一.
あたたかい……。
だれか、手を握ってくれているの?
ああ、そうか。
かえってきてくれたのね。
また、あそぼう。
幼いあの頃のように――
「……キールド」
「お目覚めでございますか」
はっとして瞬いた。
目に映るのは、穏やかそうな初老の男。少しの笑みを湛えて、わたしを見下ろしている。
「ご気分はいかかでございますか」
なだめるような声だった。
「すこし……だるい……」
先ほど覚醒したはずなのに、応えは存外頼りないものだった。
「左様でございますか。どこかお痛みはございますか」
いいえ、と応えるかわりにふるふると首をふった。
「脈は安定なさってございます。長の行程のお疲れかと存じます。今少しお休みになれば、すぐにもご回復あそばされましょう」
「……脈?」
ならば、先ほどの温もりはこのかたのものだったのね。ぼんやりとそう思っていたのを、穏やかな声が遮った。
「恐れながら、先ほど御身をお清め申し上げたよしにて。……何事も、どうかご案じ召されませぬよう」
……何事も……?
その刹那、今度こそ鮮烈に目覚めた。
「――――っっ!!」
勢いよく起き上がろうとして、ひどく焦った様子の声に止められた。
「なりませぬ! 突然にこのようなことを申し上げることをお許しください。ですが、どうかお心安らかに。なんのご心配も要りませぬ」
そんな……。
そんなこと……。
ひゅぅ、と喉が鳴る。
くるしい。
胸が、くるしい。
ああ、そうか。
助かったのだ、わたしは。
助かって、しまったのだ――――。