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機械生命体【隠】  作者: グラサン太郎


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2/2

対策部編2

キーンコーンカーンコーン

深夜にチャイムが鳴る。

???「これがなりおわったらはじめるね。」

古い時計の秒針が無理矢理動く音と、秒針より速い心臓の鼓動が鼓膜に届く。

雲から顔を出した月の光が、廊下の両端にいる二人の頬を撫でる。

アサヒ「…」

カーンキーンコーンカーンーー…ブツッ。

互いに抜き身の刀を手に全力で走り出す。

全速力に到達する前に衝突する事を理解している二人はそれぞれの方法でぶつかろうとする。

一方は相手のテンポをずらし、刀に体重を乗せるため途中でわざと速度を落とし、

一方は…



アサヒ達四人はごちゃごちゃなホワイトボードの前の、誰も掃除をしないテーブルで昼ご飯を食べながら会話をする。

博士「明らかに!こいつらの目的が増えている!」

ダン「確かに…腕の形が殺しと捕縛に適した形の2種類になってる」

アオキ「間に合わなかった場所もあるだろうから対応しないといけないのに…」

博士「混乱を招くからってまぁーだ公表するのを渋っているのかアホどもは!」

ダン「噂になっているだけまだましか…」

アサヒはあの時のことを思い出す。

動かない【隠】を見つけた対策部、襲われた人、そして…


プルルルル プルルルル プルルルル

アサヒ(電話?無線じゃなくて?)

一番近くにいたアサヒが受話器を取る。

アサヒ「はい捜査一課です。」

機械生命体【隠】対策部は公にされていないので名乗るときはそうしている。


ダン「そろそろ別の部署作らないといけないな」

アオキ「国からの支援はなくなるだろうけど動きやすいのは外郭団体か個人か…」

博士「わしは移動できんぞ。」

電話相手の話を聞いているアサヒを見ながら会話を続ける三人。

博士「あてはあるのか?」

アオキの発言に興味が湧いて聞く。

アオキ「ぜーんぜん」

情報が規制されている状況でその様な事は夢のまた夢の話である。

アオキ「私達4人で対応、これ以上発生すると何処かで崩壊するのは確実。」

ダン「何より博士が一人で研究してんのが一番ヤバい」

博士「命かけてるやつらに言われたく無いわ」


アサヒ「それでは今から伺いますので、はい、はい、失礼します。」

メモを取ったアサヒが振り向く。

ダン「何だった?」

アサヒ「T県からです。五日前、深夜に廃校した学校のチャイムが鳴らされ続けると通報があったそうです」

ダン「怪談かよ1シーズン遅いな、それで?」

アサヒ「はい。出動警察官が対応するために立ち入りした所、不審者と遭遇、日本刀のようなものを所持していたとのことでした」

博士「確保はできたのか?」

アサヒ「いえ、威嚇発砲した所を切られたそうです、拳銃を。」

博士「拳銃を?まじかよ」

アサヒ「その後逃走し、現在行方不明だそうです」

アオキ「なんで電話がきたの?」

アサヒ「逃走犯がどうやら子どもらしくて、事件を知った警視監から直接…」

アオキ「確かになんかありそうだね」

ダン「警視監クラスになると流石に知ってるんだな」

博士「是非とも酒の席で口を滑らせてもらいたいもんだ」

アサヒ「今から向かって早く着いたら明日の現場検証前にチラッと覗こうかと。」

アオキ「T県か…今から出れば日が暮れる前には着くか」

ダン「何かあったら明日の午前中に新幹線で向かうから連絡くれ」 

 


アサヒ「紫芋ソフト食べましたよっと。」

サービスエリアで休憩をしていることを報告しながら冷えた体をコーヒーで温める。

出る前に休憩せずに行こうかなと話していたら休憩を挟めと三人に言われたので証拠写真を送った。

博士は休憩を挟まず運転していたら急な眠気で気絶しかけた事を語り、ダン先輩は暇だからと運転中に飲み物を飲み過ぎてトイレを探すのに大変なことになった事を説明された。


膝の下に敷いていた刀袋を背中に掛けてバイクにまたがり出発する。


皆いい人だ、事件の一週間後、警視総監から協力してくれないかと声をかけられた時、最初アオキさんは強く反対していた。

理由は危険だから。

警察学校にも行ってもいない未成年が居て良い環境では無いのは明白だった。それでも当時の俺は贖罪になるかどうかも分からなかったが、入りたいことを話して親とも相談して入れてもらえた。素性を隠して特別に訓練を参加させてもらい、一人で【隠】の対処もできるようになった。

