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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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絶体絶命

 絶体絶命であった。

 無論、『創り者』は死なない。けれども、肉体の喪失は、死よりも辛いだろう。


 ミロンはゴクリ、と喉を鳴らす。


 ネリーの神々の死体(ホラーチャーム)は強力だ。攻防一体の凶悪なる兵器である。

 だが、一方で、欠点も存在する。


「はぁはぁ」


 体力の消耗。

 敵との戦闘は、髪での砦を作る以上の負担をネリーにかける。


 残り者の大群。

 有象無象を蹴散らすだけならば、ネリーは苦もない。その筈であった。

 しかし、数が多すぎる。


 数千体ならばともかく、敵は数え切れないほどの大群だ。


 アリアも、この戦いでは分が悪い。

 彼女の怪力はかなりの戦闘能力ではあるが、あくまで一対一に限定するのならば、である。


 そうして、最大の問題がミロンの存在であった。


「二人とも。ぼ、ぼくを置いていっても良いよ」


 震える声で、ミロンが呟く。


 そう、ミロンである。彼は露骨な足手纏いであった。彼を守りながらの戦闘ともなると、勝ち目はない。


 ネリーもアリアも、逃げるだけならば可能だった。……ミロンがいなければ、だが。


「そのようなことはできません。自分はメイドですから」

「私は強い、ので」


 二人はミロンを見捨てない。

 そのことに、ミロンは表情を曇らせた。


 怖い。

 しかし、ミロンは真剣に置いていって欲しいと願っていた。


 だというのに、少女たちは臨戦態勢に入っていた。


 残り者たちが呻きながら、一斉に這い寄ってくる。腐臭を撒き散らし、肉の断片を零し、血液などの体液を地面に擦りつけながら。


 それらはミロンたちへ向かってくる。


「燃えろ」


 炎の髪が鞭のようにしなる。髪の長さは数十メートルにも達していて、一気に周囲の残り者たちを薙ぎ払う。


 けれども、残り者は肉体の一部分さえ動けば事足りる。腕や足だけがミロンへと向かってくる。


 その腕の一本をアリアが踏み潰す。

 腕は暫く痙攣を繰り返した後、動かなくなった。


「……こういうとき、ルベル系の神々の死体(ホラーチャーム)が欲しくなるわ」


 ネリーは初撃の勢いを失い、薙ぐような攻撃ではなく、個別に敵を燃やし始めた。近づく敵には、素早い髪が鞭として打ち据える。


 アリアは近接戦に終始していた。敵を踏み潰し、蹴り潰し、徹底的に殲滅していく。潰した肉片を振り被り、投げつけていた。


 圧倒的である。

 しかし、効率は悪い。徐々に、敵の包囲が完璧なものとなる。


 手数が足りない。


「せめて。もう少し、何かがあれば」


 焦燥感に脅かされつつも、ミロンは必死に頭を動かした。彼にできることはそれくらいのことである。


 そして、思考に没頭するあまり、警戒を怠った。どうせ、自分は戦えない。

 その思いが油断に繋がったのだ。


 足に、残り者が噛み付いた。


「あああ!」


 足を振り回して、残り者を振り払おうとする。それくらいでは離れない。

 足の肉が裁断される激痛。


 ミロンは痛みで倒れそうになった。

 その時だった。


「ちっ。頼りねぇなあ、新人」


 突然、高い声が聞こえた。ミロンはその声が、天使のお迎えかと錯覚してしまう。


 その考えは即座に否定される。

 豪雨が降り注がれたのだ。


「ようし、命中だ」


 それは発砲音。

 銃声であった。


「助けに来たぜ、ネリー、そして新人ども」


 声の主は遥か前方、小さな丘の上にいた。その人物は何と両手にそれぞれ一丁ずつスナイパーライフルを手にしていた。


「もう一発!」


 弾丸が二発、射出される。

 反動は『創り者』の肉体によって、力尽くで無視しているのだろう。微かに、姿勢がブレるだけに止まっていた。


「手数が足りねぇなあ。なら」


 と、その人物はライフルを捨て、代わりに己の口内に手を突っ込んだ。


「ねえ、ネリー! あの人は誰? 凄くかわいいけど……」

「あの人は合流しようとしていた仲間よ」


 ネリーが美しさを極めた『創り者』なのだとしたら、その人物はかわいらしさを極めた『創り者』であった。

 黒の長髪は濡羽色である。小さく可愛らしい顔は小動物のようであり、小柄で華奢なスタイルも合わせて、深窓の令嬢のようであった。


 ミニスカートからちらりと覗く足は白く美しく、また健康的である。

 容姿だけ見れば、確実にかわいい女の子だと断言できる。

 そう、容姿だけ見れば、だ。


「これならどうだ?」


 その人物は口内(・・)から巨大なマシンガンを取り出した。マシンガンを手早く地面に設置すると、それの引き金を全力で振り絞った。


 それをトリガーとして、破壊が連続した。


 一秒間に、無数の死の音が木霊した。止まない破壊音に、ミロンは思わず耳を塞ぐ。

 耳を塞いでなお、死の音は聞こえてくる。ミロンの目の前で、残り者が次々と倒れていく。


「凄い!」

「ええ、彼は凄腕なのよ」

「彼?」

「ええ。彼は男性よ。女って言わないでね。怒るから」


 驚きで、ミロンが動きを停止させる。

 突然現れた仲間は、どう見ても美少女に見える、男であった。彼は大量の重火器を操り、一気に残り者の数を減らしていく。


「ほら、後はどうにかしろよ! 俺はあくまでサポーターだからな」


 嘯きながらも、自称サポーターの少年は引き金を振り絞り続ける。


 ぼそり、とネリーが彼を紹介した。


「ツェツィーリヤ・ヘラキャット。サポーターとして最高峰の神々の死体(ホラーチャーム)を持つ男性よ」


 硝煙の香りが、ミロンの鼻腔を擽った。

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