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REVENANT: SHONAN ZERO  作者: 狐目の仮面
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第二章:終末都市の彷徨 [第十六話] 策略

ガシャァァァン!!

スーパーマーケットの正面入口の方から、金属製のシャッターが派手に破壊される轟音が響き渡り、それに続いて男たちの野太い歓声のような声が倉庫エリアにまで届いた。

「…まずいな。どうやら、正面のシャッターが破られたらしい」

小林先生の顔に、険しい表情が浮かんだ。恭二と正人も、顔を見合わせる。これで、あの略奪者たちが店内になだれ込んでくるのは時間の問題だ。

「急いで目ぼしい物資を確保し、ここから離脱するぞ。連中と鉢合わせるのは極力避けたい」

小林先生の指示で、三人は倉庫内に乱雑に積まれた段ボール箱をこじ開け、缶詰や保存水、レトルト食品など、持ち運びが容易で日持ちのする食料品を手早くリュックに詰め込み始めた。しかし、その量はバスに残してきた仲間たち全員を行き渡らせるには、まだ心許なかった。

「先生、この倉庫の奥に、医薬品や衛生用品を保管している区画があるかもしれません。もう少しだけ…」恭二が、焦りを滲ませながら提案する。

「危険だとは思うが…確かに、医薬品は最優先で確保したいところだな」小林先生は頷き、恭二と正人に目配せした。「よし、三人で手分けして奥を調べる。だが、深入りは禁物だ。十分で戻る。異変があればすぐに撤退するぞ」

三人は、リュックに詰めた僅かな食料を一旦その場に隠すと、倉庫のさらに奥深く、薄暗い棚の迷路へと慎重に足を踏み入れた。

 一方、事務所で店内の避難経路図と鍵束、懐中電灯などを確保した村田沙耶は、略奪者たちが正面シャッターを破った音を冷静に聞いていた。

(…予想より早い。だが、これで奴らの注意は正面入口とメインフロアに集中するはずだ)

彼女は、手に入れた見取り図と照合し、医薬品が保管されていそうなバックヤードの救護室、そして比較的目立たない従業員用の休憩室の位置を確認した。

(小林先生たちは、おそらく倉庫エリアで物資を探している。合流する前に、私が確保できるものはしておく)

沙耶は、まるで水が流れるように音もなく事務所を後にすると、従業員専用通路を使い、救護室へと向かった。彼女の動きは、闇に溶け込み、気配さえも感じさせない。途中、数体のレヴァナントとすれ違ったが彼女が気配を完全に消し去る術を心得ているからなのか彼らは沙耶の存在に気づくことすらなかった。

救護室のドアは施錠されていなかった。中には、簡素なベッドと薬品棚があり、幸いレヴァナントの姿はない。沙耶は手早く薬品棚を物色し、抗生物質、鎮痛剤、消毒液、そして大量の包帯やガーゼといった、この世界では金よりも価値のある医療品をリュックの奥深くにしまい込んだ。

次に彼女が向かったのは、従業員用の休憩室だった。そこには、予想通り自動販売機と、誰かが食べ残したお菓子、数着の真新しい従業員用の制服(ポロシャツ、ズボン、エプロンなど)と、丈夫そうな作業用ジャンパーが置かれていた。

(…今の制服では動きにくいし、目立ちすぎる)

沙耶は、自分の血と汚れが付着した制服を見下ろし、躊躇なくそれを脱ぎ捨てると、ダークグレーの作業用ズボンと、黒い長袖のポロシャツ、そしてチャコールグレーのフード付きジャンパーに着替えた。サイズは少し大きいが、格段に動きやすく、闇に紛れやすい。彼女の端正な顔立ちと引き締まった体躯は、そのシンプルな服装によって、逆に研ぎ澄まされた刃物のような鋭利な美しさを際立たせた。

 その頃、小林先生たちは、倉庫の奥でいくつかの医薬品の段ボール箱を発見していた。しかし、その量は期待したほど多くはない。

「これだけか…だが、無いよりはマシだな」

彼らが医薬品をリュックに詰めていると、不意に、倉庫の別の通路から複数の荒々しい話し声と足音が近づいてきた。

「おい、こっちの倉庫、まだ手つかずじゃねえか!?」

「マジかよ!お宝ゲットだぜ!」

略奪者たちだ。彼らは、正面から店内に侵入した後、手当たり次第に物資を漁りながら、ついにこの倉庫エリアまで到達したらしい。

「まずい!見つかるぞ!」恭二が声を潜める。

三人は、慌てて近くの巨大な商品棚の陰に身を隠した。息を殺し、略奪者たちが通り過ぎるのを待つ。男たちは、下品な冗談を飛ばしながら、すぐそばの通路を通り過ぎていった。その数、四人。いずれも金属パイプやバールのようなものを手にしている。