1年経った今でも心配してくれている。もちろん他の二人も。

博士は少し変わっていて集中している時に話しかけても返事は無いが、していたことが終わった後にまとめて対応する。聞こえてはいるんだけど反応できないから一方的に言ってくれと最初に会った時に伝えられた。

ダンさんは俺が学校の後輩だったら兄貴と呼んでいたと思うくらいに安心できる存在だ。職場の先輩だからそんな失礼なことはしないがそれくらい居心地の良い人だ。泊まり込んでいてよく私物のコーヒーを皆に淹れてくれている。お礼にお菓子を持って行くが一番食べてるのはアオキさんな気がする。


そんな職場の皆から心配されないように慎重に捜査の協力をしようと気持ちを引き締め、アクセルを開けた。



常連客「にぃちゃんあそこに泊まるのがけ?えらい時に来たちゃのぉ」

アサヒ「何かありましたか?」

早めに到着して事件現場にまだ居た鑑識からある程度の情報を共有してもらった後、近くの居酒屋で何か聞けるかと寄っていた。

常連客「四日前やったか、三日前やったかな。警察に刀で襲いかかった事件があったがやちゃ。」

ホテルに刀を置いてきてよかったと思いながら話を聞く。

常連客「少し前からすぐそこの潰れた学校で夜中にチャイム鳴らすいたずらがやぜ。」

濃い方言に圧倒されながら相槌を打つ。

アサヒ「えー!迷惑ですね。」

少し警戒されている様な気もしたが話を続けてくれた。

常連客「近所んもん皆怒って探しとったやけど、見つからんかったがや。」

食事の手を止め、体の向きを相手に向けて喋り易い環境を作る。

常連客「それが何回もあったからブレーカー落としとったがやちゃ。けど避難所としてそんなんでええがけって話になって、とっ捕まえるためにブレーカー上げておびき寄せとったらいたずらしてた本人か知らんが切れて襲い掛かってきたんがやとさ。」

話し慣れている様な口振りから、恐らく事件に付いてはある程度聞かされたりもしているのだろう。

スマホで事件の記事を探して最初の1行目を読み上げる。

アサヒ「これのことか。あっ僕が泊まってるところから割と近いところなんですね。」

常連客「夜にチャイムが鳴っても興味本位で近よらんほうがええちゃ。」

アサヒ「夜中のコンビニも行くの怖いな、今のうちに行って早く部屋に戻ります。」

常連客「それがええちゃ。」

会計の途中に軽く挨拶をして店を後にする。

機械生命体【隠】の目撃情報は無し、人型の可能性もあるがチャイムを鳴らすようなことはしないだろう。今の所は対策部の出番はないだろうと思いつつ明日に備えて部屋に入る。

アサヒ「…風呂は朝でいいか。」

歯を磨き、硬くて清潔なベッドに身体を預けて電気を消して目を閉じる。


アサヒ「2時…」

不意に目が覚めたアサヒは、時間を確認して普段と違うルーティンをしたことを後悔する。

アサヒ「風呂行くか。」

コンビニで買った飲み物に着いた結露を軽く拭き、口につける。


キーンコーンカーンコーン

カーンキーンコーンカーンーー

外からチャイムが鳴り背筋が凍りつく。聞いてはいたが深夜に普通はあり得ないことが起きた衝撃で少しうろたえる。

急いで準備してホテルの階段を駆け下りる。対策部に連絡をするが返事を待たずに仕舞う。

バイクにまたがり信号のない交差点を駆け抜ける。



アサヒ(放送室の場所は中等部の二階!)

事前に調べた情報を基に放送室へ向かう。

扉は開いていて静まり返っていた。

全ての場所を恐る恐る覗いて誰もいないことを確認した。

部屋から出て耳を澄ませながら考える。

アサヒ(チャイム…子ども…拳銃…)

???「……」

覗かれていた。

探しに行こうと右を向いた時に内窓から身を乗り出した子どもと目があった。

逃げ出そうと思えたらまだ良かったが、値踏みされているようで動けない。

血の気が引いた。

肝試しはタケルとよく行っていたが、いつも二人だった。

???「なにしてるの?」

アサヒ「チャイムの音が気になって。」

幸い最初に口を開いたのは子どもの方だった。

女の子「ほんとーはあさになるんだよ、おもしろいよね。」

女の子であることが分かった。

落ち着いたトーンで喋るその子はアサヒが持っている刀に興味を示す。

女の子「あたしのよりすこしおおきい?」

と言いつつ扉から剝き出しの刀を肩に担いで出てくる。

アサヒ(足はある、お化けじゃないな)

落ち着きを取り戻すアサヒを見た女の子は、いやな顔をしていた。

アサヒ「名前聞いてもいいかな?」

女の子「つまんない。」

アサヒ「え?」

女の子「きのうのひとのほうがおもしろかった。」

アサヒ(昨日?おかしいな鑑識にそんなこと聞かされていない、別に被害者が?)

