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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
弑虐の王はかく語りき
103/113

それでは、共闘といこう

 もう一人のミロンは、純粋に狼狽していた。目の前の敵、つまりは遊戯の神クゼルは、もう一人のミロンでは太刀打ちできない。


 一矢報いることくらいはできるだろうが、その為に命を捨てる程、もう一人のミロンは無謀ではない。

 そもそも、ここで負けてしまうのは、もう一人のミロンの計画の主旨とズレる。


「おーけー、クゼル。取引をしようじゃないの」

「あは。何かな?」

「お前がこの身体を壊そうというのならば、僕は全力でお前の依り代を壊すよ」

「それは困るな」


 全然困った様子を見せずに、クゼルは微笑む。

 神だというのに、クゼルの容姿には特筆するべき点がない。強いて言うのならば、顔は整っている。身なりも、意外と綺麗に整えられている。


 軽薄な雰囲気と小綺麗な身なりから、ホストに見えなくもない。


 強そうには見えない。

 だが、もう一人のミロンにとって、目の前の神は絶対的強者に違いなかった。


「でも、まあ。いいや」

「良いのかい? 僕は本気で依り代くんを壊すよ?」

「だって、無理でしょう?」


 あは、とクゼルは弾けるように笑う。


「きみが幾ら全力を出そうとも、僕には及ばないんだからさ。ほら、言うじゃないか」


 クゼルは当然のことを述べるように、口を開く。


「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず。けれども、人の上に()はいる」


 あは、とまたクゼルが笑みを漏らした。それと同時に、クゼルの能力が発動される。


「回れ、廻れ。そして、踊りなよ。『遊戯ノ神(クゼル・ゼーレ)』!」


 マズイ、ともう一人のミロンは背後へと跳躍する。だが、何故かもう一人のミロンは前に進まされていた。


「性質の反転。それが僕の『遊戯ノクゼル・ゼーレ』の力さ」


 もう一人のミロンは、その能力を知っていた。魔力を支払うことにより、物事の性質を反転させる能力。

 生を死に変えることもできるようだが、使用する魔力が膨大故に使えないらしい。


 だが、それでもあの力は強力だ。


 もう一人のミロンは『弑虐ノ法』を行使して、新たな依り代に『永遠なる憑代(クゼル・ヘルツ)』を使用させる。対象はもちろん、クゼルである。

 だが、クゼルは消えない。


 その代わりに、新たな依り代の姿が消えた。


 効果の対象を反転させられたのだ。


「じゃあ、遊戯の時間だ」


 クゼルが歩いてくる。

 その歩みは遅いが、その一歩一歩がもう一人のミロンにとっては死神の宣告のようなものであった。

 逃げる訳にもいかない。


 前に出る。

 そのつもりで地面を踏み込むと、もう一人のミロンの肉体が地面に埋まった。


「あは! 『連鎖(ツェーピ・ザカース)』!」


 魔印には種類がある。

 炎を生み出す魔印、水を生み出す魔印。風を生み出し、土を打ち出し、鉱石を生み出し、力を生み出す魔印。


 その種類は多くない。

 だが、だ。


 もう一人のミロンは知っている。

 魔印とは、可能性を定める為の神の文字である。


 全ての現象、物事には名前がある。人間が決めた名ではない。神が決めた名称である。

 この世に存在する全てには、名前が定められている。


 本来、魔印とはそれを表すものだ。


 その魔印を重ねることにより、事象の未来を確定させる。


 例えば、紙に炎の魔印を刻んだとする。そして、そこから炎の魔法を取り出すということは、その紙の未来から燃えるという可能性を奪うということを意味する。


 複数組み合わせることにより、魔印は様々な現象を巻き起こす。

 例えば――草。


 もう一人のミロンの前方に、大きな蔓が顕現された。その蔓は動作の魔印を込められたことにより、自由に意志を持ったかのように蔓を動かす。

 草自体の強度はかなり低い。だが、そこにクゼルは反転の神々の死体(ホラーチャーム)を使用した。


 蔓の鞭の強度が格段に上昇する。

 もう一人のミロンへと、蔓の鞭が迫ってきた。その攻撃を避けることは不可能であろう。


 避けようとしても、意味はないだろう。

 また、動きを反転されるだけである。


 けれども、諦められなかった。

 もう一人のミロンは『弑虐ノ法』を発動して、蔦の動きに干渉しようとした。


「反転」


 一言だけで能力が返される。もう一人のミロンは、自分自身に『弑虐ノ法』を作用させていた。

 もう一人のミロンは自分の肉体を操作する。能力を使わせる能力によって、自分から無理矢理身体能力を引き出す。

 魔力をありったけ注ぎ、地面から飛び出した。


「へえ」


 クゼルは敢えて反転することをしない。笑って、もう一人のミロンを見つめている。


「遊戯の神としては、その諦めない心を応援するよ。でもね、僕は無理ゲーだ」


 クゼルが走り始めた。いや、その速度は走るなんて生温いものではなかった。

 空間を引き裂いたとでも形容するべきか。


 クゼルがもう一人のミロンの眼前に出現する。

 慌てたように、もう一人のミロンはスティレットを一閃するが、それは正反対の方へと震わされた。

 太刀筋の向きを反転されたのだ。


「はい、一撃!」


 ビンタが繰り出される。

 手のひらが優しく、もう一人のミロンの頬へと触れる。それだけで、もう一人のミロンは頬を抉り取られた。

 剥き出しの歯茎が、絶叫を上げた。


「まだだよ?」


 地面へと落下しようとしていたもう一人のミロンへと、蔦の鞭が振るわれた。鞭はもう一人のミロンの腹を捉え、そのままボールのように吹き飛ばした。


「無様なことだね」


 何度も地面を転がりながら、もう一人のミロンは歯噛みする。地力が違い過ぎるのだ。


 再び、蔦が迫る。

 だが、もう一人のミロンは動くことをやめていた。無駄な足掻きだからである。


「ゲームは得意なんだ。負けるしかない場面くらい、理解できるともさ」


 志半ばで散る運命だったのだろう。

 実に間抜けな終わり方である。現時点において、クゼルに勝利する方法は存在しない。

 何故ならば、敵は神だからである。


 神と戦をしようとするのならば、せめて同じ土俵に立たねばならない。今のもう一人のミロンは、まだそこに至っていない。


 蔓が高速で襲いかかってくる。

 もう一人のミロンは目を閉じた。それは諦めが引き起こした動作、ではなかった。直後に、勝手に手が動き出したのだ。


 慌てて目を見開くと、そこには蔦にスティレットを突き立てる己の手があった。


 もう一人のミロンの唇は、一人でに動き始める。唇曰く、


恩寵の一撃(グナーデ・シュラーク)


 圧倒的強度を誇る蔦が、内部の魔力を霧散させられ、その動きを失った。蔦の繊維が爆散する。


「こうしようか、もう一人のぼく」


 唇は未だに一人でに動く。

 もう一人のミロンの黒の長髪に、金と白が混ざり始める。


「共同戦線と行こうか」

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