第1章
放課後。俺は、風見に誘われて学校の近くのレストランに来ていた。
「新しいレストランがこの近くにできたらしいから、一緒に行かないか?行ってくれるよね?よし、行こう!」と誘われたのだ。超一方的。せめて俺の意思くらい確認してくれよ。絶対断るから。
風見がレストランの扉を開けると、そこにはログハウスのような木を生かした装飾がされていた。
「お客様何名でしょうか」
「2人です」
「それではすぐご案内いたします」
女性の店員は風見のイケメンスマイルに動揺することなく仕事をこなしていた。さすがはプロっすね。メイドカフェとかだったら「ご主人様ったら、イ・ケ・メ・ン♡」とか言われてちやほやされるんだろう。ぶん殴りたい。
「こちらのお席へどうぞ」
案内された席に風見と向かい合わせとなる形で座る。風見が窓側、俺は通路側へと腰掛けた。
「こちらがお水とメニューになります。ごゆっくりどうぞ」
店員が最後に軽く礼するときに風見も礼をしてるよ。これがイケメンか。そろそろ俺の右手が風見の頬にグーで飛んでいきそうなんだが。
風見がメニューを手に取り、俺にも見えるように開いた。
「どれがいいかな~」
風見は1人でそんなことを言いながらメニューを眺めているが、正直俺は別にどれだっていいと思っている。どうせどれを選んでも俺の舌では味を雑にしか感じ取れないので、だいたいどれ食べても美味しいと思ってしまう。ただし、コーヒーを除く。あれ苦すぎだろ。人間の飲み物ではないと俺は勝手に思い込んでいる。
「しゅーくんは何にするか決めた?」
「まあな」
メニューの表紙に「当店イチオシ!」として書いてあった3種のチーズハンバーグ定食が美味しそうだったので、俺はそれにしようかと思っていた。
「さすがしゅーくん、決めるのが早いねえ。僕はまだ迷ってるんだよね」
そんなこといちいち言わなくたってわかるっつーの。あまり他人に気を遣いすぎると迷惑だと思われるぞ。
風見は何回もメニューのページを行ったり来たりしながら、「うーん」とか「どうするかなあ」とか言っていた。決断は早いほうが人に嫌われないと思います。
「よし、僕も決めた」
ようやく決まったらしい。遅すぎて帰ってやろうかと思ったぜ。
風見が店員を呼び、俺は3種のチーズハンバーグ定食を、風見は麻婆豆腐たっぷりハンバーグ定食を注文した。風見って見た目の割に結構ボリュームあるものを食べるんだな。それだけ食べるくせに無駄に美しいルックス。どうせ女子に「羨ましい~!!」とか言われてハーレムを形成するのだろう。何で世の中にはこんな奴がいるんだろうな。いくら何でも不平等すぎる。
俺だって一度くらい女子に囲まれてきゃっきゃうふふしてみたいよ。俺に突然変異とか起きないかなあ。
「さて、本題に入ろうか」
風見は先程までのイケメンスマイルから真剣な表情になり、声のトーンを少し落としてそう言った。
このときの俺には風見が何を言っているのか全くわからなかった。
「今日の生徒交流の時間に、僕はしゅーくんと握手をしたよね」
「ああ」
「その時に、何か見えなかったかい?」
風見のその一言で、俺はあの時のことを思い出す。確かに俺には青い光が見えた。その時には風見は特に何も言ってこなかった。だから、あの光は見間違いだと俺は思っていた。
だが、今風見が質問していることの内容がその光のことだとしたら、風見にも光が見えていたということになる。
本当に風見が光のことについて質問しているかどうかはわからない。が、握手したとき、他におかしな点はなかった。
ならば、おそらくは風見は光のことについて質問している。そして、何かしら光についての情報を知っている可能性が高い。
だから、俺はこう答えた。
「強力な青い光が見えたが、何か光について知っているのか?」
「僕が何か光について知っている、というのを確信しているみたいだね。確かに僕は光について、というよりは、光を発する人たちについて知っている」
「風見が知っていることを教えてくれないか?」
俺はただ興味本位でそんなことを口走っていた。この時は、風見が腹立たしいイケメンだということは全く意識していない程に、光について知りたかった。
「あの光は僕も正体はよくわからなけど特殊な光で、一部の人たちにしか見ることはできないんだ。僕たちは、その能力をよくHISVAと言ったりする」
「ひすば?何かの略か?」
「すまないが、僕はただそう言われているということしか知らないんだ」
意外とこいつでも知らないことというのはあるらしい。何でも知ってそうな顔してるのに。顔だけ人間め。
「話を戻そう。つまり、まず僕としゅーくんはHISVAという能力の持ち主だということだ」
「で、それが何かあるのか?」
「HISVAという能力を持つ人たちの中で、さらに光を発して特殊な能力を使う人たちがいるんだ。僕たちは、彼らのことを『超能力者』と呼んでいる」
風見はコップを手に取り、水を一口飲む。それから、こう言った。
「僕と握手をしたとき、しゅーくんは何かしらの能力を使って光が出たんだ。つまり、しゅーくんは超能力者なんだよ」
「俺が!?」
超能力者なんてファンタジーの産物で現実にはいないと思っていた俺の常識が覆された瞬間である。というか、信じられないんですけど。
「まあ、かく言う僕も超能力者なんだけどね」
「じゃあ能力を見せてくれよ」
「それはできないんだ。あの光、超能力光と言うんだが、あれは確かにHISVAを持っていないと見えない。でも、超能力そのものの能力は普通の人間にも見えてしまう上に、超能力者がつかえる能力には属性があって、その能力しか自分では使えないんだ。例えば、紙をお金に変える超能力者がいたとすると、その能力を発動するときの光はHISVAを持っている人にしか見えない。けれど、紙がお金に変わるという瞬間は全員見ることができるんだ。しかも、その超能力者は紙をお金以外のものに変えることはできないんだよ」
「つまり、風見の能力はここでは披露できないということか」
「まあ、そういうことだね」
そう言った直後、俺たちのテーブルに料理が運ばれてきた。
「さあ、食べようじゃないか」
風見にわざわざそう言われなくたって食べるつもりだよ、と心の中で思いながら実際には無視した。
思っていたよりもハンバーグはジューシーで美味しく、俺はぺろりと平らげた。風見もあんなボリューミーなものを綺麗に完食していた。
会計を済ませ、レストランの外に出てから俺と風見は別れた。別れ際に風見が「また明日」とかにこやかに言ってきたので軽く手だけで返事をしておいた。
◇ ◇ ◇
俺は家に帰ってから、自室の布団で仰向けになっていた。
「俺、超能力者になったんだな…」
そんな独り言を言っても全く実感が湧かない。超能力者だからといって、何をすればいいのかすらわからない。
考えても仕方がないことなんてわかっているのだが。
疲れていたのか、俺はそのまま眠りに就いてしまった。