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プロローグ

 4月。

 テレビではリポーターが「見てくださいこの満開の桜を!」とか言っているが、俺が見ている道路脇の木たちは皆枝にはまだ何もつけておらず、まあ木が冬だ冬だと主張しているようだ。

 それもそのはず。ここは北海道。天気予報によると今日の最高気温は8度、最低気温はマイナス2度だそうだ。木だけでなく気温的にも真冬なので、しっかりほかほかぬくぬくの服装ではないと寒くて外になど出れはしない。

 つーか道路脇の雪がまだ残ってるし。北海道は明らかに冬だ。まあ、亜寒帯気候なので区分上は長い冬と短い夏しかないのだが。

 寒い中、俺はあるところに辿り着く。入口と思われるところには「北祥高等学校第47回入学式」と書かれた看板が立っている。

 もうおわかりだろう。俺は今日からこの学校の一員となるのだ。

 1か月程前には卒業したばかりだというのに、またすぐ学校に行かなければならない日が来てしまった。安息などありゃしない。

 今の時代、「学校行きたくね―」とか言っている割には皆高校に進学するのな。確か進学率は90パーセント超えてたはず。

 まあ、俺も何となく高校に進学した1人である。だって、中卒で就職できるところほとんどないし。

 俺は玄関で下駄箱番号、教室を確認し、下靴を脱いでピカピカの上靴に履き替え、下靴を先程確認した下駄箱に仕舞う。学生ならばほぼ毎日行う恒例行事みたいなものだ。

 俺の教室は1年4組。今年度は7クラスあるので、丁度真ん中のクラスということになる。

 俺が教室に入るとまだ早いのか、人の姿が(まば)らであった。

 黒板に貼ってある座席表を確認し、自分の席に座る。

 にしても暇だな。早く来ると良いこと何もなかった。入学式でわくわくしたとかそういうのじゃないんだからね!

 ぼーっとしていると、5分程で教室の座席がほとんど埋まった。俺が特段早いわけではなかったようだ。

 教室の扉がガラガラ。先生のご入場です。女性だった。しかもめっちゃ美人。惚れてもいいですかね。…駄目か。

 美人先生は教室全体を見回す。

「みんないるようですね。私は担任の新沢です。よろしくお願い致します」

 美人先生は礼儀正しく自己紹介をし、それから入学式の注意などを話していた。絵面が美しい…。

 その後、廊下に整列し、体育館へと入場。入学式は開始された。

 校長やその他のお偉いさんたちが長々と話をする。新入生側にとってみると、正直あまり祝われている気がしない。だって話聞いても綺麗事しか言ってないから、つまらないのだ。結果、聞き流すという選択肢しか残らないわけだが、そうすると時間の経過が遅く感じられる。そうなると考えることは1つ。早く終われ。まじで尻が痛いから。

 入学式は早く終われを念じているうちに終わった。何回念じただろうか。仏様には熱狂的な信者だと勘違いされたかもしれない。

 教室に戻り、美人先生が教材の準備などについての説明をしてから、

「じゃあ、皆さんに自己紹介をしてもらいましょう」

 新入生の逃れられない運命である。小学生の頃は何も考えずわーきゃー言っておけば自己紹介になったものだが、高校生ともなるとだいたい名前と「よろしくお願いします」の言葉だけである。あとはチャラ男っぽいやつが一言添えたりするくらいか。

 俺も他人と同様に自己紹介をした。

蓮水(はすみ)(しゅう)です。よろしくお願いします」

 拍手パチパチ。まあ心から拍手しているのは一部の女子だけだと思う。

 俺の後ろの人々も順調に自己紹介をし、どうやら時間が余ったらしく、美人先生の「残りの時間は是非とも交流をしてください」という一言により、生徒交流の時間が設けられた。

 開始直後に俺は目の前の席の男子に話しかけられた。

「はじめまして。僕の名前は風見(かざみ)光輝(こうき)。君の名前は?」

 イケメンスマイルを添えながら問いかけてくる。白い歯がキラーン。俺は思った。こいつ、俺の苦手なタイプだ。

 こういう奴は全員を平等に扱う。全員に対し同じように振る舞う。だから、本心が読みづらい。

「蓮水秀だが…」

 たいそう投げやりに答えていたと思う。だが、そんな俺の返答も気にせずに風見とやらは続ける。

「よろしくね、しゅーくん」

 そう言って、風見がイケメンスマイルをしながら手を差し出してきた。業務提携の合意でもしたわけじゃないのに。

 つーか、既に馴れ馴れしく呼んでくる時点で俺はもう無理。握手してさっさと終わらせよう。そう思って風見の手を握り返した瞬間。

「え…」

 俺は自分の目を疑った。俺から風見の手に一瞬だが青い光が出たように見えたからだ。

 静電気という可能性も考えたが、あいにく静電気が発生しそうな環境ではない。では何だ。俺の見間違いか?

「ん?どうかしたかい?」

 風見は俺の様子を気にしているようだ。こいつには先程の光が見えたのだろうか。だが、何も言ってこないということは見えていなかったのだろうか。

「いや、何でも…」

 なるべく平常心を装って俺は返答した。

 しかし、先程の光ははっきりと見えた。しかも相当強力な光だった。クラス全員は普通に交流をしている。普通ならばあの程度の光が見えていれば1人くらいはこちらを向いているはずである。おそらくは俺の見間違いか。そう思ったとき、丁度美人先生から生徒交流終了のコールがあり、風見は「じゃあ、また」と言って前を向いた。


 結果から言っておこう。

 あの光は見間違いでも何でもなかった。

 そして、この時から既に俺の高校生活は狂い始めていた。

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