アサヒ「その刀隣に置いて少し話さない?こっちも置くからさ。」

女の子「…」

仕方なくその場で話を始める。

アサヒ「俺はアサヒ、君の名前は?何処から来たのか分かる?親は何処かに居…」

アサヒは女の子が話を聞きながら苛立ちを募らせていることに気が付いた。

女の子「…」

アサヒ「…」

二人の間に沈黙がれる。


突然スマホから警報が鳴る。

「機械生命体【隠】」の発生を感知した時の音だ。

聞き慣れた機械の音が外から聞こえたアサヒは窓を割り、目の前の女の子に声をかける。

アサヒ「しばらく隠れて」

二階から飛び降りて音がする方向へ向かうアサヒの姿を女の子は窓から目だけで追う。


校庭に整列していた【隠】を確認したアサヒは体を出して次の行動を観察する。

アサヒ(こんな近くで現れたのは初めてだ)

捕縛型が4体に刃物型が1体の2種類、それ以外に差異があるかは確認できない。

不意に一体がアサヒに気が付き動き始めて他も続く。

アサヒ「やべ」

出現したての状態を初めて見たアサヒは、貴重な現状を確認しようと近づき過ぎて気づかれてしまった。

広い場所での戦闘は初めてだったがいつもと同じ兵装、飛び道具は無し。

校庭の端に誘い込み、防球ネット用の支柱を倒させネットを利用し多対一をいなす。

ネットを引きちぎる4体を先に潰す。

最後の1体になった時、視線を感じて振り向くと女の子が立っていた。

さっきは気にする余裕が無かったが、身体のサイズに合っていない上履きと制服を着ていることが分かった。

アサヒ「そこに居てもいいけど

言い終わる前に走り出して近づいて来る。

アサヒ「止まれ!」

最後の一体に向かって、不自然な速さではアサヒの横を通り過ぎる女の子の顔には歪んだ笑みが浮かんでいたように見えた。


刃が刃を捉える音が響き女の子はアサヒの方へ吹っ飛ぶ。

空中でも刀を離さない女の子の襟を掴み、受け止める。

アサヒは注意しようとしたが、恍惚な表情をして視界に【隠】だけを収めている女の子に危機感を感じた。

みぞおちを殴り、息ができなくなった女の子を連れて急いでその場から離れる。

【隠】は動かない、まるで何かを待っている様に…。



女の子を担いで体育館まで逃げたアサヒは2人の刀を少し離して置いて介抱する。

アサヒ「ごめんね。優しくしたつもりだったんだけど。少し風に当たりに行く?」

絞り出すように返事をする。

女の子「あたしが…そなたになにをした!」

俯いて唾を吐きながら息を整えていた女の子がやっと回復してきたようで、睨みながらアサヒに言う。

アサヒ「本当にごめん、あのままだとさっきの奴に怪我だけじゃ済まない事になると思ったから。」

アサヒ(そなたって…息がしづらいからって出る言葉か?)

女の子「みだれたせかいではしかたないことであろう。それに…」

女の子「いのちのとりあいはおもしろい。」

信じられない発言を聞き、言葉が出ない。子どもまでがあれと戦うことを選んでいた。


二度目の沈黙は頬を叩く音が破った。

アサヒは避けることもできたかもしれない。

みぞおちを殴った仕返しを受けようかと迷った時間が無ければ。

アサヒ「ごめん。」

立ち上がった女の子はアサヒに問う。

女の子「あたしの刀は?」

アサヒは頬をさすり指を指す。

体育館のセンターサークルを二振りの刀と二人で囲んでいた。

アサヒと女の子は時計回りに刀を取りに歩く。

アサヒ「俺も一緒に行くのが条件だ」

女の子「ひ、ふ、み、よっつもうちとっておいて?」

アサヒ「怪我をさせたくない。」

女の子「かんけーない。」

アサヒ「これが終わり次第同行して欲しい」

女の子「きょーみない!」

アサヒ「君のことを思って言ってるんだよ!」

聞く耳を持たない相手に少し感情的になった。

女の子「っ!!!おもしろくない!!!」

その時体育館の扉が切られ【隠】が入ってきた。

女の子は最後にアサヒを一瞥して向かっていく。

アサヒは止めても意味がないと分かり、何時でも援護できる距離に詰めようとした。

しかし、女の子は既に【隠】と再び刀を合わせていた。

アサヒ(この速さは!!!さっきの違和感はこれか!!!)

