番外3 Side Pink
かつて芹川さんは憧れの存在であった。
人は自分にないものを求める、ということがあるが、彼にとって芹川さんは「全てを持つ者」であった。
「好き」という感情はアイドルに向けられるそれに近かった。
しかし、最初に貸した漫画『アドルフに告ぐ』の返却時に転機が訪れるのである。
日曜夜、冨野くんは反省していた。
よくよく考えてみれば、『アドルフ』は最初に勧める漫画でもなかったのではないか。
漫画とはいえ文庫本5冊はいささか長すぎるのではないか。
彼は常識人ではないが、かといって一切持ち合わせていないわけでもない。
次に貸すため通学鞄に詰め込んだ『寄生獣』(完全版全8巻)を取り出そうかと何度も迷いながら結局そのまま登校した。
しかし、彼女から衝撃的な感想が伝えられた。
「言いたいことは分かったよ。でもこの主人公?の自称狂言回しのおっさん、本題と関係なく女の人とっかえひっかえしてるし、女をちょっと下に見てる感じしたわ」
「まぁまぁ……、そういう滑稽さも狂言回しってことで……」
もちろん、苛立ちで過激な感想になってしまったことは否めない。
しかし、当時の彼女に他者を気にする余裕がなかった。
漫画史上最高傑作(冨野くん基準)に対し、あの他者批判とは無縁の光の者が二重の意味でキレた感想を述べた。
この事実は冨野くんにとって衝撃的だった。
彼には少しMの気があることも大きかった。
(ふーん、おもしれー女じゃん)
この時から冨野くんは芹川さんを陽のシンボルとしてではなく、等身大の一人の人格として好意を持つようになった。
彼は念のため持ってきておいた『寄生獣』(完全版全8巻)を一切躊躇なく彼女に手渡すのだった。
後に芹川さんは言った。
「君のおかげで心が軽くなったよ。……かばんは重かったけどなあ!」




