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竜人王子の魔女っ子リスタート〜優しすぎた竜人王子、裏切りを受けてパワハラ魔女に回帰する〜  作者: 炭酸吸い
魔女の里編

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18話 仲直り




「一緒に学校行こ? お姉ちゃん」


 カエデからそう言われたら断る理由は無い。

 早朝の通学路は空気が新鮮だ。

 木漏れ日が眩しいからしかめっ面になってしまうが、機嫌が悪いわけではない。


 紅葉色の長髪をした妹と菫色の俺が並んで歩く。その後ろから蜥蜴竜(リザード)のラッキーがぺたぺたとついてくる。どうにも姉妹感がないな。


 レーニーン家では使用人らしき人間もいないし、スミレとカエデの二人暮らしだったみたいだ。子どものくせにやけに家事が手慣れていると思ったが、カエデが家のほとんどをこなしていたかららしい。


 ふと、昨日すっぽかしたクラリス・べルノワールとの約束を思い出した。


『あのさ……あっ』


 お互い話しかけようとして被ってしまった。

 カエデが目で促してくる。俺もそれにあわせて聞き直した。


「カエデは女子寮に入らないのか?」

「あれ。言ってなかったっけ? カエデは魔性生物研究科に行くから、魔女の認定試験からは外れたんだよ。だからお家から通えるの。ぶいぶい」


 ピースサインを作って前後に揺らしている。

 年相応に無邪気なものだ。前世で死にかけていたとは信じられないな。


「お姉ちゃんは女子寮入るんだよね?」

「ダンジョンに行きたいんだ。やっぱり寮ってやつに入るらないとなのか?」

「まあ特別な事情がないと実家からは通えないかなあ。ブラッカ君は魔術士認定受けるから男子寮だし、ノトム君は同じ研究科だからお家から通ってるよ。あ、クラリスさんは別か」

「そうなのか? 昨日女子寮に誘われたんだが」

「あー昨日それで帰りが遅かったんだ」


 こっそり家に帰ったのに気づいていたのか。

 いいように納得したカエデが続ける。


「クラリスさんは〝黒薔薇の魔女〟の認定を受けるから『特別な事情』ってやつだよ。魔術と研究とか全部の課程を勉強するから、夜間でも外出申請がいらないように権利貰ってるの」

「黒薔薇の魔女ってそんなに偉いんだな」


 しまった。今のは失言だ。

 カエデがこちらを二度見している。取り繕うようにスミレの記憶から出てきた情報を並べた。


「そんな顔しなくても知ってるぞ? シモーネ学園長が認定する最高クラスの称号だよな。いくつかの指定魔獣を討伐したり、魔性植物とか全部採ってきたら認められるんだろ?」

「なんか教科書の音読みたいで気持ちわるー」

「特別待遇っていうのが気に入らなかっただけさ。みんな一人前の魔女になるために頑張ってるだろ?」

「あ、お姉ちゃんっぽい」


 おい、「ぽい」ってなんだよ。


「今まで大変だったからな。変わろうと頑張るのは嫌か?」

「んーん。いいと思う。かっこよかったし」

「なんだそれ」

「いーの。お姉ちゃんガンバレ」


 やんちゃな少年っぽさを感じるような笑顔で、カエデは肩からぶつかってきた。


「くはは。変なやつだな。で、カエデは何か言いたいことがあったんじゃないのか?」

「んー? ああ。昨日死にかけたじゃん? だから大丈夫かなーって」


 足元の小石を蹴りながらそんな事を聞いてくる。竜が魔女の学園に飛んできた時の話だ。

 ずっと気にしていたのか。だから昨日こっそり起きていたのかもしれないな。


「竜のブレスがコントロール良ければ、俺達も危なかったかもな。俺は何もしてないし、学長の防御魔術がなかったらダメだったかもしれない」

「そんなことないよ。お姉ちゃん、かっこよかった」


 跳ねては追いつく小石を蹴りながら、カエデは地面に向かってもぞもぞとした声で言う。


「おいおい、ただ前で突っ立ってただけだぞ?」


 念を押すように強調して言っておく。俺が竜の魔装をしてブレスの進路を捻じ曲げたことがバレたのか?

