所謂、再開
なんと、100話目です。時の流れを感じますね。
人形園。
無数の大樹が堂々と聳え立ち、果実の代わりに人形を生らしている。
人形と言っても、それらの種類は多種多様である。フランス人形や日本人形、ぬいぐるみや編みぐるみ。カラクリ人形のようなものまで揃えられている。
一つ共通点があるとすれば、それはどの人形も帽子を被っている点であろうか。
「エレノア。お願い」
ミロンの願いに応じて、エレノアが刃を放った。『捕食の業』により生成された白銀の光が、大樹と人形の接合部分を両断する。
上空から人形が落下してきた。
かわいらしい狐のぬいぐるみである。
ネリーが『命ノ灯』を起動して、そのぬいぐるみをキャッチする。無論、火は灯されていなかった。
ネリーが愛おしげに、ぬいぐるみを胸に抱く。
「じゃあ、食べてみようか」
「兄様?」
ウルウルとした目で、ネリーがミロンを呼ぶ。ネリーの表情は変わっていない。
しかし、その涙目が何よりも感情を物語っていた。
「じゃあ、他のにしようか」
ミロンは苦笑と共に、スティレットを構える。狙いを定め、そしてスティレットを投擲した。
武器を手放すのは良作とは言えないが、必ずしも愚策であるとは言い切れない。
だからこそ、ミロンは夢の世界で投擲術も練習していたのだ。
ミロンのスティレットは見事、人形を落下させた。今度は随分と完成度の高い、精巧な人形が落ちてきた。
再び、ネリーがキャッチし、それを胸に抱いた。
「ネリー?」
「嫌。殺さないで」
「食べはするけど、殺すつもりはないよ」
「兄様には心がないの? ……鬼畜眼鏡」
「凄い言い掛かりだね!」
ミロンは落ちてきたスティレットを回収に行く。
さっきは強度を確かめる上でも、わざわざエレノアに神々の死体を使って貰った。
しかし、強度はさほどでもないようなので、ミロンが再びスティレットを使う。
「それにしても、凄えなミロン」
「どうしてさ?」
「『操作』なしであの距離の獲物に命中させて落とすなんて尋常じゃねえぜ?」
「そうかな?」
と言いつつ、ミロンはちょっと破顔した。それからスティレットを再度投げつける。
狙ったのは、もうネリーが持っている狐のぬいぐるみであった。
ネリーがまたそのぬいぐるみをキャッチした。
「ネリー。いい加減にしないと、きみが寝ている間にさっきの人形も食べちゃうよ?」
「変態」
「何でなのさ!」
「兄様には人形を食べる性癖があったのね。私はびっくりしたわ」
ぼくもだよ、とミロンは言いたかった。
渋々、といった様子で、ネリーが狐のぬいぐるみをミロンに手渡してきた。
「これも調査の為だからね」
人形園がどのような場所なのか、危険性はないのかを確かめる必要があった。
「で、だ。問題は誰が食うかだよ」
「私は嫌よ。嫌よ」
「嫌よ嫌よも好きのうち、なんて言うけどよ。まあ、どうやらお前は普通に人形が好きなようだな」
言うツェツィーリヤだが、彼も若干そわそわしている。ミロンの目には、ツェツィーリヤも人形を愛でたがっているように見えた。
女子力の高いツェツィーリヤであった。
であれば、ネリーとツェツィーリヤに人形を食させるのは酷だろうか。
ミロンかアリア、エレノアが食べるしかない。
そう思っていると、アリアが手を挙げた。
「毒があるやもしれません。自分かオドオド女が適任かと」
「あ、あたしっすか? 毒があるのに?」
「貴女は回復できるでしょう」
「確かに。……どうせあたしなんて、毒味係しか能のない女っすよ」
言って、エレノアが狐のぬいぐるみにかぶりつく。直後、尋常ではない量の赤い液体がぶちまけられた。
それはまるで血液のようであったが、
「っ! う、うめええ、っすよ! 何すかこれ」
エレノアが歓喜の声を上げて、更に人形を齧り取った。
見た目には、エレノアが狐を食べているようにしか見えない。ミロンは静かに、現実にドン引いた。
そのままエレノアは一人で狐のぬいぐるみを完食してしまった。
口元には大量の血、に見える液体。
ミロンはハンカチを取り出し、それでエレノアの口元を拭ってやる。
「で、何味だったの?」
「しゅごっく甘かったのれっすー」
エレノアは呂律が回っていなかった。
もしや毒が、とミロンは額に汗を浮かべる。しかし、それはすぐにアリアに否定された。
「おそらくは酔ったのではないでしょうか」
「酔った?」
思い出すのは、打ち上げのときである。エレノアはあのとき、アリアの淹れたお茶で酔っていた。
慣れない刺激に、酔わされたのだ。
「甘いものでも酔うんだ……」
エレノアはどれ程寂しい人生を歩んできているのだろうか。
エレノアには念の為に、能力を使って回復して貰うことにした。
ここにはどのような危険が潜んでいるかわからない。もしものとき、エレノアが動けないのは痛い。
エレノアが回復したのを見てから、ミロンたちは更に奥に進むことを決定した。
「ツェツィーリヤ、アリアに武器を返してあげて」
アリアも武装が整った。
そして、全員が揃って一歩を踏み出そうとして、その足を止めた。
目の前に、いつの間にか人が立っていたのだ。
「なんで……」
ミロンが言葉を失う。
ミロンたち五人の視線を受けているというのに、その青年はまったく動じない。
ただ棒立ちで、マネキンのように立ち尽くしている。大樹から落ちた人形かと見紛うほど、その青年は動きを持たない。
その顔立ちは平凡を極めたようなものである。その青年からは特徴というものが一切感じらなかった。
一つ、特徴があるとすれば、その大きな眼鏡だけであろうか。
「どうして、きみが。いや、ぼくが。どうして、ぼくがここにいるんだ!」
ミロンは狼狽える。
何故ならば、目の前に現れた青年の姿こそ、昔の自分の姿であったのだから。
第一ドームの湖で姿を確認するよりも前の肉体。昔のミロンとまったく同じ容姿の何かが出現した。
「あ」
何かが口を小さく開いた。その口はとある単語を呟いた。
「ちょうちょ」