「…今のうちにここを出るぞ」小林先生が、囁くように言った。「連中が戻ってくる前に、バスへ急ぐ」

三人は、確保した僅かな医薬品を手に、再び搬入口へと向かって慎重に歩き始めた。

同じ頃、沙耶もまた、休憩室を出て、仲間たちとの合流地点、バスの隠してある路地へと向かおうとしていた。彼女は、従業員通路を抜け、メインフロアへと続く扉の前に立つ。扉の向こうからは、略奪者たちの騒がしい声と、何かが破壊される音が聞こえてくる。

(…このままでは、小林先生たちと鉢合わせる可能性がある)

沙耶は、一瞬考え、そして行動に移った。彼女は、近くにあった配電盤のカバーを外し、内部の配線を慣れた手つきで操作する。そして、別の通路に設置されていた火災報知器の発信ボタンを、躊躇なく押した。

けたたましい警報音が、突如としてスーパーマーケット全体に鳴り響く。

「なんだ!?火事か!?」

「チッ、うるせえな!誰だ、押しやがったのは!」

略奪者たちの間に混乱が広がる。彼らの注意が、一斉に警報音の方向へと向いた。

その隙に、沙耶はメインフロアを横切り、小林先生たちが向かったはずの搬入口方面へと、再び闇に紛れて滑るように移動を開始した。彼女の目的は、仲間たちの安全な撤退ルートを確保し、そして自らも合流すること。そのための、計算され尽くした陽動だった。

 けたたましい火災報知器の警報音が、廃墟と化したスーパー「ルミナリエ湘南」の店内に不気味に鳴り響く。正面シャッターを破壊し、意気揚々と店内になだれ込んでいた柴田賢治率いる略奪者たちは、その予期せぬ大音量に一瞬動きを止めた。

「なんだぁ!?火事かよ、このクソったれが!」

柴田が吐き捨てるように怒鳴る。彼の部下たちも、狼狽したように顔を見合わせたり、苛立たしげに周囲を蹴飛ばしたりしている。

「柴田さん、どうします?いったん外に出ますか?」

「馬鹿野郎!やっとこじ開けたんだぞ!こんなモン、誤作動に決まってんだろ!それよりさっさと使えそうなモンを探せ!食いモン、酒、クスリ、なんでもいいから根こそぎ奪うぞ!」

柴田の鶴の一声で、略奪者たちは再び欲望に目をぎらつかせ、めいめい懐中電灯の光を揺らしながら、メインフロアの各売り場へと散らっていった。しかし、その統制は明らかに乱れ、警報音の騒がしさが彼らの集中力を削いでいるのは間違いなかった。

沙耶は、その混乱を計算通りと見ていた。彼女は、従業員通路からメインフロアの端へと静かに姿を現し、商品棚の影から略奪者たちの動きを冷静に観察する。

(…数はやはり五、六人。武装はバットや鉄パイプが主だが、リーダー格の男は腰に大型のナイフを差している。統制は取れていない。警報音でさらに注意が散漫になっている。好機だ)

沙耶の目的は、小林先生たちがいるであろう搬入口近くの倉庫エリアへの到達と、彼らの安全な脱出の支援だ。彼女は、略奪者たちの視界の死角を選びながら、音もなく、そして驚異的な速さでメインフロアを横断し始めた。その動きは、闇に溶け込む影そのものであり、時折見える略奪者の懐中電灯の光を、まるで水面を滑るように巧みにかわしていく。彼女のしなやかな体は、棚と棚の間をすり抜け、障害物を軽々と飛び越え、一切の気配を感じさせない。


 一方、倉庫エリアの棚の陰に潜んでいた小林先生、恭二、正人の三人は、警報音と略奪者たちの怒号を息を殺して聞いていた。

「…村田が、何かやったのかもしれん」小林先生が、低い声で囁いた。「この騒ぎは、我々にとっては好都合だ。連中の注意が他に向いているうちに、ここから離脱するぞ」

「はい!」恭二と正人も頷き、確保した僅かな医薬品と食料の入ったリュックを背負い直す。

三人は、沙耶ほどではないにしろ、できる限り音を立てないように棚の陰を移動し、搬入口のドアへと向かった。しかし、彼らがドアに手をかけようとした瞬間、不意に倉庫の別の通路から、二人の略奪者が姿を現した。彼らは、柴田の指示で倉庫エリアの探索に来た者たちだった。

