
不安げなミロンの言葉を、しかし、ネリーたちは待った。
その間、ネリーの髪は絶えず敵を撃破していっている。
ツェツィーリヤの弾丸も、戦線を維持できている理由の一つであった。
「ネリー。滅茶苦茶痛いのと、このままじわじわやられるの。どっちが嫌?」
「後者よ」
「なら、お願いするよ」
ミロンの作戦は単純であった。
ネリーが広範囲を攻撃できないのは、体力の消費が激しいからである。
ガラス平原の時のように、ただ一定に保つだけならば長時間の使用が可能なのだ。
であれば、だ。
「ネリーはできる限り髪を伸ばして、固定。で、アリア。きみがネリーの身体を持って、振り回すんだ」
ミロンの作戦とも言えない奇行に、ネリーが目を点にする。
感情をあまり表に出さないネリーだが、表情による感情表現はよくする少女である。
唖然とするネリーの隣で、アリアが挙手した。
「御主人様。自分が武器を掴めば、おそらくネリー様は重症になられるかと」
「うん。ぼくを置いていっていくなら、不要だけど……。足手纏いを連れてここを抜けるなら、それくらいやるしかない、と思う」
「承りました。御主人様の御心のままに」
アリアがネリーへと近づく。
ネリーは目を泳がして、アリアと一切目を合わせない。ぼそり、と抗議を開始する。
「それ以外に道はないの?」
「多分」
「『創り者』も痛みは感じる、の」
「ごめんね。でも、ぼく、誰にも身体を失って欲しくないから……」
「わかったわ」
観念して、ネリーが『命の灯』を展開させた。ネリーの髪が伸び、一本の剣へと至る。
そのような状態のネリーの肉体をアリアが掴んだ。力は制御されておらず、ネリーの肉がひしゃげる。潰れる。
ネリーが痛みで絶叫を上げる。だが、ここで止まることはできない。
アリアが乱暴に、ネリーを振るう。
直後、髪の剣が無数の残り者を焼却し、叩き切っていた。
ネリーとアリアの様相は異様ではある。直立不動の姿勢を取ったネリーを剣のように振るうアリア。
美少女たちとは思えない程に、絵にならなかった。絵にはならずとも、効果は覿面であった。
残り者の数が目に見えて減少する。
「アリア。ネリーをそのままお姫様だっこして、走って!」
これ以上、ネリーの身体を握り潰すのは残酷過ぎた。被害が出ないよう、アリアの腕の上にネリーの肉体が移動された。
これで潰されることはなくなった。
生まれた道を全力で疾走する。
「こっちだ! はは、新入り! お前、面白え作戦思い付いたな。面白かったぜ」
ミロンたちがダッシュに集中できるように、ツェツィーリヤが重火器によって支援射撃を開始する。
バズーカのような物をぶっ放しつつ、ミロンの作戦に対して大笑いしていた。
それに反応を返すこともなく、ミロンたちは一心不乱に駆け抜けた。
苦労の末、どうにか丘の上に上がる。
「乗れ」
ツェツィーリヤは既にトラックの運転席に座っていた。
「ネリーとそこの茶髪。お前らは荷台だ。で、これは肉だ。喰っとけ」
ツェツィーリヤは口の中から人肉を取り出し、ネリーへと放り投げる。それをネリーがキャッチするのを見届けてから、うんと頷く。
「お前は助手席だ」
ツェツィーリヤが乱暴な口調でミロンに助手席を勧めた。
ミロンは助手席に腰掛けて、ゆっくりと息を吐く。安心感が身を包む。
「飛ばすぜ」
掛け声と共に、アクセルが全力で踏まれる。トラックが勢い良く、前へと進みだした。そう、前。
小さな丘から飛び降りたのである。
「い!」
強い衝撃が臀部を襲った。
「新入り、名前は?」
「み、ミロン・アケディです」
「そうか。俺はツェツィーリヤ・ヘラキャットだ。よろしくな」
「は、はい」
「お前、俺の能力を珍しそうに見てたな?」
どちらかと言えば、当初は容姿にばかり目がいっていた。と、ミロンは言い出せない。曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。
「挨拶代わりに教えといてやる。俺の神々の死体は『自作する災厄の匣』」
能力は、とツェツィーリヤは説明を続けた。
「口内に、無限に物を収納し、好きなように取り出す力だ」




