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竜人王子の魔女っ子リスタート〜優しすぎた竜人王子、裏切りを受けてパワハラ魔女に回帰する〜  作者: 炭酸吸い
魔女の里編

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23話 一生目覚めないよりはマシ




 ダンジョン崩壊に巻き込まれた魔物の阿鼻叫喚が木霊している。今通ってきた道から更に奥のルートも漏れなく崩壊したのだろう。


 イヴァ・ヴァルキュリエが持つ〝第六感〟は、アマゾネスの一族に備わる特権だ。

 お陰で崩壊序盤の落石や地割れはパーティ全員が回避出来た。同時に、年若いイヴァの第六感は未成熟だった。

 全員が決死の逆走を開始した頃には、硝煙弾雨の如き落盤が襲ってくる。ノトムが喉を裂くほど指示を飛ばしてもすぐにかき消される有り様だ。

 今から逃げるにはもう手遅れであることをブラッカが叫ぶ。


「だめだ戻れ! さっきの場所塞がってんぞ!」

「戻る!? もう崩れ始めてるよ! それじゃ生き埋めに――」


 もうダメだ。ノトムの思考が鈍ってきている。

 やむを得ず俺は予定外のルートを選択した。


「潰れて死ぬだけだ! ついて来い!」


 進めば進むほど狭くなる道に、いつの間にか一列となったパーティを先導する。

 灯火の魔術に偽装した炎竜魔法を額に集めて。

 この空間は酸素が薄いから、明かりを確保する程度しか燃やせなかった。いよいよ追い詰められた状況だと自覚する。


 ――人間のフリをするのはここまでかもしれない。


(やるしかないか)


 戦闘行動を開始した。

 突き出た岩をへし折り、知能の低い魔物の襲撃には手を添え、切断系の魔法で八つ裂きにする。

 極力大技は隠しているが、俺が全脅威に対し、各戦闘を一秒間隔で終わらせている事実だけは隠しようがない。

 もはや俺が魔法を使えるとバレる心配はやめた。そんな状況ではなかった。

 後ろの連中はちゃんとついて来ているだろうか? 人間の体は脆いし、崩壊はすぐ後ろまで迫っている。

 振り返って確認する余裕はない。全員の無事を祈るしかなかった。


(どうしてこんな事になった。……いや、俺のせいだ)


 ここからは安全を優先した動きが出来ない。失策だ。誰よりもダンジョンを熟知している俺が、不測の事態の対応策を用意しなかった。

 ダンジョンの崩壊ははっきり言って珍しい。意図的でない限り、数百年に一度あるかないかだろう。

 ――言い訳だ。

 今世でクレアに会うことだけが全てだった。それ以外はどうでもよかった。


 竜の里に戻るのはただの口実だ。


 グリムとして肉体を取り戻せなければ、だれも魔王を殺せない。魔王軍の襲撃で大勢が死ぬ。クレアが死ぬのはもっと早いだろう。

 だから竜人の力を取り戻して、クレアに会い、生き残るための警告をしたかった。


 その一心だ。

 一辺倒な思考。その怠慢で、無関係なこいつらにまで危険を背負わせた。

 夢中になって走っていたところで、ノトムの悲痛な叫びが聞こえた。


「ストップ、ストップ!」


 視界悪の先、目の前が奈落の崖となったところで襟首を掴まれた。


「……っ、全員いるか!」

「ああ! でももう行き止まりだぞ!」


 ひとまずパーティ全員が揃っていることは確認した。


 すぐに周囲を見る。ここは開けた空間だ。

 円状に切り開かれた真っ暗な空間。

 ダンジョンの揺れは不安を煽るように激しさを増している。先程の狭い通路は落石で塞がっていた。

 目の前は底知れない奈落だけ。これ以上の行き場はなかった。


(いいぞ。思ったとおりだ)

「こんな石っころ!」


 塞いでいる岩へと、イヴァが強烈な蹴撃を決める。

 規格外の破砕音がしたが、敷き詰められるように塞がった岩がそれ以上の破壊を許さなかった。


「――っ、だめだ、クソッ」


 イヴァが悔しそうに歯を食いしばる。

 時間がない。俺はこの場にいる全員に短い指示を飛ばした。


「壁に寄れ! 落ちるんじゃないぞ!」


 俺だけはこの空間を知っている。

 ここは『転移魔法陣』の部屋だ。

 部屋が暗い。つまり、エネルギー切れの魔法陣がスリープ状態であることを明確に表している。

 起動するためにはありったけの魔力をつぎ込む必要があった。

 地に膝をついて手を添えてみる。ほのかに異質な魔力を感じた。


(この魔力、まだ新しい……誰かが使ったのか?)