「お、おい!誰だお前ら!」

一人の略奪者が、恭二たちの姿を認め、驚きの声を上げる。

「しまっ…!」小林先生が舌打ちする。鉢合わせは避けられない。

「見ろよ、こいつらも物色しに来たネズミか?」

「持ってるモン、全部置いていきな!」

略奪者たちは、下卑た笑みを浮かべ、金属バットを振りかざしながら三人に迫ってきた。

「新井、加藤!やるぞ!」

小林先生の号令一下、三人は戦闘態勢に入った。小林先生が鉄パイプで先頭の男のバットを受け止め、体勢を崩したところを恭二が金属バットで追撃する。正人も、もう一人の男の攻撃を木刀で弾き返し、力強い踏み込みで間合いを詰める。

倉庫内の狭い通路での乱戦。金属と金属がぶつかり合う甲高い音、荒い息遣い、そして怒号。恭二と正人は、学校での戦闘経験と小林先生の指導により、以前よりは格段に落ち着いて戦えていたが、相手は生き残るために手段を選ばない略奪者だ。その動きは粗暴だが、躊躇がない。

正人が、相手のバットを木刀で叩き折り、怯んだ隙に渾身の力で鳩尾に一撃を叩き込む。男は「ぐえっ」という短い悲鳴と共に崩れ落ちた。

しかし、恭二が相手をしていた男は、小林先生の助けで体勢を崩しながらも、隠し持っていた短いナイフを取り出し、恭二の脇腹を狙って突き出してきた。

「新井、危ない!」小林先生が叫ぶ。

恭二は咄嗟に身を捻ったが、ナイフの切っ先が彼の脇腹の服を浅く切り裂いた。幸い、深手ではない。しかし、その一瞬の隙を突かれ、男は恭二を突き飛ばし、逃げようと背を向けた。

その時だった。

「逃がさない」

まるで床から湧き出たかのように、その逃げる略奪者の目の前に、音もなく沙耶が立ちはだかった。彼女は、いつの間にここまで移動してきたのか、その気配を全く感じさせなかった。

略奪者は、突如現れたフード姿の少女に驚き、一瞬動きを止める。

沙耶は、その隙を逃さない。彼女の体は低く沈み込み、次の瞬間、まるで圧縮されたバネが解放されたかのように、床を蹴って螺旋状に回転しながら跳躍した。そのアクロバティックな動きは、人間の関節の可動域を超えているかのようだ。回転の勢いを乗せた鋭い踵落としが、略奪者の顎を正確に打ち抜き、男は白目を剥いて派手に吹き飛んだ。壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。

沙耶は、ふわりと床に着地すると、何事もなかったかのようにフードの奥から冷たい視線を恭二たちに向けた。

「…手間取っているな。早く終わらせるぞ」

その言葉と同時に、先ほど正人に倒されたはずの略奪者が、呻き声を上げながら立ち上がろうとしていた。しかし、沙耶の影がその上に音もなく覆いかぶさる。彼女は、まるで重力を無視したかのようにその男の背後に回り込み、文化包丁の柄で首筋の急所を強打。男は再び意識を失い、今度こそ完全に沈黙した。

「…これで、終わりか」小林先生が、荒い息をつきながら言った。

沙耶は、周囲を見渡し、他に敵がいないことを確認すると、恭二に近づいた。

「脇腹、見せろ」

「え、あ、ああ…大したことないんだが…」

沙耶は、恭二の言葉を無視し、彼の服の破れた箇所から傷を確認すると、手早く救護室で手に入れた消毒液とガーゼで応急手置を施した。その手つきは、無駄がなく、驚くほど慣れていた。

「さて…」小林先生は、状況を整理するように言った。「これで、この区画の連中は片付いた。だが、正面入口から入った柴田とその主力はまだ店内にいるはずだ。我々が確保した物資はこれだけだが…欲張らずに、今のうちにバスへ戻るべきだろう」

「そうですね…」恭二も同意する。「康二も心配ですし」

「よし、撤退だ。だが、油断するな。ここからバスまでの間にも、何が潜んでいるか分からん」

一行は、確保した物資を再度確認し、沙耶を先頭に、再び闇の中へと踏み出そうとした。

しかし、その時、彼らの背後、倉庫のさらに奥の暗闇から、新たな、そして先ほどの略奪者たちとは明らかに質の異なる、重く湿ったような足音が、ゆっくりと近づいてくるのが聞こえた。

それは、人間のものとも、ただのレヴァナントのものとも違う、不気味な音だった。

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