年の瀬に手袋にさよならを
年の瀬なのに、手袋が逝った。
もう高校も二年のとき、いや、あれは高校を受験しようとした年の前の年のことだから、中学二年生のときに買ったもののような気がする。
もともとはグリーングレーの淡い綺麗な色をしていたはずだったのに、今ではどす黒く汚れて汚っこい。
新しいものを今年こそは買おうと思っていたのに、彼女に贈り物ばかりあげていて自分のものを何にも買えてない弟が可哀想に見えて、仕事の帰りに買って、家に帰って弟にくれてやったことがあった。
今年の、わりかしここ1、2週間のことである。
そのせいか自分に買う気がイマイチ起きず、なんとはなしにそのまま古いものを使い続けていたのだが、ついに死んだ。
指の部分が、突き抜けてしまわれた……!
別にそんなに高いものじゃなかったような。
1280円程度のものだったから、むしろ安い手袋なのに。
これをつけてどこまでもいったもんだから、これがないともうどこにもいけないような気がしてきさえする。
「お疲れ様……ありがとうな」
そう言ってゴミ袋にそっと載せる時、冷えているはずの外側のナイロン生地がほんのりあったかく感じたのは、たぶん、気のせいだけじゃなかったと思いたい。
「ヌシサマ、なに見てんのー? うあ、ばっちいてぶくろ」
うげっと顔をしかめるサチの顔に、かさりとくたびれつつ微笑んだような音を立てて、袋の底に吸い込まれて行った手袋がなんともいじらしくて、
「……明日の休みには、手袋を買いに行こう」
と、予定を決めてみたりする犬神であった。
「ヌシサマ余裕ないんじゃなかったの?」
……あんまりうるさい子にはおやつに買ってきた苺大福あげません。
「んぐっ。静かにうる! しぅか! ね? しぅか!」
ばふっ。むぐむぐ。
「ハハハ〜サチは偉いなあ」
「え、えへへ〜」
「偉くていい子でクソガキなサチに免じて、今回はデコピンくらいで許してあげようね〜」
バチコーン。
「なんでえっ」
「アッハッハッハッハッハッハ」
騒がしいって、こういう時は嬉しいもんかもな。
大切な手袋、長いことほんとうに、ありがとう。
安らかに眠れ。