大型残り者
メイドの機人であるアリアを仲間に迎え入れ、取り敢えずミロンたちは休むことを選んだ。
体力的な問題は皆無に近しい。
ミロンもアリアによって負わされた傷を回復させる為に、寝ている間に人肉を食べさせられた。そのお陰で、今は何と瞳まで回復していた。
アリアは意識を失っていたミロンたちを運ぶ際、力加減を誤って、肉体を引き千切ってしまったらしい。
欠陥品たる所以である。
ということで、ミロンたちの体力は十全といえた。一方で、精神的疲労は抜け切っていない。
ネリーはそれ程でもないだろうが、ミロンは最近の急展開により、心が疲弊していた。
心の疲弊は致命的なミスに繋がるし、何よりも心が壊れてしまえば詰みである。
身体能力的に優れている『創り者』といえども、休憩は必要なのだ。
ネリーは眠いと言って、寝室へと戻った。
ミロンはアリアの奉仕欲を満たす為、苦笑と共にティータイムを開始していた。
「ありがとう、アリア」
「これが自分の生きがいですから」
声音には僅かな熱が篭っていた。
「勿体無いなぁ、ネリー。こんなに美味しいのにね。寝ちゃうなんて」
「自分は御主人様にお仕えできれば幸せなので。雌犬はどうでも良いです」
「あれれ? おかしいなぁ。普通に名前呼んだ筈なのに、何処と無く毒を感じたんだけど……」
アリアの口調に違和感を覚えつつも、ミロンはお茶を啜った。
ゆっくりとした時間が流れた。
久し振りに訪れる平穏に、ミロンは思わずウトウトとしてしまう。かくんかくん、と頭が舟を漕ぐ。
そのような主人の姿を見て、アリアは頬を緩めた。
このまま、寝てしまうのかと思わせるくらい、ミロンは頭を揺らしていた。
だが、
「……がっ。な、い痛い」
突如、左目を抑えて、悲鳴を上げた。
「御主人様?」
アリアはミロンへと駆け寄り、彼の様子を伺う。尋常ではない痛がりようであった。
通常『創り者』はある程度痛みに耐性がある。完全な耐性は持っていないが、高が目に痛みが走った程度の反応ではない。
「この痛み。アリア。ネリーを起こしてきて。多分、何か来る!」
ミロンの指示は一手遅かった。
天地が翻ったのかと錯覚する程の揺れ。アリアは窓へと向かい、所々が破けているカーテンを引き千切った。
そして、目撃する。
「大型の残り者です、御主人様」
窓から足が見えた。
直後、頭上に只ならぬプレッシャーを感じた。ミロンは呆然と天井を見つめる。
見かねて、アリアがミロンを突き飛ばした。彼女の咄嗟の判断は正解であった。
ミロンがいた位置に、巨大な剣が振り落とされたのである。
「ぐあ」
アリアの怪力によって、ミロンは吹き飛ばされていた。木造の壁を自らの肉体で突き破り、そして、地面を無様に転がる。
「アリア!」
ようやく止まったとき、ミロンは機人の少女の名を呼んだ。
果たして、アリアはそこにいた。
巨大な、電信柱のような剣。その斬撃を、アリアは自らの肩で受け止めていた。
紫電が迸り、コードや部品が飛び出ていた。
その光景を見て、ミロンはようやくアリアがロボットなのだと本当に理解した。
しかし、幾らロボットといえど、彼女はもうミロンの仲間である。であれば、見捨てられる筈もない。
ミロンはアリアへと駆け寄った。
「来ないでください、御主人様」
ノイズの走る声で、アリアが制止の声を投げかけた。
「どうしてさ!」
アリアの肩では、未だに彼女の肉体を両断せんと火花が散っている。放置すれば、近い将来、必ず両断されてしまうだろう。
「御主人様は見たところ、戦闘能力を保有しておられません。この残り者を止めることは不可能かと」
「また……ぼくは。力がない、から」
ミロンの言葉を待っていたかのように、剣へ込められる力が増した。
そして、とうとうアリアの肩を剣が通った。ぶちぶちと、コードが千切れる音が耳にまで届いた。
「アリア!」
「問題ありません」
と、ミロンの心配をよそに淡白な声をアリアが返してくる。片腕が断裂されたというのに、アリアは実に涼しい顔をしている。痛覚がないのだろう。
声には僅かなノイズが混じるものの、普通に駆動していた。小走りで、アリアがミロンの元へと駆け寄ってくる。
「雌豚と分断されたようでございます。しかし、御主人様には自分が仕えていますので、御安心を」
「うん、何かネリーの呼び方に悪意を感じる」
「はい」
「認めるんだ!?」
「御主人様の御言葉は絶対ですので」
と、軽口を叩き合う一人と一体であったが、その表情は真剣そのものである。
まだ、敵の間合いからは脱せていない。
既に、彼らは屋外にいた。
だからこそ、わかる。
「大きい」
身長は三階建ての家よりも大きい。手には、電信柱程の大きさの剣を握っている。眼は顔の中央に無数に生えている。
ギョロリ、と無数の瞳がミロンを捉える。
「うーうーうー」
サイレンのような音を口遊みながら、巨人がミロンへと剣を振り下ろそうとする。
ミロンは咄嗟に、右へと跳ぶ。地面に剣が突き立てられる。
その剣はミロンを破壊することはなかったが、代わりに石礫を彼へとぶつけてくる。
悲鳴を上げて、ミロンは地面を転がった。
そのような彼の姿を眼にして、怒りに打ち震える存在が一体。
「てめえ。あんまふざけてっとぶっ殺すぞ! ……でございます」
一体のメイドがブチ切れた。




