Seclet of the cat(鈴花)
またまた猫回。
いや、書いてて切実に猫が飼いたくなりました。笑
その子を見つけたのは、春になりたての、まだ少し肌寒い朝のことでした。
「お邪魔しました。」
「あら、もう帰るの?」
「はい、ちょっと街でデートしてから帰ります!」
「お、おい!鈴花!!」
「すみません、祥平さん今日1日お借りしまーす!」
「あら、全然いいわよ!気にしないで!」
「…はぁ。行ってくる。」
2年近く続いている所以か、祥平さんのお母さんとのこんなやりとりも当たり前になってきた。
そんな様子をどこか呆れながら見ている祥平さんと共に、手を繋いで仲良く玄関をくぐる。
「どこ行きます?」
「そうだなぁ…っ!?」
「うわぁ!?」
急に手を引かれたことで後ろに倒れそうになる私を祥平さんが咄嗟に支えてくれる。
「どうしたんですか?急に…ってアレ?」
祥平さんに問いかけた後、その視線を追うように見た先には…
「キャリーケース?」
動物とかをよく入れる、あの手で持ち運べるケースのような物。
見るのは初めてではないけど、間近で見るのは初めてかもしれない。
そして、そのケースに貼り付けられている1通手紙。
そこには少し癖のある字で、「祥平へ」と書かれている。
「…薫?」
「にゃーん」
そんな祥平さんの呟きに答えるように、ケースの中から可愛らしい鳴き声が聞こえてくる。
すっと座り込み覗いてみれば中には…
「祥平さん!猫ちゃんです!!可愛い黒猫ちゃん!!」
そう言って振り向いた私に、彼は手紙を読みながら苦い顔を返していた。
「つまり、預かっておけばいいってことですよね?」
「…たく。いつも勝手に押し付けて行きやがって。」
一旦猫ちゃんを連れて家へと戻った私たちはリビングでその猫ちゃんを含め話し合っていた。
手紙にはしばらくの間預かってて欲しいということだけが書かれていたそうだ。
悩ましげな表情をしている祥平さんを尻目に、私はその猫ちゃんへと目を向ける。
黒の光沢のあるなめらかな毛並みは全体にシュッとした体でもふわふわと柔らかい手触りを想像される。
青と緑のオッドアイは体を丸めながらじっとこちらを覗いていて、警戒しているのかキラリと隙なくかがやいている。
ケースのドアを開けたものの、そこに入ったお気に入りらしいタオルの上で丸くなり、決して動こうとはしなかった。
「全く…どこでこんな気まぐれに拾ってきたのか…」
「どうするの?その猫ちゃん飼うならなんか買ってこないとでしょ?」
そうやって着々と話を進めようとする原田親子を背に私はまだじっとその子を見つめていた。
「…出てくるのは怖いかな?」
そう言って声をかければ、猫はなにも言わずに目を細める。
…たぶん、怖がってるわけではないのだろう。
「なんで出てこないの?」
そう言って、首を傾げてみる。
猫ちゃんは私のからふいっと顔を背けると、自分の下にあるタオルの匂いを嗅いで、小さくにゃーんと鳴いた。
…なんか、拗ねてる?
「薫さんに置いてかれちゃったから怒ってるの?」
そんな私の言葉に猫ちゃんは小さくもぞもぞと身じろぎした。
…なんとなく、図星ならしい。
「薫さん、ちょっと忙しくなっちゃっただけで、猫ちゃんのことしばらく預かって欲しいって言われたんだ。別に薫さんが猫ちゃんのこと嫌いだから離れたんじゃないんだよ?きっと、ひとりでお留守番が長いと寂しいと思って薫さんは…」
そこまで言って口を噤んだ。
だって猫ちゃんが、そんなの知ってるわよとでも言いたげにこちらをちらりと見ていたから。
そして、彼女は私と目があった途端にふいっと顔を背けた。
「…お姉さんと一緒に薫さんのこと待っててくれる?」
そう言ってそっと手を伸ばしてみる。
猫ちゃんは私の手をじっとは見ているが、逃げようとも、引っかこうともしない。
そっと、頭を撫でてあげれば、少ししょんぼりしたように大人しく頭を撫でられた。
あ、この子…今、とっても寂しいんだ。
そのままそっともう片方の手を滑り込ませ、ゆっくりとその子を抱き上げる。
「みゃー…」
猫ちゃんが小さく鳴いた。
その声は親を探す子供のようでとても切なく聞こえてくる。
「大丈夫。薫さんもすぐ帰ってくるよ。だから、いい子で待っててあげようね。」
そう言って少しでも安心するように、ケースの中のタオルをとって猫ちゃんに被せてあげようとする。
すると…
「えっ?」
がさりっという音と共に転がり出たのは少し季節外れのカイロ。
もしかしてと思って、ケースをもう一度みれば、他の数カ所にも貼ってあり、さらに小さなボールみたいなおもちゃも奥の方に転がっていた。
