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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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ガラス平原

 空がある。


 見渡す限り、深く澄んだ青色。そこにアクセントとして、純白の雲が漂っている。

 太陽は眩く照り輝き、ミロンたちを静かに見つめている。


 その大空の下をミロンたちは歩いていた。


 ドーム内では考えられなかった程の開放感がある。


 しかし、ミロンの表情は曇っていた。開放感とは無縁そうな陰鬱な顔である。彼が見つめるのは、一見美しい筈の大空である。


「ねえ、ネリー」

「何かしら?」

「この景色は何?」


 ただの空ではなかった。

 空を覆うのは一面の青。だが、今日の天気は晴れなどではない。

 今日の天気は……ガラスである。


「どうしてガラスが降ってきているのさ!」


 空からは絶えず、ガラス片が降ってきていた。砕けに砕けたガラス片は、ギリギリ視認できる程の大きさしかない。

 そのガラスが太陽光を反射して、七色の閃光を迸らせている。その光景は美しいとも言えた。


 青空を無数のガラス越しに見ると、何とも幻想的な光景へと変貌していた。


 けれども、当然、それだけではない。


 ミロンの目が焼ける。太陽光が何度も反射され、ミロンの目を焦がすのである。彼は眼鏡を外して、その上、目まで閉じている。

 だというのに、目が潰れそうな程痛かった。


「兄様は軟弱ね。『命ノ灯(アラハ・ハール)』」


 仕方がない、という溜息と共に、ネリーが髪の傘を生み出した。それは三百六十度、全方位を守護する要塞となった。

 蒸すような熱気に、ミロンが顔をしかめると、僅かに隙間が開けられた。


「というか、きみは大丈夫だったの? ぼくなんて、ガラスを吸い込んだせいで、凄くマズイことになってるんだけど」


『創り者』の肉体は頑強である。故に、ガラスを飲み込んだ程度で殆ど傷付かない。筈なのだが、ミロンの唇からは僅かに血液が垂れていた。


「うん。私は強いから」


 と、ネリーは胸を張る。

 ミロンもそれには大いに同意するが、思わず漏れる溜息を止められない。『創り者』とは、自分以外全員、このような人外なのだろうかと考えると、もう呆れるしかなかったのだ。


「で、合流する仲間は何処にいるの?」

「もう少し先よ。あ、見て兄様」


 無表情でネリーが近くの木を指差した。髪の砦の僅かな隙間から木々が垣間見える。


「あ」


 その木は普通の木ではなかった。何と、ガラスでできていたのだ。

 薄いブラウンのガラスが幹となっており、エメラルドのガラスが葉っぱ代わりになっている。

 透明の木には、視線を奪い去る程の美麗さが存在した。吸い寄せられるように、ミロンは木に見入る。


「ここは何なの?」

「ここはガラス平原。全てがガラスでできている場所よ」


 ファンタジーである。

 この世界は残酷で醜いことばかりではないのかと、ミロンが少しだけ安堵する。


 その時であった。

 ミロンが安堵することを咎めるかのように、潰した目が痛み始めたのである。


「っつ!」

「もしかしたら、その目は知覚系なのかもしれない」

「知覚、系?」


 目の痛みを堪えながら、ミロンは訊き返す。すると、ネリーはうん、と頷きを返してくれる。


「知覚と叡智を司る神……マナの瞳かもしれない」

「どうしてそう思うの?」

「兄様の瞳は今の所、敵襲の時に傷んでいるわ。ので」

「なるほどね」


 それが事実だというのならば、この痛みこそが能力の正体なのであろうか。

 敵の接近を知らせる瞳。便利ではあるが、地味である。その上、この痛みでミロンは碌に動けなくなる。


「瞳が潰れているから、きちんと能力が発揮できていないのかもしれない」

「でも、もうどうしようもないよ?」

「いいえ。『創り者』の肉体は簡単に回復するわ」

「目が治るの?」

「ええ。死体を食べれば良いのよ」

「死体を食べるだって!?」

「ええ」


 当然のことのように、ネリーは断言した。更に、


「異形系の残り者でも構わないけど、一番回復できるのは人タイプね」

「ど、どうして食べると回復するの?」

「私たちは『創り者』だもの」


 ミロンには、ネリーの理論が理解できない。しかし、彼女はまるで当然の、当たり前のことを言うかのようだった。

 だから彼は反論できなかった。


 黙って、首を左右に振るう。


「それは食べたくないや」

「どうして? 目が潰れていたら不便よ?」


 それはミロン自身が一番理解している。けれども、彼が目を潰したのには理由があるのだ。

 謎の激痛から逃れる為。


 現に、最初のときと今とでは、痛みに雲泥の差がある。目を潰したからなのかは不明だが。


 その痛みを生み出す目を、人の死体を食べてまで治そうとは思えなかった。


「止めとく。どうしても必要なときは考えるけど」

「そう。無理強いはしないわ」


 ネリーは優し気にそれだけ言うと、前へ進み始めた。髪の砦に触れれば火傷してしまうので、ミロンも慌てて歩き始めた。


 地面までガラスでできているのであろう。ツルツルとした感触を足で感じながら、ミロンは歩く。

 どうか何もありませんように、と願いながら。

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