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落日の音  作者: もぃもぃ
11/22

十.

 


 身体を刺すような風が、あたたかかったものの名残すら、うばい去る。

ただ轟々と音は流れ、数瞬まえの輝きをまた、連れてゆく。

恐れを知らぬ弔鐘だけが、惨禍の嘆きをなでていった。


「……キールド」

――――音が、きこえる。

あなたの、音が。

でもとおい。

ずっととおい。


 かなしみの音は、いつ、かえるの

 おさなき音色に、いつ、かえるの



*** *** ***


 くずれ落ちた景色に、立ち尽くした姿が滲んで、映った。


「――ラヴェンナ、ぼくはもう吹かないよ。かなしみの笛しか、吹かない」

痛みに沈んだ瞳は、伏せられた。


「鎮魂の笛を、奏でよう。祖国を、取り戻すまでは」

「……とりもどす……?」

「ぼくには、それしか赦されない。いや、それすらも、きっと。けれど」

「わからない。キールド、わからない。どうして?」


「――ラヴェンナ。泣かないで」

ひどく冷たい手が、頬をすべった。


 ぬくもりは、どこへ、いったの

 あの、あたたかい、ひかりは



*** *** ***


 あたたかい……。

なぜ?

どこに、あるの?

いつ、かえるの?


あの、輝きに――――



「――――ラヴェンナ」

目をあけた刹那に、真冬の夜空のような瞳とかち合った。

「陛下」

「探した。なぜ、あのような場所に」

白い息が舞った。

間近にある熱を急に感じ、思わず身じろぎした。知らぬ間に、外套でくるまれていた身体に気づいた。


「……申し訳ありません。すぐ、戻るつもりで……いつの間にか、うたた寝を――」

「――いつの間にかでは、ないっ!」

深閑な夜の冷気を、怒声が破った。

「かような時候に。なにを考えている」

見上げた瞳は、厳冬の星影のように、冴え冴えと光る。

「大事に至れば、いかがする」

「……大事? 大事とは、なんですか」

懐に、手をあてる。かたく手を、とじる。


「なぜ、いつもそのように――――諦めている」

「――――諦めている? わたしが?」


この声は、なぜ、こんなに響くのだろう。

冷たく、胸に刺さるように。


「諦めているだろう。――――なぜ、キールドがその笛をわたしに託したと思う」

「――――っ! あなたはっ。あなたは、なぜ……っ。なぜなのです」


なぜ、わたしに、構うの。

なぜ、わたしに、触れるの。


「わたしには、こうすることでしか――――……」



 乾く

 ひどく

 一体、なにが





――――ぼくには、それしか赦されない。いや、それすらも、きっと――――


――――後悔を置き去りにしてなお、償いすら、赦されることはかなわず――――





声が木霊する。

迷い込んだ落葉が木霊する。

「わたしはなにも、望んでいません……っ」

懐の笛を、握りしめる。



音は、とおい。

失くしてしまった。


春の瞳が、伏せられた、あのときに。


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