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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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メイド

 突然現れたのは、メイドであった。

 黒のワンピースの上に、白のエプロンを組み合わせた衣服。

 エプロンドレスを身に纏い、頭には純白のホワイトブリム。


 ワンピースの丈は長く、地面すれすれである。フリフリしているが、実にシンプルであり、実用的なメイド服であることがわかる。


「お客様。お茶の用意が……できていました」


 メイドは自分が持つ、粉々のティーセットを睥睨すると、畏まった様子で腰を折る。


「申し訳ございません。只今、新たなお茶をご用意致します」


 実に丁寧な様子で、メイドが言う。そのメイドは優雅な動作でドアノブを握る。

 直後、鉄が破壊される音が響いた。


「えっ!?」


 木造のオンボロな家には似つかわしくない、鉄製のドアノブがまるでアルミホイルかのように、あっさりとひしゃげたのである。

 ドアノブはパチンコ玉サイズに、握り潰された(・・・・・・)


「……おや、これは」


 メイドはまたもや優雅な動作で腰を折る。見事な角度でのお辞儀であった。

 その動作に、ミロンは戦慄する。


 鉄の塊を握り潰しておいて、少し粗相をした程度の反応。人間でないことは明らかである。


 ミロンの戦慄の眼差しを、メイドは何かを勘違いしたのだろうか。少しだけ嬉しそうに頬を緩めてから、姿を消した。


「な、何だったのさ、今の子は」

「残り者、でもなさそうね」

「うん。ぼくの目も、痛まなかったしね」

「『壊れ者』にも見えないわ」


 であれば、『創り者』であろうか。

 答えを知りたいのならば、直接本人に問い質すしかないだろう。


 けれども、だ。

 あの尋常ではない怪力。

 下手に質問をして気分を害せば、あの力がミロンたちへと向かうのだ。


 恐怖で、ミロンは身体を震わせた。


「兄様の言う通り、逃げるのが最善ね」

「……ネリー、きみは戦力が欲しいって言ってたけど」

「得体がしれないので、勧誘もできないわ」

「だよね。良かった」


 あれを勧誘するとなれば、会話は必須となる。ミロンは命が惜しい。下手な荒事には首は突っ込まない。


 ホット胸をなで下ろしてから、ミロンは窓の前に立った。


 窓を開き、外を見る。


「うわ。高い」

「三階くらいよ?」

「普通は高いよ」

「兄様ならできるわ」


 と、ミロンが決意を固めるよりも早く、ネリーが彼の背を押した。言葉だけでなく、物理的な意味でも。


 ミロンが窓から落ちる。


「うわああああ!」


 盛大な音と共に、ミロンは地面に叩きつけられた。口から血液が飛び散る。

 だが、それだけだった。


 ミロンは痛みで痙攣しているが、まだまだ動けそうである。


「せ、せめて押すって言ってよ」

「押すわ」

「遅いよ!」


 きょとん、とネリーが首を傾げた。意味がわかっていなかったらしい。

 そのことに愕然としつつも、ミロンはネリーを急かす。


「さ、行こう。あれに見つかる前に!」

「……兄様。それは駄目そうよ」

「え?」

「兄様が叫ぶから、見つかったわ」


 ネリーは無言で『命の灯(アラハ・ハール)』を展開した。


 毛先が向くのは、メイド服の少女の方であった。


「どうかなされましたか、お客様?」


 メイドは既に、ミロンたちと同じ目線にいた。つまり、屋外。地面に立っていた。


「少しお暇させて頂くわ」

「……それは遠慮して頂きます」

「そう」


 ネリーの髪が激しくしなるのとメイドが拳を地面に突き立てるのはほぼ同時であった。


命の灯(アラハ・ハール)』が横薙ぎに振るわれたのをメイドは身を屈めてかわしていた。そして、そのついでとでも言うように、メイドは地面を殴っていたのだ。


 花火を打ち上げたのかと勘違いする程の轟音。


 地面が爆砕する。


 ミロンは地震のような衝撃に、尻餅をついてしまう。石礫がミロンの顔面を打ち付けようと迫る。


「無駄よ」


 その石礫は、ネリーの髪によって防がれる。ミロンは痛みを受けずに済んで、ホッとした。


「お客様。今すぐ戻って、自分が淹れたお茶をお飲みください」

「嫌よ」

「いいから飲めって言ってんだ、でございます」


 メイドは口調を荒げたが、語調はまったくと言って良いほどに乱れていない。まるで機械のようであった。


 ネリーのように感情表現がズレているのではなく、何処か根本的に違う。


 ネリーが髪を逆立てる。

 メイドが拳を握る。

 ミロンが顔を青褪めさせる。


 化け物たちの戦闘が開始されようとしていた。それに巻き込まれれば、ミロンはひとたまりもない。


 汗を流しつつ、ミロンは思考する。できれば、戦闘をして欲しくない。

 ならば、どうするべきか。


「あー、そうだ! メイドさん、きみの主人は?」


 メイドならば、主人の命令もなしにお客を攻撃しないだろう。そう思っての言葉であった。


 しかし、その言葉はメイドにとっての致命傷であった。

 メイドはその場に膝をついて崩れ落ちると、その整った顔を俯かせた。セミロングの茶髪が風に遊ばれて揺れる。


「自分にご主人様は登録されておりません」

「登録?」

「自分は機人オートでございますので」

機人オート? 何それ?」


 ミロンはネリーを見る。彼女ならば何かを知っているかもしれない。そう思ったのだ。


 ネリーは口を三角にして、汗をダラダラと掻いていた。ミロンは理解する。あれはうっかり忘れていた顔である。


「で、ネリー。機人オートって何?」

「私たちは人で創られた『創り者』よ。そして、機人オートは機械のパーツで創られた生物よ」

「要するに、ロボットってこと?」

「そうね」

「それって、珍しいの?」

「いいえ。探せば幾らでもいるわ」


 ネリーは、メイドの正体についてまったく心当たりがないと言っていた。敵か味方か、メイドが何なのかもわからない。それ故の逃走であった。


 だが、メイドの正体は実に明瞭であったらしい。


「でも、おかしいわ。機人オートには主人が必ずいる筈よ」


 ネリーの指摘を耳にしたメイドは、地面を強く殴り付けた。地面が揺れる。


「自分は『欠陥品』ですので。製造と共に捨てられました」


 と、メイドは告白した。


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