 ダンジョン特有の魔力ではない。明らかに人為的なものだ。

 その魔力がいまだ残っているということは、相当な手練れがいた事になる。


『これ……嫌な感じがします』


 リネリットが念話で不安をこぼす。俺も同意見だった。


『ここで一生目覚めないよりはマシだ』


 手印を切る。大気中の魔力を集めるおまじないのようなものだ。

 覚悟を決めて両手両膝を突く。

 異質な魔力までもが俺の手元に流れ込んだ。高質な魔力だ。使い回すのにちょうどいい。

 ムドーの店で取り込んだ〈月夜の石〉。この魔力はここで使い切る勢いでいく。

 両手から大地に向けてありったけの魔力を流し込むと、眩い桃色の光が幾何学模様を描いた。


「うおっ、魔法陣!?」

「いま何したの!?」


 本来なら気分よく講釈を垂れてやりたいところだが、あいにくそれどころではない。

 今の俺ではこの魔法陣の維持も限界がある。

 視線を上げた時、自分でもわかるくらいに顔が引きつった。

 あまりの光量を放つ魔法陣に全員が釘付けになっている。その頭上で、落下中の鋭利な鍾乳石が銀狼(シルバーファング)を貫こうとしていた。

 俺がここを離れる事はできない。叫ぶしかなかった。


「避――け、ろぉ!」


 間一髪のところで、ゴーレムのような巨腕が鍾乳石を殴り砕く。

 ポチが鼻先にかかる小石を煩わしそうにして、ブラッカを見上げた。

 やや遠くにいたイヴァが驚いた顔でブラッカを見る。


「あんた――」

「大事ならちゃんと見てろ! 面倒見るのはこれっきりだ!」


 そこらじゅうで嫌な音がずっと鳴っている。亀裂が走る壁に心臓が高なった。


「限界だ……! さっさと飛び乗れ!」

「正気かよ! 見ろよあれ、爆発しそうなぐらい光ってんぞ」

「黙って来い! 俺がお前らを燃やしたっていいんだぞ!」


 この魔法陣を知っていれば話は早かったが、説明の間にここが崩れれば終わりだ。

 躊躇するブラッカに代わってノトムが不安そうに口を開く。


「知ってるよ……でもそれ転移魔法じ――」


 さすがノトムだ。理解者がいたのは幸いした。

 栗毛の商人見習いは覚悟を決めた顔をしている。俺がそう見ようとしているだけかも知れないが。

 俺はノトムの言葉を遮り、破砕音に負けないよう叫んだ。


「行き先は大陸のはるか南だ! ――おい手を繋ぐな! 腕がちぎれるぞ!」

「でもみんなバラバラになるよ!」


 ブラッカの腕を掴んだノトムが悲痛な抗議をする。一人でここ以上の危険なダンジョンに行くのは怖いだろう。

 気持ちはわかるが、転移魔法は物体を異空間に飛ばす特徴上、手をつなぐのはおすすめしない。

 何かの間違いがあれば四肢のどれかが吹き飛ぶ危険性があった。


「二人ずつ順番に飛び込め! 互いにそう遠くは飛ばされないはずだ! ブラッカ、ノトムを任せる」

「アネキはどうすんだ!」

「ラッキーがいるし、俺は強い。……知ってるだろ」


 正直、魔法陣の起動と維持だけで死にそうだ。本当なら人間が五人くらい必要なんだぞ。

 痩せ我慢をしていないと余計な心配をさせて時間を潰すハメになる。

 察したのか、ブラッカはそれ以上はやめて魔法陣に飛び乗った。


「お前ら、絶対生きて会うぞ!」

「入ったら出口を目指そう! 向こうで印をつけるから、見つけたら辿って来――」


 ノトムとブラッカが立ち上る光に包まれて消えた。


「次はお前らだ!」

「アンタ大丈夫なのかよ!」


 ポチと魔法陣の上にたどたどしく並びつつ、イヴァが珍しく泣きそうな顔をしている。

 たぶんポチを失いかけたこともあって自信が揺らいでるのだろう。


「もう死ぬつもりはない! お前らはすぐに合流して出口に行くんだぞ! 俺を捜そうとするな!」

「それってどういう――」


 転移魔法は強制的にアマゾネスと銀狼(シルバーファング)を次のダンジョンへ転送した。


「ワンッ」


 ラッキーがいつの間にか俺の横に来て、頭を押し付けていた。


「悪いな。多分死ぬほどキツイことになるが、付き合ってくれ」


 俺は最後に溜めた魔力を一気に流し込み、数秒手を離せる状態にして魔法陣へ乗った。

 次のダンジョンは伏魔殿――パンデモニウム回廊だ。

 半死半生の訓練として、前世で俺が選んだダンジョンの一つ。

 そこに、はるか昔隠した、竜人の力を目覚めさせる遺物がある。


 転移魔法陣は期待通り起動を終え、すぐに地獄の空間へ転送された。

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