月明かりだけが、学校の校舎の輪郭を描いていたから見えた違和感。

外では霞んでしまうくらい弱い光。

原理は解らないが女の子の刀にホワイトノイズがかかっていた。

心配とは裏腹に【隠】の腕は床に転がった。

女の子「これではしのぎもけずれないな。」

【隠】の首を落としながら満足げに言う。

ゆっくりと刀に語りかけている。

アサヒ「何をした」

返事の代わりに届いたのは鈍く光る刀身だった。

間一髪で対応して距離を取ろうとするアサヒをその刃は逃がそうとはしない。

体重の差で受け切れてはいるが手が出せない。

女の子「なんできれないんだろう?」

アサヒ「その刀の光は何だ」

女の子「わかんない。そなたのかたなもひかっておるではないか。」

対策部の武器を見てきたアサヒには目の前の光は全く違う光に見えていた。

アサヒ(アドバンテージがあるのは向こう、だがそれに気が付いていない内に制圧する)

ステージに誘い込み緞帳で動きを抑制しようとする。

女の子「さっきもやってなかった?わかるよ。」

アサヒ「…せめて上ってきてくれよ、俺だけがはしゃいでるみたいじゃないか」

女の子「つまんない。」

アサヒ「面白いつもりはないけど、そんなに言われると…来るものがあるな」

余裕を見せる女の子を視界に収めつつステージから【隠】の切られた腕に視線を落とすと、間接では無く機械生命体の由来である金属の骨の骨幹を断ち切っていた。

アサヒ(同じ素材のこの刀を切れないのは電気信号のおかげか)

対策部の二人は充電式で高威力が出せるが持続時間は10分、アサヒの武器は充電不要だが間接など弱点を狙わなければならない。

ステージから降りた後、ゆっくりと【隠】が壊した扉とは別の扉に近づく。

女の子「にげるの?」

アサヒ「明かりを点けるだけだよ、暗くてよく見えないからね」

実際に見えないことはないがこのままでは苦戦すると判断したため、女の子の種明かしを狙うと同時に、自分の手札が増える可能性を探していた。

アサヒ(なんもわかんねー)

明かりの下に広がるのは転がったガラクタから近づいて来る女の子。

アサヒが急いで閉めた扉を女の子は蹴り開けた。

女の子「ひかりがもれてるよ。」

ため息交じりに言葉を零してから扉の裏にある刀の光めがけて扉ごと切り付ける。

女の子「!!!」

女の子は崩れた扉から見えたスマホの光に驚く。

アサヒは逆の扉から素手で拘束し、手の関節を握り締めて刀を取り上げる。

アサヒ「鞘は無いの?」

女の子「な!ひきょうなやつ!はなせ!」

じたばたする女の子に先程の力が無いのは取り上げた刀の影響が無くなったからだろうか、それとも使わない理由があるのか考えを巡らせる。

女の子「かえして!!」

アサヒ「だめ!人に斬りかかって来といて危ないだろうが!」

女の子「なんで!そっちももっていただろう!」

アサヒ「俺は良いんだよ!そういう仕事だし!」

話をしていて何か常識に差異がある様に感じ取れた。

アサヒ「これは誰から貰った?」

女の子「……ちち…。」

アサヒ「もしかして…これを使って誰か斬った?」

女の子「…。」

アサヒ「…。」

もし両腕が空いていたら頭を抱えていただろう。

アサヒ「昨日の人って言ってたけど警察官の事だよね?拳銃を切ったって報告受けてたんだけど。」

最初に放送室の前で会話した時のことを持ち出した。

女の子「だからあれはむこうもおなじで

アサヒ「もういい!話は後だ!ついてきてもらう。」

風に応える木の葉の音しか聞こえない様な場所にサイレンの音はすぐ届いた。

そして、

聞きたくなかった警報の音も。

アサヒ(まずい)

