十五.〈蹟.四〉
「あの地に、お帰りになるのですか」
壮齢を幾分過ぎた侍医は、そう青年に訊いた。
「もともと逃げられるものではなかった。戻って、祖国を再建する。どれほどかかろうとも」
侍医は、青年の持つ笛を見つめて言った。
「あの国で、あなた様と王女殿下に直接お目見えしたことはございませんが、あなた様がお吹きになる笛の音は、いつも聴こえてございました」
お優しい、慈しみあふれる音色でございました。と懐かしむように目を細めた。
青年は視線を笛に落とした。
「ぼくは優しさも慈しみも持っていない。ただ浅はかで、傲慢で、それが比べようもないくらいに愚かだ」
「いいえ。わたしはそうは思いません。あなたはお優しい。あなたが、王女殿下をどれほどお思いでいらっしゃるか。これまであなたを拝見していてわからないはずがございません」
青年は笛を硬く握った。
――――ラヴェンナ。君にこの思いを伝えることができない。心がこわれるほどの喪失を負わせてしまうかも知れないから。
けれど、ぼくの望みは君だ。君だけだ。
君が生きてくれるなら。どんな慮外にもぼくはなろう。
「キールド様。どのような償いも後悔も、誰もが負っているのです」
その言葉に、いつの日も変わることのなかった少女の笑顔が浮かぶ。
いつかに、少女に綴った手紙。
彼女は、覚えているだろうか。
暁も木漏れ日も落陽も星影も
めぐる光はいつも
あの子とともに。