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落日の音  作者: もぃもぃ
13/22

十二.〈蹟.一〉

〈蹟.一〉

(せき.いち)とお読みください。



「この者に、覚えはあるか」


 灯火に揺れる影が、音もなく壁に這う。

硬質な声は冷たい壁に翻ってなお、冴え冴えとして響いた。

氷のように、瞳は射る。


「――――……」



*** *** ***


「その、旗は……」

固く手に握られた、汚れた長い柄を見つめた。

「この最上の塔のものだ」


 ああ。

落ちたのだ。

城は、落ちた。


「……っ」

短剣の柄を握りしめた。

ざらついた砂の感触が手のひらに伝う。



その、刹那。



「――――なにをしているっ!」

「やめてやめてっ」


 はなして。

 おねがい。



 あなたが笛を吹くときは 争乱のとき

 ただ鎮魂の音を奏でるために


 音が、しない の なら



「音は……」

「――――ラヴェンナ」

「……っ」


やはり、そうだったの。


この名を呼ぶのが、キールド。あなたでないのなら。


「ラヴェンナ」

突き刺さる。熱く、乾く。

「終らない。まだ、終わらない」




 風 が

唸るような烈風が、巻く。

砂塵を。衣を。髪を。

風が、弔鐘を鳴らす。


今はない、落ち葉も 手紙も

すべて 浚う。



 ――たすけるから 君を かならず――


*** *** ***


 氷のように、瞳は突き刺さる。

「この者に、覚えはあるか」

「――――……」

「ラヴェンナ」


 なんて、似た面差し。

どうして、春の瞳ではないの。

「ラヴェンナ。終りだ。今度こそ」


 声が、胸に 刺さるのは

 氷のように 響くのは


「この、者は――――……」


同じに。

失って、しまったから。

このひとも。


「キールドから国を。すべてを」


 奪った者。

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