こんな短時間に【隠】の警報が来たことは無かった。

スマホの画面を確認するため女の子の拘束を解き、誤報を祈りながらスマホに手を伸ばす。

女の子「きたんだね。」

アサヒ「逃げるぞ」

女の子「なぜ?」

アサヒ「そもそもあいつらが異常事態なのにさらに異常事態が起きている、俺一人じゃ無理だ」

女の子「ひとり?」

刀を取り返そうとする魂胆が丸見えの悪い笑顔を見せつけてきた。

アサヒ「…無理して笑うな、怖い顔になってるぞ」

作り笑顔は消えて、直ぐに不貞腐れた顔になった。

アサヒ「名前は?」

女の子「…さやか」

持っていた刀を返してほしいからであろう……が、少し距離が近づいた気がした。



校庭の前には3台の警察車両が来ていた。

【隠】に車両を壁にして発砲している警官がこちらに気が付いた。

アサヒ「警視監からの指示できました捜査一課です、状況を確認したい!」

戦場の横から声をかける。

警官「車両が1台潰された!あれを知っているのか!」

アサヒ「所属不明の機械兵としか聞かされていません、破壊します」

【隠】に向かって走り出そうとしたとき、更に警報が鳴る。

アサヒ(ふざけるな!次は…)

スマホを確認しなくても何処で発生したか分かってしまった。


真っ白な光の線で何もない場所に3Dプリンターで出力されている様な、まるで新車の発表CMを目の前で見ている感覚。

アサヒは対策部に入る前に奴を一度だけ見たことがある。他より5倍でかいこれを。


アサヒ(大人に散々殴られて、やり返す機会も失い、死なせてしまったあの時に、)

一年前のあの時を思い出した。だが、今は全員が生き残ることを考える。

アサヒ「撤退!全員離れろ!」

警官「近くの住民全員叩き起こして安全な場所に行く!現場は封鎖しなくていいな!」

アサヒ「へぇ」

話が早くて助かった、田舎なので人の往来が無いから出来る選択だ。ただ後ろの女の子はどうすればいいのか…

さやかは刀を欲しそうに眺めている。

アサヒ「なぁ、逃げるか?」

さやか「にげない。」

アサヒ「あれを倒した後も?」

さやか「ふふっ。」

出力しきる前に二人は短い会話をする。

自分よりも年下を巻き込んだ事より、未知の力を持つこの子を利用しない事の方が後悔するであろうと判断した。

アサヒ「あのでかいのは後だ、あれに先に狙われた方はもう片方が他のを潰す時間を稼ぐ」

刀を渡して指示を出す。

先程までさやかは眼前のでかい【隠】を見ても不安も恐怖も無かったが、

アサヒ「この戦場はあいつを中心に回る…って聞いてるか?」

刀を渡された瞬間、出力を終えて降誕した【隠】と惹かれあう。

アサヒはさやかが指示に従わないとは感じなかった。

アサヒ(狙われているのは!この子か!)

速やかに援護に回る為、残りの敵にアサヒは突っ込む。

先程の警官達が車で1体潰していたので残りの4体を相手にして対策を考える。

アサヒ(アオキさんとダンさんなら奴にダメージを与えることなら可能だけど…)

アサヒは有効なダメージを与える手段を持ち得ない。一度だけ初めて【隠】を切った時のみ真っ二つに出来たが、それ以降は斬り損ねるようになり試そうともしていなかった。

その間にさやかは喰らいつこうとするが攻撃を避ける度にまた距離を置かなければならない分の悪い鼬ごっこ。

アサヒ「校舎に戻るぞ!入って来たら動きが制限される!」

さやか「……」

アサヒ(聞こえてるよな?)

アサヒは全て始末した後に校舎に誘導しようとするが、さやかは気が付かない。と言うよりも、気が付かないふりをしているのが分かる。

仕方なくこの場で対処をしようと向かうが、攻撃が見ていつもの【隠】とはかけ離れているのがわかる。

攻撃を避けると言うよりも機械に巻き込まれないように離れる行為になり近づけたものじゃない。

アサヒ「おい!戻るぞ!」

さやか「にげない!」

アサヒ「逃げてるわけじゃねぇよ!倒すための作戦だろ!」

さやか「おもしろくない!」

アサヒ「死ぬほうがおもんねぇよ!安全に倒せる方法があるならそっちのほうが良いだろ!」

二人の会話が終わるのを待つつもりのない一撃からまた離れる選択をするさやかに、アサヒは見せつけるように懐に飛び込む。刃を、振り下ろされる左腕に擦りつける。離れようとするが奥で刃が嚙み合ってしまう。逆手持ちに切り替えて刀を無理矢理肉ごと引き剝がし急いで距離を取る。

アサヒ(少し欠けたか…)

普段はしない危ない行動を起こしたのは言うことを聞かない仲間に対しての当てつけだった。

アサヒ(まぁ仲間じゃないか…)

