仲間入り
「あ」
と、ネリーが目を瞬かせる。
突然の言葉に、ミロンは僅かに身構えた。ネリーの言葉を警戒しているのである。
ミロンにとって、この世界は全てが異常である。何もわからない。
だからこそ、わかっている彼女から出る言葉は多くの場合、異常な言葉なのである。それに警戒せずにいられるほど、ミロンは雄々しくなかった。
「な、何さ?」
「私の目的を話すの、忘れていたわ」
「今更?」
「ええ」
ネリーは懐からマニュアルを取り出すと、棒読みで、本人からすればできるだけ優しく、それを読み上げ始めた。
「私たち『創り者』の目的は千差万別です」
「そうなんだ」
「生きる意味を探す者、死にたがる者、創られた意味を悩む者。人それぞれです」
『創り者』にも感情がある以上、考え方に差が出るのは当然である。
「けれども、全員が一つだけ大切にしていることがあります。それは生きることです」
「あれ? さっきの死にたがる者って人たちは?」
「私たちは死なないわ。肉体を失うことはあるけど。死にたがる者は、死に方を探してるの。だから、肉体を失う訳にはいかないのよ」
「なるほど。肉体を失うのは、永遠に生を得続けるのと同義なんだね」
ミロンの解釈を聴いて、ネリーは首を傾げた。彼女の困惑する様子を見て、恐る恐るミロンは質問する。
「同義、って言葉の意味、わかる?」
「……空手の時に着る」
「それは道着」
「……犯人が語る」
「それは動機」
「今、私が感じているもの」
「動悸?」
「うん」
えっへん、とネリーは満足気に胸を張る。目的についての話は終わったのだろうか。
「あ。まだ話は終わってない」
「そうなんだ。それで?」
「私たちは肉体を失わない為に戦うの。その為には戦力が必要だわ」
少しだけ、ミロンにも話が見えてきた。
「戦力を増やす為に、私たちは生まれたての『創り者』を救ったり、神々の死体を探しているの」
「ぼくに戦力として期待しているってこと?」
「そうね」
「む、無理だよ! ぼくは普通の眼鏡だよ!?」
ミロンは己の眼鏡の位置をカチャカチャと音を立てながら何度も直す。
「大丈夫。普通の眼鏡は『壊れ者』に立ち向かえない。兄様は強い眼鏡」
「うう」
「それに、あの目の光。効果はわからないけど、神々の死体だと思う」
「きみの『命ノ灯』みたいな?」
「うん」
「というか、アラハって何さ?」
「この世界の神様の名前。全部で十一柱いるわ」
ネリー曰く、アラハは勝利の女神らしい。
アラハ系の神々の死体は攻撃的なモノが多く、中でもネリーの『命ノ灯』は攻防一体の、典型的な能力だという。
「じゃあ、ぼくの神々の死体は何なんだろうね」
「普通。神々の死体を入手したら、本能でわかるわ」
「ぼく、そういうのはなかったなあ」
いや、一つだけ思い当たることがあった。あの激痛である。あれが本能だというのならば、何とも傍迷惑な話である。
また、神々の死体の能力も、能力名すらも判明していない。
「で、どうかしら、兄様。悪い話ではないわよ」
「悪い話だよ!」
「そう? 貴方は一人で『壊れ者』や残り者を相手取れるのかしら?」
「そういうことか」
あっさりと、ミロンは理解を示す。というよりも、少し前からそう言われるだろうと覚悟していたのだ。
『創り者』は肉体を破壊されない為に、仲間や武器を集めているという。
であれば、ネリーがミロンを助けてくれた理由など明白ではないか。戦力として期待しているから。
それ以上の理由はないのだろう。
ミロンは思考する。
このまま『創り者』たちと生きていく。悪くない考えである。ミロンの能力は未知数だが、『創り者』たちに求められている。しかし、その代わりに逃げることは許されなくなる。
一方で、一人で生きていく道についても検討する。
『壊れ者』や残り者に襲われる日々。戦闘能力もないのに次々と現れる敵。逃げても逃げても、敵は無数に現れ続ける。安心できる場所もなく、ひたすらに逃げ続ける生活。
よくよく検討して、そして、ミロンは結論を出す。前者と後者、どちらがより悲惨かを計算する。
結果、前者の方がまだマシであると結論した。
「わかった。でも、ぼく、急に戦えと言われても困るよ?」
「うん。その点は大丈夫よ」
「そうなの?」
「ええ。貴方には暫く、魔法使いになって貰うわ」
「魔法使い?」
「ええ」
ミロンの疑問に答えることなく、ネリーは歩き始める。慌てて、ミロンは彼女の背を追う。
「何処に行くのさ?」
「仲間と合流するの」
「仲間、ね。その人はぼくらと同じ『創り者』なの?」
「ええ、そうよ。私と同じ神々の死体持ちよ」
神々の死体も、中々謎に包まれた能力である。
一体、どういう原理で行使されている力なのか、ミロンには見当もつかない。
そのような異様な力を持った仲間が一人増えるのだ。それはミロンにとって吉報であった。より、身の安全が確保されることに繋がるのだから。
「では、行きましょう」
「うん」
もう一人の仲間と合流すべく、ミロンたちは歩き始めた。