「…薫さんに愛されてるのね、猫ちゃん。」
「みゃーん。」
綺麗な毛並み、寒くないように備えたカイロ、寂しさを紛らわせるためのタオルにボール。
なんとなく、よく知らない人物の新たな面を見たようで、面白い気分になる。
そして、私の言葉に肯定するように可愛く鳴くこの子。
本当にこの子も薫さんが大好きなのだろう。
「ふふ。いいわね〜。相思相愛ね?」
「みゃーん。」
「ん?鈴花どうした?」
そこでようやく祥平さんがこちらに声をかけてきた。
「ちょっと猫ちゃんとお話ししてただけですよ。」
「へ?猫と?」
そう言ってまじまじと見てくる祥平さんから、猫ちゃんはふいっと顔を背ける。
どうやらこの子は猫として下に見られるのを嫌うようだ。
「ダメですよ、祥平さん。猫ちゃんだって言葉はわかるんですから、対等にお話ししないと!」
「そんなこと言われてもよ…」
そう言うと、祥平さんは困ったように頭をかく。
そして、そっと手を出しながらこう言った。
「まぁ、アレだな。薫のバカに振り回されて、お前も大変だけど、お前もいい子に待ってろよ。」
と。たぶん、接し方は間違ってなかった。
ただひとつ。
薫さんをバカにしたことで、敵認定されたのか、思いっきり猫パンチくらってたけど。
そんな猫ちゃんを見ながら、祥平さんは「お前、警戒心強いし、敵だと思う相手に容赦なさすぎだろ!!」とか叫んでいたけど。
俺ばっかりは、祥平さんが悪いと思う。
照れ隠しなんて言葉は猫ちゃんだって覚えてないんだから。
それから1年以上の再月を経て、原田家に猫ちゃんは馴染んできた。
ちゃんとした名前がわかった今、声をかければ、可愛らしく返事をしてくれる。
私限定だけど。
「…おい、鈴花。いつもシーナ甘やかして抱っこしてなくていいんだぞ。」
「いいじゃないですか。可愛いんだし。ね?シーナ?」
「にゃーん。」
そう言って問いかければ、シーナは私に可愛く鳴いた後、鼻で笑うように祥平さんを見ている。
あれから1年経ちますが、一向に祥平さんに懐く気はないよう。
「この…薫のやつ覚えてろよ!」
などと言う、祥平さんの大人気ない、可愛らしい一面を見られて私が喜んでいるのはシーナと私の秘密。
そして、彼女もなんだかんだ祥平さんが知らないだけで、祥平さんが寝ている時だけ隣で添い寝しているのも知っている。
全く、ちょっとまどろっこしいのは名前が影響してるのかしら?
「シーナ。」
「みゃーん。」
「いい名前つけてもらったねぇ〜」
そう言って頭を撫でれば、主人を褒められたとわかったのか喉をゴロゴロと鳴らしている。
「性格はそっくり女王なのに、いい名前とか言えるのか?」
「シャー!」
「なんだよ。事実だろ?」
そうやって喧嘩する2人を眺めながら、私はそっと微笑む。
まぁ、似てないところがあるとすれば、祥平さんと薫さんに甘えるのではなく、薫さんを溺愛しているところだろうか。
しかし、彼女も根本的には瀬菜さん同様ツンデレ気質なのには変わらない。
「まぁ、まぁ、祥平さん。シーナにムキになってどうするんですか?」
「…わかってるよ。」
「わかってるなら、シーナをお散歩に連れてってあげてください。たぶんあの倉庫とか、カフェなら薫さんの匂いがして喜びますから。」
そう言ってニコリと笑えば、祥平さんも「そうだな」と笑い返してくれる。
ちなみに、ここだけの話。
シーナがあの茜さんに恋しているのは秘密です。
ちなみに、シーナの中でのそれぞれの感情。
薫→大好きなご主人 鈴花→理解者 祥平→僕(笑)
茜さん→愛しの人 瀬菜→悪友(一緒に住むようになってから)
ここでちょっと思いついた番外編。
時間軸は瀬菜たちがくっついてから1年後。
茜「おう、シーナ。元気にしてたかぁ?」
シ「みゃーん(めっちゃ甘い声)」
茜「はは、相変わらずお前は、甘えん坊だなぁ〜」
シ「(ごろごろ)」
薫「…」
瀬「なによ、薫。怖い顔しちゃって。」
薫「…いや、なんか。俺の大事な恋人を1人取られた気分。」
瀬「はぁ?なにいってんの?」
薫「だってよ…かなり愛情注いで可愛がってたのに…あんまりじゃね?」
瀬「…わからなくないけど、2年も放置してたんならしょうがなくない?」
薫「それでもやなもんはやなんだよ!なんか…(瀬菜が茜に取られてたらこんな未来なのかと思ったとか誰がいえるかよ!)」
瀬「…」
茜「じゃあ、薫。瀬菜ちゃんくれるなら代わりにシーナ返してあげても…」
薫「断る(即答)」
瀬「ぷっ。あんた必死すぎ…」
薫「悪いかよ。」
瀬「別にぃ〜」
なんでこんなに猫で話が膨らんだのやら。
次話からはまた恋愛要素の話に戻ります!