背中を預けあう程の信頼も無いし、盟約を結んだわけでもない、ただ利用しただけの即席班だ。

さやかの前に立ち、少し切れ気味にもう一度言う。

アサヒ「戻るぞ」

さやか「…」

軽く口が開いたまま、さやかは黙って頷く。



アサヒ「狙われているのは多分君だ窓越しでいい、奴の動きを…」

でかい体格は戦闘で素早い動きは出来ても移動はそれ程速くないようで、校舎の下駄箱付近で作戦会議をする時間は作れた。

アサヒ「なんで危ないことをした?」

さやか「たたかいたかったし…せっかくみつけたねどこにちかづけたくなかった。」

アサヒ「ここに住んでるの!?」

さやか「いまは…」

アサヒ「ご飯は?」

さやか「かごにたくさんはいってた」

玄関横の当直室を覗くと生活感のある散らかった室内が目に入る。開かれた本やレトルトカレー、床に置いてある電気ケトル。事件から一週間近くどうして気が付かなかったのだろう。

アサヒ「ゴミはどうしてたの?」

さやか「うめてた。」

アサヒ「埋めてた…ね」

さやか「そろそろくるよ」

アサヒ「あぁ分かってる、とりあえず怪我しないように飯は買えるし住処も変えれる。けどおまえの命は買えないからな。」


外から足音が近づいて来てはいたが会話に夢中になっていて二人はギリギリまで喋っていた。

さやかは中庭に続く道におびき寄せてから窓を挟んで向き合う。

窓を割り腕を伸ばして捕まえようとするが、さやかは容易に避けて出された腕に傷をつける。

さやか(かいなはとおりやすいんだ。)

一階の窓ガラスを全て割る勢いで次々と避けて攻撃を繰り返す堅実的な戦闘をこなす。

その上の階でアサヒはタイミングを見計らい首を断ち切る準備をする。

両腕を室内に突っ込んだタイミングでさやかは声をだす。

さやか「いざ!」

あらかじめ開けておいた窓から飛び出し死角から首を狙い全力で刀を振り下ろす。が、

アサヒ「クソ!」

肉は切れるが骨は断てず、直ぐに飛び降り背後に回る。

さやか「何を諦めている!!」

アサヒ「悪い、囮は俺がやるべきだった」

無理に刃を食い込ませたら不安定な場所でまた動かせなくなり、反撃されると判断し諦めたのが不服だったようだ。

アサヒ(もう一度同じ作戦するか?ここで?いや無理だ、俺の戦力的にもあの子の集中力も切れる頃だ)

さやか「よけて!」

間一髪で攻撃を避けてさやかに感謝する。

アサヒ「まだいけるか?」

さやか「まだなにもしていない。」

【隠】に向かって飛び出して行く。一瞬だったが、期待を裏切られた様な顔が目に焼き付いた。

攻撃の避け方が段々とわかってきたようだが、速さを活かした戦い方が出来ていない。

アサヒ(まだ何もしていない…ね)

アサヒは今の自分にできることを探す。

アサヒ(骨は無理だったけど肉は斬れた、肉が無くても動くことは調べられている。なら肉があるのは何故か、冷却以外の役割か?何でもいい考えろ!観察しろ!何もしていないのは俺だ!)

さやかが戦っている横でアサヒは崩れた廊下に目をやる。

ガラスの破片と少しの肉片が転がっていた。

もしやと思い【隠】の腕を注視する。

窓ガラスの破片が腕に刺さり、肉を維持する人口皮膚が張力を失い最初にアサヒが削り取った部位が開き始めて金属が露出していた。

アサヒ「俺が削った腕を狙え!お前なら斬り落とせる!」

さやか「つけいるすきがない!」

アサヒ「分かってる!」

隙を作るためにアサヒは参戦するが、ただ前出ても脅威とみなされないと判断し頭を狙う。

さやかは外側へ払う右腕の横振りを躱し、左腕の縦振りを距離を取り避ける。

アサヒは振り下ろされた腕を足掛かりに頭部を斬りつける。

右腕が刺突の形でアサヒに襲い掛かる、それにより視界が遮られた。

距離をとったさやかの加速は済んでいる。【隠】の武器が鈍い音を立てて手首と一緒に地面に落ちた。

アサヒ「よくやった!」

刺突された右腕に張り付いていたアサヒは興奮しながら飛び降りた。

アサヒ「すごいね!」

さやか「とうぜん!」

二人の喜びは束の間【隠】はその場から退却を始める。

アサヒ「追うぞ」


アサヒ(少し速いな、腕が軽くなったおかげか)

