また、彼らは相見える
駆け出すと同時に、もう一人のミロンは瞳の色を濃くした。
つまり『弑虐ノ法』を発動させたのである。
使用するのは、新しい依り代の『魂の内乱』である。そして、対象は新しい依り代の頭上を舞っている蝶だ。
頭上の蝶が錯乱状態に陥り、冷静さを失う。
無数の巨大な蝶が、新しい依り代に向かって落下していく。
鱗粉が吹雪のように降り始める。
「……見えない」
新しい依り代が呟く。
もう一人のミロンはその声を聞き逃さなかった。
声の場所に、スティレットを突き立てる。
そのまま、追加で『弑虐ノ法』を放った。
敵の体内魔力を使用しての、人体破壊を行おうとした。だが、剣が肉体を貫いたと同時に、『永遠なる憑代』が発動された。
貫いた感触が虚となり、敵の肉体が数歩分後ろへとズレてしまう。
「あは。ならば」
再び『弑虐ノ法』を発動する。
そして、地面に落ちてきた蝶の一頭へと手を触れさせる。
蝶の体内魔力を操って、もう一人のミロンは蝶を銃弾のように飛ばした。
蝶は命中したが、やはりなかったことにされる。
もう一人のミロンは首を傾げて、敵を凝視する。彼の観察は既に終了している。けれども、見ずには居られなかったのだ。
「なるほどね。きみの造形。また、あのゲームか」
言って、もう一人のミロンはまた蝶を発射する。
今度は蝶の身体に魔道具が装着されていた。
もう一人のミロンがバインダーの一ページを破き、蝶の肉体に埋め込んだのである。
蝶が新たな依り代に接近したと同時に、もう一人のミロンは背後へと飛びながら、『弑虐ノ法』を発動させた。
蝶に発動させた魔法は単純なものである。
ただの火。
が、結果はただの火とは一線を画すものとなった。
巨大な、世界自体が轟くような爆音が放たれたのだ。地面が揺れ、人形園の大樹が次々に倒壊していく。
無数の人形が、地面へと雨のように降り注ぐ。
「……あっは」
ミロンが起こしたのは、粉塵爆発と呼ばれる現象である。
新しい依り代の周辺には、大量の蝶の鱗粉があった。もう一人のミロンはそこに火を放ち、粉塵爆発を発生させたのである。
「さて、これは効くんじゃないかな?」
爆煙がその勢いを弱め、内部に隠した新たな依り代の姿を徐々に見せる。そこにいたのは、膝を地面に着いた青年の姿であった。
肉体は所々火傷をしているようだ。
「攻撃を僅かにでも受ければ、きみの能力は自動発動する。そして、数歩分背後へと追いやられる。だけれども、爆風は範囲攻撃さ」
現れた直後にも、当たり判定はあるよ。
と、もう一人のミロンは嗤った。
もう一人のミロンが行ったことを要約すると、自動発動の能力が反応するよりも早く攻撃を仕掛けた、ということになる。
「ま、そのダメージも、すぐに幻術が肩代わりしたみたいだけど」
もう一人のミロンが与えたダメージは、致命傷とは言えなかった。擦り傷といっても良いだろう。
渾身の一撃を殆ど無効化されたというのに、もう一人のミロンは口元から笑みを絶やさない。
何故ならば、
「僕の『弑虐ノ法』は強い。使い方を選べば、どのような敵にでも勝てる可能性を持つのさ」
言いながら、ミロンは再度蝶の弾丸を放った。
新しい依り代は、それを避けようともしない。また、攻撃の意思もあまり見られない。
クゼル系には、直接攻撃できる神々の死体が少ないからだろう。
「定石の一つとしては――」
バインダーを纏わされた蝶の群れが、新たな依り代へと向かう。
既に粉塵爆発は使ってしまった以上、もう一人のミロンには攻撃の手段は残されていない。
とでも、新たな依り代は思ったのかもしれない。それは間違えである。
蝶が新たな依り代に触れる瞬間、もう一人のミロンは『弑虐ノ法』を発動させた。
そして、魔法が発動する。岩の壁が生み出される。
その岩は蝶が生んだ訳ではない。
その岩の壁を作ったのは、新たな依り代であった。
「きみの魔力を奪い尽くすことにしたよ」
「あ」
『永遠なる憑代』は、ダメージに対して発動する。故に、ダメージを与えられない接触は許されるのだ。
つまり、蝶の勢いさえ制御してしまえば、攻撃とは見なされず『永遠なる憑代』は機能しない。
新たな依り代が目の色を変えて、その場から離脱しようとした。だが、彼は自分の意思で動けなくされていた。
もう一人のミロンが無理矢理に『永遠なる憑代』を使用させたのだ。
それにより、新たな依り代は無理矢理に背後へと数歩分動かされる。
そして、蝶が身体に触れ、バインダーに触れさせられる。その瞬間を狙って、『弑虐ノ法』が行使された。
残り者は体内で魔力を自動生成できない。それ故に、魔力を奪われるのは、『創り者』以上に辛い。
「あは。あはあは! 残念な結果だねえ!」
もがき、苦しめ。
もう一人のミロンは嘲笑う。天敵であるクゼルの配下を壊せるチャンスが得られた、と喝采を上げる。
それでも、新たな依り代は逃げようとしている。もう一人のミロンは『永遠なる憑代』を使わせつつも、接近戦を挑む。
敵の足をスティレットで貫き、能力を発動させる。敵の移動を完全に掌握し、追い詰め、蝶を命中させる。
そして、魔力を使わせた。
最早、もう一人のミロンの勝利が決まりかけた時、空から声が降ってきた。
「あんまり、僕の眷属を虐めないでよね。あは。今の台詞、神みたい」
「お前は」
もう一人のミロンが空を見上げる。
そこにあったのは、未だに倒れていない大樹の枝に、腰掛ける青年の姿。
薄っぺらい雰囲気を持つ青年であった。
もう一人のミロンは、その青年のことをよく知っていた。
「やあ――クゼル」
「うん、久し振りだね。僕だよ」
もう一人のミロンと遊戯の神クゼルが対峙しあった瞬間である。
前回書き忘れましたが、クゼル・プピレが二つあるのは、目が二つあるからです。




