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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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握手

「自分たち機人オートは、主人に仕える為に製造されます」


 メイドはまるで懺悔をするかのように、両の手を組み合わせて、天に祈るようにして語る。


「しかし、自分は『欠陥品』であるからと、捨てられてしまったのです」

「そんな。どうして?」


 凄惨な声音に負けて、ミロンが問い掛ける。

 ミロンの言葉に頷きを返したメイドは、回想を続行する。


「自分は他の機人オートよりも、力が強かったのでございます。ほんの少し、ですが」

「少し?」

「何らかの要因で力を制御できません」


 言われて、ミロンは思い出す。

 粉々になっていたティーセット。潰された鉄製のドアノブ。砕かれた地面。


 どれも全て、ただの怪力一つで行われていたのだ。


「このような悲劇が許されるでしょうか? 自分は生まれた時、楽しみにしておりました。あぁ、自分はどのようなご主人様に仕えられるのだろうか、と」


 なのに、とメイドは冷たい声音で慟哭した。


「自分は壊れていると、間違っているのだ、と! そう言われて、あっさりと捨てられたのでございます」

「……」

「自分は望んで壊れていた訳ではありません。ただ一人、ご主人様にお仕えできればそれで良かったのに」

「……メイドさん」


 人に仕える為に生み出された機人オート。だというのに、彼女はその使命すら果たせず、勝手に創られて、勝手に捨てられたのだ。


 まだ見ない主人に憧れて。


 ミロンは想起する。

 意地でも自分たちにお茶を飲ませようとしていたメイドの姿を。


 メイドはただ、本当にただお茶を飲んで欲しかっただけなのだ。

 主人ではないが、お客様でも良い。せめて、誰かに奉仕したい。そういう機人オートの悲願を果たす為に。


「きみは、ずっと一人なの?」

「はい。製造より百年。工場から逃げ出して以来、ずっと一人でございます」


 それはどれだけ辛かったのだろうか。ミロンには想像もできない。

 薄暗い、オンボロの家をたった一人で管理し続ける。その無意味さと虚しさ。


 人に仕えたいのに、人が現れない居たたまれなさ。


 メイドが百年、何を思って生きていたのだろうか。


 ふと、妊婦たちを思い出した。


 同じなのだ。報われない生を続ける彼女たちは、同じなのである。


 気が付けば、ミロンはまた涙していた。

 美しい顔をぐちゃぐちゃにしながらも、ミロンは泣いた。


 そして、そのままメイドに近づくと、彼女を優しく抱擁した。


「メイドさん。ごめんね、逃げようとして。……お茶を、淹れてくれる?」

「……良いのですか?」

「うん」


 機人オートは涙を流せない。

 悲しいときも、嬉しいときも、機械は涙を流せないのだ。


 だからこそ、ミロンは泣く。

 哀れな機人オートの為だけに、ミロンは彼女の代わりに涙した。


「ありがとうございます」


 オンボロの家に戻り、テーブルに着く。

 テーブルの上には、やはり壊れたティーセット。メイドの怪力によって、壊されたものであろう。

 どうにか全壊は免れた、という様相のティーセットである。


「壊れているわね」


 と、小さく呟きながら、ネリーがカップに口を付ける。ギザギザのカップに口が触れ、実に優雅に紅茶が喉を進んでいく。


「うん、美味しいよ!」


 ミロンには紅茶の良し悪しはわからない。だが、美味しいと感じたのだ。例え、割れたカップの所為で唇を切り、紅茶に血が混じろうとも。


 ミロンの言葉を聴き、メイドがニコリと微笑んだ。

 機人オートにも、心があるのだろうか。ミロンの目には、メイドの表情が見える。心底嬉しそうな、微笑みが見える。


「ちなみに、メイドさん。きみ、名前は?」

「名前はございません。自分は製造と同時に破棄されることが決定しましたので」

「そうなんだ。何か寂しいね」


 と、声音を落として、ミロンが言う。それから暫く沈黙が生まれたが、それをネリーが崩す。


「名前……兄様が付けてあげれば?」

「え? ぼく?」

「ええ」


 ネリーの視線を受けて、ミロンは彼女の言いたいことを察した。現在、ミロンたちは力を欲している。

 死なない為の、力。


 それは神々の死体(ホラーチャーム)であり、また仲間(・・)でもある。


 先程は、メイドの正体が不明であったから勧誘を諦めた。けれども、今は違う。

 勧誘するとしたら、今しかないだろう。


 ミロンは悩む。

 そのような打算的な考えで、人の名を決めてしまっても良いのだろうか、と。


 チラリ、とメイドの顔を伺うと、そこには冷たい表情があった。

 メイドは表情とは反して、身体をウズウズと揺らしている。期待、しているのだろう。


 メイドが喜ぶなら、とミロンは名前を考えることにする。


「そうだね。じゃあーー」


 少女の名前を浮かべたとき、ミロンの頭には幼馴染が現れた。まだ引きずっているのだ。


 咄嗟に唇はアリス、と呟きそうになる。しかし、ミロンは首を左右に振って、それを否定する。


「アリ……ア。きみの名前は、アリア。どうか、な?」

「アリア」


 噛みしめるように、メイド……アリアは自分の名を呟く。何度も、何度も。


 やがて、メイドが静かに頷いた。


「インプット、しました。今日から自分はアリアです。ありがとうございました」


 深く、アリアがお辞儀をする。

 ミロンは慌てて、両手を振り乱す。


「そ、そんな、大したこと、してないし」

「いいえ。貴方は自分を救ってくださいました」

「救ったなんて、そんな」

「後は……」


 チラチラと、アリアがミロンの表情を伺う。ミロンは彼女の言いたいことを察した。


 恐る恐る、といった様子で、ミロンが尋ねる。


「その、さ。ぼくでも良かったりする?」

「はい!」


 アリアの言いたいこと。

 それはつまり、主人についてであろう。


「じゃあ、その、ぼくのメイドになってください」


 ミロンは手を差し伸べる。

 アリアは恭しく、その手をそっと握る。


「はい、喜んで。……御主人様」


 万感の思いが込められた御主人様という呼びかけに、ミロンは涙目になった。

 ついでに、その涙目の原因に、差し出した手が握り潰されたことはまったく関係ない。

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