さやか「このさきって…」

転がるように逃げた先にはガラクタがあった。

アサヒ「ここで倒せば回収が楽だ。」


自惚れていた。


協力したという形だが自分でも大型【隠】を倒せしたという実績が残せると。



警報が鳴る。



大型【隠】の周囲にあるガラクタからあの時見た白い光が内側から漏れている。

白い光の線が飛び出して欠損した腕に集まっている。

衝撃の光景に目が離せない。

肉で覆われていない強靭な腕が出来上がった。

探知機はあの光を観測して鳴っていた。あの肉は光を隠すために存在していた。

広い場所に誘い込まれた形になった。

さやか「どうする?」

アサヒ「対策部のアオキさんを頼れ」

顔を向けずにスマホを渡す。

アサヒ(どうすれば…)

考える間もなく巨大化した腕が二人を襲う。

逃げるか、懐に潜り込む。なんて馬鹿げている選択肢しかなかった

両方ともサイズが変った腕に殺される。残された手段は一つ。

一瞬でもさやかが逃げる時間を稼ぐ為に薙ぎ払う刃を、腕を添えて刀を縦に持ち力を入れる。

アサヒ(一年前俺はどうやって斬った?思い出せ!守ろうとしたからか?もっとあるだろうが!

何か大切な事!斬ろうと思う気持ちか?思い出せ!思い出せ!)

無情にも【隠】は、あの時のように煌煌と刀が光るのを待たない。

炸裂音と共にアサヒは宙に舞う。

アサヒ(い…生きてる?)

地面に受け身も取れず倒れ込んだが、直ぐに【隠】を確認する。

そこには腕が大きく損傷した【隠】が崩れて膝をついていた。

その隙をさやかが見逃さず頭部を切断して機能を停止させる。



アサヒ「お、ラッキー高い絆創膏あるじゃん。」

さやか「こっちとはちがうの?」

アサヒ「剥がれにくくて早く治るからいいんだよ。」

二人は保健室から窓を向き、雲に隠れた月明りを頼りに医療機器の入ったケースを漁っていた。

アサヒ「まさか戦ってた場所の近くに分電盤があったとはな…怒られそう。」

さやか「おこるひといるの?」

アサヒ「上司とかね。沁みるぞ。」

さやか「っ~~」

アサヒ「ま、こんな軽傷で倒せたんだからお釣りがくるか。」



アサヒ(まぐれか…)

さやかがとどめを刺した後なぜ腕が壊せたかを確認した時に、内側に微かに光る刀の刃を見た。

アサヒは大型【隠】の腕を斬れた訳ではなかった。最初に当てつけで斬りこんだ時に欠けた刃が、金属に引っ掛かっていて巻き付いて出来た金属の中に入り込んでいた。衝突と同時に電気信号が腕からそれに伝わり、裂傷という形で破壊。それをさやかが勘違いして二人で勝てたと喜んでいた。


何事もなかったかのようにチャイムの音が学校に響き渡る。

さやか「もう一度。」

止めに行こうと扉に手を掛けるようとした時に後ろから声をかけられる。

さやか「手合わせ願おう。」

アサヒは驚いて振り返るが何も変化はない。別人になったわけでもないのに違和感を感じた。


アサヒ「本当にやるのか?」

さやか「さっきのかんかくをわすれたくないの!」

自分でもおかしなことをしようとしているのは分かっていた。

階段を上りながら二人は場所を探して練り歩く。

今は倒せた。でも次は?一人で相手をしなければならない時は絶対に来る。

今の自分では絶対に勝てない。

アサヒ(思い出すんだ。あの時の感覚を。)

邪魔するものが何もない長い廊下で、互いに背中を向けて端まで歩き振り返る。



キーンコーンカーンコーン

さやか「これがなりおわったらはじめるね。」

アサヒは鞘を置き、構える。

アサヒ「…」

さやかは左足は動かさないようにしていたが、右足は辛抱ならずじわじわと前に寄っていた。

カーンキーンコーンカーンーー…ブツッ。

互いに抜き身の刀を手に全力で走り出す。

アサヒ(あの速さに対応できずに無暗に振ったらガードできずに斬られる)

さやか(刀ごときるにははやく!)

アサヒ(それなら)

スピードを変えてタイミングの調整を図る。

アサヒ(相手は刀を振る必要がない程のスピードを持っているのに逆袈裟切りの構えをしている)

アサヒ(よく狙え!刀に当てろ!鍔迫り合いで衝撃を受け流す!)

さやか(鍔迫り合いか…ならばもっとはやく!)

