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魚のうろこ  作者: HB
2/2

二部

途方もなく歩いていると、私の頭上にとんでもないものが現れた。

これは!

なんと!!

彼女だ!!!

私の頭上には巨大な看板がそびえ立っていた。

下ばかり見て歩いていたので気が付かなかった。

その看板の中に、彼女がいた。

あの日と同じ微笑みで。

信じられないことに、彼女は人間界では超有名な歌姫だったのだ。

私は、なんという人に恋をしてしまったんだ。

しかし諦めたくない。なんとしてでも彼女に会いたい。会って気持ちを伝えたい。

だが。

ああ。どうすればいいのか。

そこへ一人の人間の少女が近付いてきた。


「悲しそうな顔。どうしたの?」


私は絶望ついでに、彼女に話した。

筆談で。

私が実は人魚であること。私の生い立ちのことも。


「まあ、なんて孤独な人生」


(いいえ、私は孤独ではありませんでしたよ。

男は私一人でしたが、周りには女が腐るほどいましたから。ハーレムというやつですよ)


「いいえ、あなたは集団の中にいながら、孤独だったのよ」


そうなのだろうか。

考えた事もなかった。


(ところで、君はどうして私に話しかけてくれたんですか?

見ず知らずの男に)


「だって、あなたが泣いていたから」


私は涙を流してはいなかった。

なのにどうして。


(泣いていた?)


「あなたの心が」


(わかったぞ、お前は魔女だ!私の心を読んだな?)


「まあ!なんて酷い事を言うの、あなたは」


少女はそう叫ぶと、泣きながら走り去っていってしまった。

悪い事をした。

あんな可愛らしい少女が、魔女のはずはないのに。

私はさっき少女に言った事を後悔した。

後悔。

そうか、やはり後悔だ。

私はあの時、声と引き換えに脚を貰った事を今、後悔しかけているのだ。

どうしようもない初恋。

手に入らないと悟った途端に、後悔の波が押し寄せてくる。

とんでもない選択をしてしまった。

熱い想いに任せて、後先考えずに私は私の全てを捨ててしまった。

ケンタウロスは鱗とヒレを欲しがっていたが、それを手に入れた後で、やはり後悔しただろうか。

やめておけ。

私は今、後悔しているぞ。


私はあの魔女を探す為に、海岸へと引き返した。

元に戻してくれ。

彼女が手に入らないのでは、この人間界に生きている意味はない。

元の人魚の国へ帰りたい。

それから、そうだ名前だ。

名前を返して欲しい。あなたはどうして名前まで奪ったのだ。

どこにいる!

出て来てくれ!!

しかし声を奪われた私の叫びは、魔女に届くはずもなかった。

涙を流しながら海岸を見渡していると、さっきの少女がこちらにやってくるではないか。


「ほうら。やっぱり泣いてるじゃない」


(今は泣いてるけれど、さっきは泣いてはいなかったよ)


………。


(いや、そんなことはどうでもいいんだ。

さっきはごめんよ。私は君に酷い事を言ったね。

本当にごめん)


「いいのよ」


少女はにっこりと微笑んだ。

私も微笑み返す。


「名前がなくても、あなたはあなた。

そうでしょう?

声が出なくても話ができるように。

名前がなくたって、あなたは涙を流せる。そうやって微笑む事もできる。

それが、あなたよ。ちがう?」


また、涙が溢れた。


(君、裸足だね)


私は涙をごまかす為にうつむき、そう言った。

さっき会ったときも裸足だったろうか。


「あなたもね」


私達は手をとりあい、砂浜を歩き出す。


(ケンタウロスの所へ行ってみようか)


「どうして?」


(なんせ彼らは、靴の生産量が人間の二倍だそうだから。きっと君に似合う綺麗な靴が見つかるよ)


例の、かつて陸に上がった人魚は、きっと幸せに暮らしているんだと思う。この地上のどこかで。

そうだ、彼らにあったら教えてあげよう。

小人には、与えてばかりじゃなく貰うことも覚えなければならないことを。

ケンタウロスには、周りが変わるのを待つのではなく、自分達が変わろうとするのも必要だということを。

そして。

小人が、私に服をくれたように。

ケンタウロスが、靴の生産量の話をしてくれたように。

私も彼女に、何かをあげたい。

そう思った。


「そうだ!私があなたの名前を考えてあげてもいいわよ」


また、笑った。


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