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I 春雷

ツッコミどころが多すぎる!!()

それはまるで青空に咲く、華の稲妻だ。


ーーーーーーーーーーーーーー


そのギターが響いた瞬間、夏を告げる花火のように凛と弾けて、周りの静寂すらも呑み込んで「音」にした。

橙色とレモン色が、瞼の裏でぱっと散った。夏の、もう終わりに近い、美しい藍の夜の匂い。花火の色。

私は草原にいた。羽毛のように繊細な草が、裸足の下で僅かに擦れた。名も知らぬいちめんの白い草と、八、九月の、季節的にはいくぶん色褪せたはずの夏の夜空が広がっている。しかしそれが目を見張るほどに艶やかな濃縹こきはなだで、思わず吸い込まれるように息をした。

不意にひゅう、と音がした。空を見上げる。黄金の糸が、小さな龍のように空をのぼってゆく。ぱん。金粉をまとった菊が花開いた。目が離せなかった。きんとした冷たい静寂の中で、自分の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。

また、ギターが鳴る。

ぱん、ぱん。もう二つ、夜空のキャンバスに鮮やかな絵の具が飛び散って花を描いた。茱萸の紅のような、海潮の碧のような。

風が吹いた。夜の匂いのする、風だ。それは私の前髪を一筋攫って、現実に連れ戻した。

すでに歌が始まろうとしていた。

そのこえは再び黄金の美しい龍となり、目が覚めるような春雷となって私を貫いて、どこか遥か遠くの、私が知らないところまで飛ばせてしまったようだった。


拍手の音で、我に返った。

「やっぱすごいねー!」

「はい、じゃあ次のグループいこっかー」

てきぱきと動く先輩たちを視界にとらえ、ようやく感覚が戻ってきた。

まだ心臓の高鳴りが止まらない。視界の真ん中で、ラプンツェルみたいな美しい長髪がさらりと揺れた。誰、だろう。二年か三年の先輩のはずだ。先程の激しいギターからは想像もできないほど、あどけない笑顔を弾けさせている。目が離せない。自分でも何が何なのかよくわからなかった。ただ、目の前のひとを、まるで別世界のもののように、美しいと思った。

ああ、これが。


ーーーーーーーーーーーーー


「そういえばさ、ちーちゃん、部活決めたの?」

目の前で苺フラッペを太いストローで吸いながら話す藤花とうか。一週間前のことだ。

同じ中学校から来た人が一人もいなくて心細かった私に話しかけてくれた優しい女の子。わりとすぐに意気投合して、まだ入学して二ヶ月もたっていないというのに、こうして放課後にカフェに立ち寄るまでになった。

「うーん…いや、まだ決まってない…。美術か手芸かなって…。藤花ちゃんは?」

「私もう入部届出してきたよ〜ん」

「え、嘘?」

「マジだよ。絶対ここって決めてたもん。ていうかちーちゃんもそろそろ決めないと時期的にやばいんじゃない?」

大会とかあるとこは早めに入ったほうがいいよー、と、白いオーバーソックスに包まれた足をテーブルの下でぷらぷらさせながら藤花は言った。

「え…ちなみにどこ入ったの?」

「軽音部!体験行ったけどすごい楽しかったんだよね、もう即決!」

「へぇ…私、体験とか全然行ってないや」

「そーなの?もったいないー」

あまりもったいないとは思っていなさそうな口調で、藤花は鞄からチラシを取り出した。カフェの音楽がジャズからボサノヴァに切り替わったのを聴きながら、私はそれを覗き込む。

「体験でもらったチラシあるからあげるよ。よかったら考えてみて!ちーちゃん一緒ならあたしも嬉しいし。あ、強制はしないけどね」

「わ、ありがと…!」

ネットで無料配布されているようなシンプルなギターやドラムのイラストがちりばめられた紙。私はお礼を言って受け取る。まあでも入ることはないだろうな、と思いつつ。

本当は第一志望は別の高校だったのだ。そこは軽音学部が有名で、もし合格したら、中学の頃の親友と一緒に軽音部に入るのだと決めていた。

しかし現実はそううまくはいかないもので、親友は合格したが、私は不合格となり、第二志望の私立へと進学することになった。友達と部活のこと以外ではさして心配事もなかったが、ここにきて困ってしまった。

部活を考えていなかったからだ。軽音部はあるらしいがあまり名を聞かないような小さな部活のようだ。やるなら本格的にやりたいと思っていたから、申し訳ないがあまり入る気にはなれなかった。

私はもらったチラシを四つ折りにして、鞄の隅に仕舞い込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


なんてことを思っていたが、いやはや、本当に未来は分からないものだ。

「美術も手芸も、家でできてしまう。だが軽音はどうだろう?一人では物足りないしこんな場所でないとできない。それならそっちに行ってみよう」

ふと、天啓のようにそんな思いが下りてきたのだ。

昔から慎重な性格だと言われていたが、急に思いついては突っ走ることが稀にあった。周りが驚くくらいに。今回もそうだったようで、急いで書いたのがバレバレの筆記体で「一年C組 佐久良千歳」と書かれた入部届を受け取った顧問の先生はやや拍子抜けな表情をしていた。それでも私の心が揺らぐことはなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


そうして初めての部活に参戦して、今に至る。


私はただ、目の前で弾ける春雷に、全てを奪われていた。


全然恋愛じゃない。ただの悲しすぎる片思いです。成立「「しません」」。ごめんね。

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