二人の刀が衝突した時それは起こった。



アサヒ「っな!!」

さやか「…」

今まで学校に居たはずの二人は別の場所で刀を組んでいた。

アサヒ「これは…どうなってる?」

さやか「…ごめん」


さやかがそう言うと二人は元の学校に戻っていた。

アサヒは何が何だかわからずにいると、さやかはアサヒに渡されていたスマホを返す。

さやか「…」

アサヒ「おい!」

さやかは何も言わずにその場から逃げ出した。

さやかの背中は一瞬でアサヒの前から消えていた。

アサヒ「逃がしちまった…」

窓ガラスに当たる雪を見ながら呟いた。


【隠】を倒した場所に変えるとそこには戦った後は無く、立入禁止テープが張り巡らされていた。

アサヒ(あれ?もう回収したのか?)

アサヒはスマホを確認するが充電が切れていた。

その場に残る意味も無くなりバイクでホテルに向かおうとするが見当たらない。

アサヒ(ついてねぇ…)

下を向いて寒い思いをしながらホテルへ向かう。行方不明者の情報提供を求める貼り紙の横を通り過ぎて。


ホテルに着くと従業員が清掃作業をしていた。

アサヒ「どうも~」

挨拶するとぎょっとした顔をしていた。

アサヒは不思議に思いながら借りていた部屋に向かおうとするが呼び止められる。

従業員「あんたアサヒさんか?」

アサヒは客か確かめているのだと思いはいそうですと言ったが続けて言われた事にアサヒもぎょっとした。

従業員「どこに行っていたんですか!3か月も!」

アサヒ「!?」



アサヒ「ええ、心配おかけしました。」

アオキ「生きてたなら良かったよホント」

ダン「今から向かうから待ってろな!」

アサヒ「夜も遅いですし大丈夫ですよ。」

博士「わしが行く疑ってるわけじゃないが調べたいんだ。うんこもとっとけよ!」

アサヒ「検便ですか?」

博士「ようわかったな。」

アサヒ「了解しました」

荷物をホテルが預かってくれていたお陰でホテルに博士が来るまで部屋を借りることができた。

ホテル前に警察も来て警備だか逃げないようにしてるんだか知らないが、警戒してくれている。

スマホの充電ができた時にメッセージがなだれ込んできて困惑したが、どうやら従業員が言っていた通り3か月の間失踪していた事になって居た。先程のさやかとあの場所に行ったことが原因だろうなと見当はついた。

アサヒ(さやかの事言うの忘れてた。)

疲れた体を3か月振りの風呂から上がった後に思い出しながら床に就く。



明朝に博士が来て叩き起こされた後に近くのカフェで休んでいた。

隣の外人「私のガムアゲル」

連れ「おう、ありがとう」

空の包み紙を渡された連れは手をわざとらしく震わせながら貰った手で中指を立てる。

2人が笑いあってるのを見て少し笑顔になった。

それを見て直ぐに会計を済ましてホテルに帰り、刀袋を持ち学校へ急ぐ。



アサヒ「やっぱり居た。」

さやか「さっきはごめん。やるつもりはなかったんだけど。」

アサヒ「君は…」

さやか「刀…もってきてくれたんだ。」

アサヒ「…」

さやか「ぬかないの?」

ロングコートに着いているなかなか解けないぼたん雪を見ながら歩いて近づく。

アサヒ「寒くない?」

さやか「さむくない」

アサヒ「指も赤くなってるじゃん。」

刀を握る指の関節が赤くなっていた。

さやか「かんけ

アサヒ「関係あるよ、もう3か月も一緒にいただろ。」

さやかは巻き込んでしまった後ろめたさからか何も言えないようだった。

アサヒ「【隠】が空中から出てくるんだから時間を超える人が居たっておかしくないよ。」

さやかは口を噤む。アサヒは横に立ち刀袋に刀を入れるように促して話を続ける。

アサヒ「君に会う前に濃い方言を聞いていたから気が付くのが遅れた。それに当直室の本、あの教科書で今の喋り方を学んでいたんだよね。」

さやか「うん…」

アサヒ「逃げないっていうのも…今に来るまで君は戦っていたんだね。」

さやかは涙をこらえている様だった。

これ以上は辛そうだと判断して何も言わなかった。



今から会う博士の事を紹介しつつホテルに向かって歩いてる最中、さやかは俯いて不安な表情をしていた。アサヒは冷たい手をつないで少しでも陽気な雰囲気になるように鼻歌を歌ってみた。

さやか「……むりしてうたうな…」

アサヒは嬉しくなってさやかの肩を叩き、少し抱き寄せた。


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