夜明け前の仕事
朝5時。
まだ空は暗くて、街もほとんど眠っている。
その中で、ただ一人、もう働いている人がいた。
「今日も寒いな…」
高校生の翔太は、自転車に新聞を積みながらつぶやいた。
みんなが寝ている時間に起きて、街を回る。それが彼の仕事だった。
正直、最初は嫌だった。
友達はみんなゆっくり寝ているのに、自分だけ早起き。眠いし、寒いし、なんでこんなことしてるんだろうって思ってた。
でも——
ある日、配達先の一軒で、ドアが少し開いた。
「おはよう、いつもありがとうね」
出てきたのは、おばあさんだった。
笑顔で、手を振ってくれた。
「いえ…」
翔太はちょっと照れくさくなった。
それから、その家の前を通るたびに思うようになった。
「この新聞、ちゃんと届いてるんだな」って。
ある日、強い雨の日があった。
びしょびしょになりながら配達していると、ふと考えた。
「こんな日でも、待ってる人がいるんだよな」
足は重い。でも、止まらなかった。
全部配り終えたとき、空が少し明るくなっていた。
雲の隙間から、朝日が顔を出していた。
「…ちょっと、悪くないかも」
翔太は笑った。
仕事って、最初は「やらされるもの」かもしれない。
でも誰かの役に立ってるって気づいた瞬間、少しだけ意味が変わる。
それは、お金のためだけじゃない。
自分が、誰かの一日の始まりを作っている——
そんな、見えないつながりの中にあるものだった。