 魔力はあくまでスミレと、魔鉱石――〈月夜の石〉をブレンドしたものだ。俺が竜人だとバレる要素はそう多くない。


 杞憂だった。

 カエデは俺のローブをぎゅっと掴んで足を止めた。俯いたまま震えている。


「カッコよかったの」

「お前……怖かったのか」


 気丈に振る舞っていたから気が付かなかった。

 ちがう。馬鹿か俺は。こいつは人間だぞ。

 俺が人間の弱さを理解していなかっただけだ。

 あんなデカい竜が目の前で火を吹いたら誰だって怖い。俺がスミレの体と入れ替わって初めて実感したことじゃないか。


 昨日はずっと心細いままカエデを一人にしてしまったことになる。

 リネリットに会えて浮かれすぎていたな。


「悪かった。一人にして」

「……ばか」


 道のど真ん中で抱きつかれてしまう。

 ここからの登校はラッキーの背中を貸してもらうしかないな。




     ◆




 中等部に上がった初日は、教員から今後の簡単な説明を受けて終わった。

 説明に出てくることすべてが知っている内容である。

 それもそのはずで、過去のスミレがこの学園にまつわる内容を知っているのだ。いずれも書物から読み漁ったらしい。だから、記憶にあるものをなぞっているような感覚だった。


 要約すると、中等部は本格的な攻撃、防御、召喚系魔術の習得を目指す。

 授業は選択制。ダンジョン攻略が主のため、四人パーティを組む必要があるとのこと。


 俺がやろうとしていることとズレはなくて安心した。

 休み時間に入り、庭とつながる廊下を歩く。


「ホウキ売り」

「……いい加減その呼び方やめないか?」


 三つ編みの赤髪に、ホワイトベアの皮を縫い合わせて作った戦闘衣。

 アマゾネスの一族、イヴァ・ヴァルキュリエが渡り廊下で声をかけてきた。

 俺を待っていたのか、廊下の先で仁王立ちしていた。


「だってアタシ、お前の名前知らないし」

「スミレだ。スミレ・レーニーン。腹を蹴った相手の名前くらい覚えておいてくれ」

「じゃあスミレ、ちょっと顔貸してくれ」

「ここじゃダメなのか?」

「あんまり人目につきたくないんだよ」


 また俺を殴ってやろうって魂胆か? 王族の血が無いからこいつの考えが読めない。

 前世の俺なら他種族の心を読む魔眼があったのだが、今は手探りでやり取りをする必要があるから面倒だ。


「わかった。案内しろ」


 俺もイヴァに話があったからちょうどいいか。

 肩をすくめてついて行った。


 ――イヴァは他種族に対する理解というか、気遣いに欠けた女だった。


 俺を呼んでおきながら、人間では到底ついていけないようなルートを平気で選んでいくのだ。

 アマゾネス族得意の身体能力で壁を駆け上がり、塔らしき場所の頂上までたどり着く。

 俺はといえば、内省的な魔装を使えるようになっている。竜人の膂力はアマゾネス族に引けを取らないから、一息に跳躍して目立たないようについて行った。

 日差しが眩しい。

 着くや否や、イヴァは太陽を背にして思いっきり腰を折った。


「ごめんッッ!」


 ――ごめん、めん、めん……。

 さえずっていた鳥が一斉に逃げ出すほどの大声量。里を反響するイヴァの声に耳を塞ぐ。


「うるさ……! なんなんだ急に」

「あんたのこと勘違いしてたんだ!」


 俺の言葉を塞ぐ勢いで続ける。


「あんたレッドリザードの相棒連れてただろ? アタシもポチっていう銀狼(ホワイトファング)の相棒がいるんだ」

「ああ。知ってるよ。それが?」

「アタシの一族は銀狼と一緒に育って成人するんだ。でもあんた達は魔獣を奴隷みたいに捕まえて利用するだろ?」


 面と向かって言われると人聞きが悪い気はするが、紛れもない事実だった。


「だから、魔女の奴らは嫌いだったんだ」


 それで俺の腹を蹴ったのか? なんて乱暴女なんだ。


「で、ラッキーを連れてる俺が気に入らなかったのか?」

「そうじゃないよ。いや、そうだったんだけど。だからって魔女の文化を否定するつもりはなかったんだ。そもそも魔女の里に行かされたのだって異文化交流の一貫なんだし」


(ほう? アマゾネスの一族は自分至上主義の蛮族だとばかり思っていたが、友好的なやつもいるのか)


「じゃあなんであんなに怒るんだ? 気に障ることでも言ったか」


 イヴァが信じられないような顔で俺を見た。そんなに鈍感だったろうか。

 イヴァは両手の指を突き合わせるように弄りつつ、俯いて言った。


「だって……あんた『ペットは要らない』って言ったじゃんか」

「ん? ――ああ」


 言われてみれば、そんなことを言った気もするな。


「隷属の首輪も使ってなかったからいい奴だと思ったけど、あんな事言うから魔女はみんなそうなんだって思っちゃったんだよ」

「んー……そうか?」


 事実を言ったつもりだったから、頬を掻きながらなんとなく空を見上げた。


(実際俺は俺だけでなんとかできるし……いや)


 そう思ったが、現実はそういかなかった。

 ラッキーがいたからブラッカのやつを追い払ったし、ビリアンとかいういじめっ子三人組のやつにも偉そうにできた。


 ノトムのマジックショップにだって、竜人の翼を持たない今の俺は走っていくだけでも息が上がっていただろう。

 なんだか今の俺、口先だけの男になってないか?


「でもスミレ、冷たいやつじゃなかった」


 イヴァが俺の肩を掴む。握力が強くて痛い。


「だってあんなデカい竜相手に、レッドリザードの前に立って立ち向かってただろ!? あんたチョーかっこいいよ!」

「ちょ、いたいいたい、痛いって」


 イヴァの手をタップして何とか離れてもらう。

 イヴァは塔の縁に体重を預けて、下のある一点を見つめていた。

 俺も隣で肘かけてみたが、何も見えない。誰かいるのだろうか。

 思い詰めたように三つ編みの蛮族は続けた。


「アタシはその……正直、ビビった。竜を見て何も考えらんなくなったよ。スミレみたいに相棒の前に立てる自信が無い」


 自分を責めるような言い方をしていた。

 実際俺は怖いだろう。何と言っても生物最強の竜だからな。ビビって当然だと思うが。

 色々言うとボロが出そうなので言わない。

 黙っていると、イヴァは俺に視線を向けて笑った。


「すげえよ、あんた」


 こうやって話していると、イヴァは悪いアマゾネス族じゃないような気がしてくる。

 手が出やすいのは玉に(きず)だが、どれも情に突き動かされたわかりやすい性格だ。


「なあイヴァ」


 俺は褒められるのが苦手だ。むずむずする。

 だから話を変えたい。


「俺とダンジョンに行かないか?」


 こういうのは前置きなくストレートがいいんだ。

 だって、アマゾネスの一族は行動がストレートだろう?


「何言ってんだアンタ?」


 期待とは違う反応をされた。


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