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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
弑虐の王はかく語りき
100/113

所謂、再開

なんと、100話目です。時の流れを感じますね。

 人形園。

 無数の大樹が堂々と聳え立ち、果実の代わりに人形を生らしている。


 人形と言っても、それらの種類は多種多様である。フランス人形や日本人形、ぬいぐるみや編みぐるみ。カラクリ人形のようなものまで揃えられている。

 一つ共通点があるとすれば、それはどの人形も帽子を被っている点であろうか。


「エレノア。お願い」


 ミロンの願いに応じて、エレノアが刃を放った。『捕食の業(リリア・マーゲン)』により生成された白銀の光が、大樹と人形の接合部分を両断する。

 上空から人形が落下してきた。


 かわいらしい狐のぬいぐるみである。


 ネリーが『命ノ灯(アラハ・ハール)』を起動して、そのぬいぐるみをキャッチする。無論、火は灯されていなかった。


 ネリーが愛おしげに、ぬいぐるみを胸に抱く。


「じゃあ、食べてみようか」

「兄様?」


 ウルウルとした目で、ネリーがミロンを呼ぶ。ネリーの表情は変わっていない。

 しかし、その涙目が何よりも感情を物語っていた。


「じゃあ、他のにしようか」


 ミロンは苦笑と共に、スティレットを構える。狙いを定め、そしてスティレットを投擲した。


 武器を手放すのは良作とは言えないが、必ずしも愚策であるとは言い切れない。

 だからこそ、ミロンは夢の世界で投擲術も練習していたのだ。


 ミロンのスティレットは見事、人形を落下させた。今度は随分と完成度の高い、精巧な人形が落ちてきた。

 再び、ネリーがキャッチし、それを胸に抱いた。


「ネリー?」

「嫌。殺さないで」

「食べはするけど、殺すつもりはないよ」

「兄様には心がないの? ……鬼畜眼鏡」

「凄い言い掛かりだね!」


 ミロンは落ちてきたスティレットを回収に行く。

 さっきは強度を確かめる上でも、わざわざエレノアに神々の死体(ホラーチャーム)を使って貰った。

 しかし、強度はさほどでもないようなので、ミロンが再びスティレットを使う。


「それにしても、凄えなミロン」

「どうしてさ?」

「『操作(スポールト・ザカース)』なしであの距離の獲物に命中させて落とすなんて尋常じゃねえぜ?」

「そうかな?」


 と言いつつ、ミロンはちょっと破顔した。それからスティレットを再度投げつける。

 狙ったのは、もうネリーが持っている狐のぬいぐるみであった。


 ネリーがまたそのぬいぐるみをキャッチした。


「ネリー。いい加減にしないと、きみが寝ている間にさっきの人形も食べちゃうよ?」

「変態」

「何でなのさ!」

「兄様には人形を食べる性癖があったのね。私はびっくりしたわ」


 ぼくもだよ、とミロンは言いたかった。

 渋々、といった様子で、ネリーが狐のぬいぐるみをミロンに手渡してきた。


「これも調査の為だからね」


 人形園がどのような場所なのか、危険性はないのかを確かめる必要があった。


「で、だ。問題は誰が食うかだよ」

「私は嫌よ。嫌よ」

「嫌よ嫌よも好きのうち、なんて言うけどよ。まあ、どうやらお前は普通に人形が好きなようだな」


 言うツェツィーリヤだが、彼も若干そわそわしている。ミロンの目には、ツェツィーリヤも人形を愛でたがっているように見えた。

 女子力の高いツェツィーリヤであった。


 であれば、ネリーとツェツィーリヤに人形を食させるのは酷だろうか。

 ミロンかアリア、エレノアが食べるしかない。


 そう思っていると、アリアが手を挙げた。


「毒があるやもしれません。自分かオドオド女(エレノア様)が適任かと」

「あ、あたしっすか? 毒があるのに?」

「貴女は回復できるでしょう」

「確かに。……どうせあたしなんて、毒味係しか能のない女っすよ」


 言って、エレノアが狐のぬいぐるみにかぶりつく。直後、尋常ではない量の赤い液体がぶちまけられた。

 それはまるで血液のようであったが、


「っ! う、うめええ、っすよ! 何すかこれ」


 エレノアが歓喜の声を上げて、更に人形を齧り取った。

 見た目には、エレノアが狐を食べているようにしか見えない。ミロンは静かに、現実にドン引いた。


 そのままエレノアは一人で狐のぬいぐるみを完食してしまった。

 口元には大量の血、に見える液体。


 ミロンはハンカチを取り出し、それでエレノアの口元を拭ってやる。


「で、何味だったの?」

「しゅごっく甘かったのれっすー」


 エレノアは呂律が回っていなかった。

 もしや毒が、とミロンは額に汗を浮かべる。しかし、それはすぐにアリアに否定された。


「おそらくは酔ったのではないでしょうか」

「酔った?」


 思い出すのは、打ち上げのときである。エレノアはあのとき、アリアの淹れたお茶で酔っていた。

 慣れない刺激に、酔わされたのだ。


「甘いものでも酔うんだ……」


 エレノアはどれ程寂しい人生を歩んできているのだろうか。

 エレノアには念の為に、能力を使って回復して貰うことにした。

 ここにはどのような危険が潜んでいるかわからない。もしものとき、エレノアが動けないのは痛い。


 エレノアが回復したのを見てから、ミロンたちは更に奥に進むことを決定した。


「ツェツィーリヤ、アリアに武器を返してあげて」


 アリアも武装が整った。

 そして、全員が揃って一歩を踏み出そうとして、その足を止めた。


 目の前に、いつの間にか人が立っていたのだ。


「なんで……」


 ミロンが言葉を失う。


 ミロンたち五人の視線を受けているというのに、その青年はまったく動じない。

 ただ棒立ちで、マネキンのように立ち尽くしている。大樹から落ちた人形かと見紛うほど、その青年は動きを持たない。


 その顔立ちは平凡を極めたようなものである。その青年からは特徴というものが一切感じらなかった。

 一つ、特徴があるとすれば、その大きな眼鏡だけであろうか。


「どうして、きみが。いや、ぼくが。どうして、ぼくがここにいるんだ!」


 ミロンは狼狽える。

 何故ならば、目の前に現れた青年の姿こそ、昔の自分の姿であったのだから。


 第一ドームの湖で姿を確認するよりも前の肉体。昔のミロンとまったく同じ容姿の何かが出現した。


「あ」


 何かが口を小さく開いた。その口はとある単語を呟いた。


「ちょうちょ」

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