Constraint
まずはじめに、健気で一途で姉想いな嶺緒を気に入ってくれていた皆さん…
本当にすみませんm(__)m
なんでこんな感じの展開になったのか、ちゃんと理由があるんですが…
それにしてもまぁ…ね。
「俺、姉さんが好きだよ。異性として。」
あの日のクリスマス、2人で出かけたレストランで嶺緒ははっきりとそう口にした。
「えぇっ……ごめん、ちょっと待って。……何かの冗談?」
聞き間違いだろうと彼に聞き返せば、真剣な眼差しに射抜かれる。
あっ…本気なんだ。
そこで嶺緒がふざけてるわけでもなく、まじめに言っているのだと理解した。
…と同時に、どうしたら良いのはわからず、激しい混乱の中に突き落とされる。
「本気だよ。これが、俺の本当の気持ち。」
嶺緒はそういうと優しげに微笑み返した。
その表情は今まで見たことのないような、大人っぽい男の顔だった。
「…私たち姉弟よ。無理だってわかってるでしょ?」
努めて冷静に、自分の心を落ち着かせるように声を出す。
「わかってるよ。」
「結婚はできないし、それこそ犯罪だわ。」
「だろうね。」
だろうねって…
そんなことわかっているとでも言うようにあっさりと答える嶺緒。
「じゃあ…「でも、諦められなかった。」
私の言葉を遮ると、嶺緒ははっきりとそう言い切った。
そこには確かな彼の断固とした意思が感じられる。
「…答えられないわ。」
「そうだろうね。」
「じゃあ、なんで言ったの!」
なんで…そんなこと言っちゃうのよ?
そんなこと言っても、ままならない気持ちがあるってことくらい私にだってわかっている。
だけど…なんでそんなことを嶺緒が言ったのか、私には理解ができなかった。
「ごめん…でもね、この4ヶ月。姉さんと離れてわかっちゃったんだ。本当に…姉さんのことを狂おしいくらいに愛おしいって。」
そう言うと、嶺緒は悲しそうに笑う。
「でも、姉さんが他の誰かと幸せならそれでもいいって思った。俺にとっての幸せは姉さんが幸せであることだから。だけど…」
嶺緒はそこで1度言葉を切る。
そして逃げないようにとしっかりと、私の視線を絡め取る。
「姉さん。研究にかまけるフリして恋愛から逃げてるでしょ?」
容赦ない一言が私の胸に突き刺さる。
「それは…「好きな人が現れない?違うよね?姉さんは恋愛するのが怖くて逃げてるだけだよねぇ?」
口にしようとする言い訳はことごとく嶺緒に言い負かされる。
「…いくら幸せを願ったって、いつまでも姉さんが1人だと…俺だっていろいろ限界なんだよ。」
そう言うと嶺緒は目をそっと閉じた。
射抜くような視線から解放されて、少しだけ安堵の息が漏れる。
「実際、いいとこまでいった人…いないわけじゃないでしょ?」
「まぁ…」
「でも、踏み出せなかったんだ?」
「うん…」
「…やっぱり、薫さんのことを引きずってる?」
その言葉に私は喉がひくついた。
無意識に反応してしまう自分に、思わずため息が溢れる。
「…わからない。最近はあまり考えてなかったから。」
そう、本当に考えてなかったのだ。
こっちに来て4ヶ月。ようやく落ち着いてきたのだ。
考える暇なんてなかった…
「そう。」
いつの間にやら目を開けていた嶺緒が、私から視線を外した。
その横顔は、今まで見たことのない嶺緒のような気がして、何を考えているのかわからない。
「まぁ、要はなんで俺がこんなことを打ち明けたかっていうと…さっき言った通り。俺もいろいろ限界なんだ。」
そう言うと、嶺緒はちらりと視線を私に向けた。
その視線はまるで獲物を狙う狼のようで、ギラリと鋭く光っている。
「だから…宣戦布告?俺の限界が来たら、遠慮なく姉さんを狩りにいくから。」
そう言うと嶺緒は不敵な笑みを浮かべた。
本当に…あの可愛かった嶺緒がこんな顔をするなんて…
そんなちょっとした彼の態度に、かなりショックを受けている自分がいる。
「さっきも言ったわよね?姉弟でそういう関係にはなれないって。」
