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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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知らないベッド

 ミロンはゆっくりと瞳を開く。そうすれば、光が目に飛び込んでくる。


 そして、ミロン・アケディは驚愕した。その光があまりにも優しかったからである。


 ガラス平原の日光は、人を殺戮する閃光であった。容赦なく眼球を潰す、悪意ある光であった。


 だというのに、だ。


 ミロンは現在、平気で目を開くことができた。


「ここは何処?」

「起きたの、兄様」


 ミロンの隣から聞こえてくるのは、ネリーの優しい声である。その声はミロンの耳に触れそうな位置で発生していた。


 顔を音の方へ向けると、ネリーがいた。


 鼻と鼻がぶつかり合う。


「ち、近!」


 慌ててミロンは身を起こし、全力で後方へと飛び退いた。ミロンの奇行を目にして、ネリーが眠た気に首を傾げた。


「近いよ、ネリー!」

「そう?」


 ミロンとネリーは同じベッドで横になっていたのだ。

 女性に対してそこまでの耐性がないミロンは、顔を真っ赤に染め上げて、ネリーへと抗議する。


 両手を固く握り、ぶんぶんと上下に振る動きは、小動物を思わせて、非常に愛らしかった。


 ミロン自身はそのことにまったく気が付かずにいた。


「兄様、可愛い」

「何がだよう! ……というか、もういいの?」


 ふと、ミロンは思い出した。ネリーは疲労で倒れた。このような早さで回復するものなのだろうか、と。


 ミロンは『創り者』の人並み外れた身体能力を知っている。だからこそ、そこまでの疑問は覚えない。けれども、心配は拭えない。


「大丈夫よ」


 ミロンの心配をよそに、ネリーはケロリと返答した。

 顔色は普通。真っ赤なミロンと比べるまでもなく、普通である。


「本当に? 早過ぎない?」

「ええ。携帯していた食料を口にしたわ」


 そう言って、ネリーはポケットから缶詰を取り出した。中は空っぽである。


 もしや、と思い、ミロンは恐る恐る質問する。


「その缶詰、何が入ってたの?」

「人肉よ」

「うう」

「昔倒した『壊れ者』の肉」

「説明を続けなくても良いよ!」

「兄様も欲しい?」

「要らない!」

「遠慮しなくて良いわ。私と兄様の仲だもの」

「さっき知り合ったばかりだよ!」


 ぜえぜえ、とミロンは肩で息をする。『創り者』の肉体は強固であり、この程度の会話では疲労はないのだが、精神的疲労は別問題である。


 ネリーはやはりぼうっとした目で、ミロンを見つめる。

 その動作は、先程の会話がボケではなく、素で行われていたことを意味する。


 そのことにゾッとしながらも、ミロンはネリーに向き直る。


「で、ここが何処だかわかる?」

「わからないわ。気が付いたら、ここで寝ていたもの。兄様が連れ込んだの?」

「言い方悪いな! 多分違うよ」


 知らないベッドで、いつの間にか眠っていた。その事実が、ミロンには堪らなく恐ろしい。


 この世界では、何が起きてもおかしくない。いや、何が起きてもおかしい、というべきかもしれない。


 とにかく、寝ている間に何をされたのかわからないというのは、ミロンの小さな肝を冷やすには十分過ぎた。


「兄様。服を見て」

「ん?」


 言われた通りに、ミロンはネリーの服を見る。よく似合っている。


「どうしたの?」

「兄様の服よ」


 改めて、ミロンは自身の服を見た。そして、口をポカンと開いた。


 真っ赤に染まっている。そして、腹の部分が破れている。

 まるで、獣に引っ掻かれたかのようであった。


「凄い怪我だったわ。ので、寝ている間に、兄様には肉を食べさせたの」

「待って。今、何て?」

「肉を食べさせたわ」


 ミロンは突然胃に異物を感じる。気持ち悪さが込み上がってくるが、嘔吐には至らない。もしかすると、『創り者』には嘔吐の機能がないのかもしれない。


「それに、凄い怪我?」

「ええ。私も同様の状態だったわ」


 ネリーが起き上がり、くるりと華麗にその場で回った。背中がミロンへと向けられる。

 背の服が破けて、非常に目のやり場に困る状態になっていた。


 ネリーは先程まで、そのようなセクシーな服装をしていなかった。

 であるならば、ネリーもミロンと同じ状況だったということも納得できる。


 何者かにより、服ごと肉体を抉られていたのだ。

 そして、ベッドに寝かされていた。


「何が起きているのか、ネリーはわかる?」

「わからないわ」

「ネリーでもわからないのか」

「兄様、目は痛むの?」


 ネリーに指摘されてから、ミロンは初めて自身の目に注目した。

 残り者や『壊れ者』がいれば、ミロンには感知できる……可能性がある。


 敵がいるかどうかは、危険かどうかに直結する。


「痛く、ない。いや、結構前から同じくらいには痛いけど」


 ミロンはガラス平原に入ったと同時に、ずっと目の痛みに悩まされていた。それが敵の襲来を告げてきているのかは不明であるが。


「反応は強まっていないのね?」

「うん。まあ、本当に敵を察知しているのかはわからないから、信頼されても困っちゃうけどね」


 目の疼きに耐えながら、ミロンは苦笑する。ネリーが信頼してくれるのは嬉しいのだが、今のミロンを頼られても困る。


「ただ、誰かが意識を失っているぼくたちを此処に運んできたんだよね?」

「そうね」

「だったら、早く此処を出るべき、とぼくは思うよ」


 挨拶くらいしていくのが礼儀ではある。だが、今はそうも言っていられない。この世界は決定的に油断ならない。

 全てを疑ってかかるべきである。


 意識を失っている最中に、家に連れてきてくれて、ベッドまで貸して貰っているといっても、相手は信用ならない。


 それにミロンたちには謎の怪我があったのだ。信用できる理由など存在しない。


「で、どうやって出る? 窓?」

「そうだね。それが……」


 ミロンたちが脱出について相談し始めた時であった。

 木造の、今にも壊れてしまいそうなボロいドアが、音を立てて開かれたのだ。


「お目覚めになられましたか、お客様」


 メイド服を着た少女が、壊れたティーセットを片手に現れた。

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