「そうだね…確かに外国ではそんなことしたら犯罪だ。」
そう言うと嶺緒はニコリと笑った。私のよく知る、あどけない笑顔だ。
「でもね…日本だったら、結婚はできなくても、捕まりはしないんだよ?」
嶺緒はそこですっと目を細めた。
なんとも言えない、薄ら寒い感覚が背筋を登ってくる。
「何言って…「正直、姉さんはこのまま放っておいても、研究に没頭して彼氏とか作らないだろうなぁ〜って思ってた。だから、30過ぎたくらいに「姉弟仲良く暮らせばいい」とか言って囲っちゃうのもありかなぁ〜とも思った。でもさ…そうすると、姉さんのこと全部は手に入らないんだよね。」
「嶺緒…あの…」
「姉さん、俺のこと嫌い?」
嶺緒は小首を傾げると私を試すように質問をぶつける。
「…好きよ。でも、それは姉弟として「わかってるよ。」
おずおずと答える私の言葉を、予想してたというように彼は小さく笑った。
「つまり、嫌いではない。そこで、俺は姉さんにある提案をしたい。」
そこで嶺緒は真剣な表情を見せる。
「3年。姉さんが留学している間の3年は待ってあげる。でも、その後は俺も容赦なく姉さんを捕まえに行く。そして、30歳までに誰とも結婚しないなら、俺のものになってもらう。」
「なにそれ!ちょっとそれは勝手過ぎ…「そうだね。勝手だ。でも、そこまでに誰かと恋ができなきゃ、姉さんは誰とも結婚しないって確信が俺にはある。」
そこで嶺緒は私を安心させるようにニコリと笑った。
「大丈夫。姉さんが留学している3年間。そこまではきちんと弟として接してあげる。その代わり、その後からはさっき言った通りだ。男として姉さんを落としにいくから。」
「…本気なの?」
「本気。」
「…おかしいわよ、こんなの。」
「ふふ、だろうね。でも、これが俺の精一杯でもあるんだ。ごめん。」
そう言うと嶺緒はちょっと辛そうに微笑んだ。
「俺に捕まりたくなかったら3年以内に誰かを見つける。もしくは、30歳までに俺のアプローチをかわしながら、誰かと結婚する。たったそれだけさ。」
嶺緒は「姉さんだったら簡単じゃない?」と言ってちょっと意地悪く笑った。
「この話を聞き入れないって言ったら?」
「そうだな…高校卒業後、俺は今の家を出て行く。」
その言葉に私は言葉を失った。
しかし、嶺緒は軽い口調とは裏腹にとても真剣な瞳で私を見ている。
「好きな人に何もせずに2人っきりで居られるほど、俺ももう子供じゃない。」
そう言うと「さぁ、どうする?」とでも言うように嶺緒は私にニヤリと笑った。
…そんなこと言われたら私には答えはひとつしかない。
「…受けるわよ。私だって、大切な弟を失いたくないもの。」
私のその言葉に嶺緒は満足そうに、でもどこか寂しそうに笑った。
いつの間にこんな表情をするようになったのか…
私はそんなことを思いながらもこれからのことを思って、そっとため息を吐いた。
それから3年。
結論から言おう。
全くと言っていいほど、変化はない。
いや、確かに付き合った人は何人かいた。それなりにうまくいっていたし、問題はなかったと思う。
だけど…穏やかすぎるのだ。気持ちが。
「別にいいんじゃないかな?だって、付き合うっていっても人それぞれでしょ?僕と瀬菜みたいに、partnerとして支え合うっていうのも、恋人の形だと僕は思うけど。」
いつだったか、1年ほど付き合っていたルイに言われた言葉だ。
その時はそういうのもありかなって思ったんだけど…
結局それが引っかかってしまって、彼とも友達に戻してしまった。
そう。なぜか誰と過ごしても穏やかすぎるのだ。
前まで感じていたような…
苦しいほどに求める感情が湧いてこない。
そう、いつだって私はあの頃の焦がれる思いと比べてしまうのだ。
「薫…」
なんとなしに口にした幼馴染の名前。
今では口にすることは極端に減ったけど…
それは愛おしい、大切な人の名前だった。




