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REVENANT: SHONAN ZERO  作者: 狐目の仮面
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第一章:生存への選択 [第八話] 不在の守護者と残された者たちの葛藤

第一章:生存への選択 [第八話] 不在の守護者と残された者たちの葛藤


 教室内の活性死者は一掃されたものの、その惨状は筆舌に尽くしがたいものがあった。破壊されたバリケード、飛び散ったおびただしい量の血痕、そして異形の姿で折り重なるように倒れている「元」人間たち。その中心で、村田沙耶は、仲間たちが落ち着くのを見届け、負傷者がいないことを確認すると、「少し、周囲を見てくる。御手洗いも済ませておきたい」と短く告げ、文化包丁を手に音もなく教室を出て行った。その言葉には「物資の調達」というニュアンスも含まれているように恭二には聞こえたが、誰も彼女を引き止めることはできなかった。

残された奈々、恭二、正人、康二、そしてまだショックから立ち直れない桜は、しばし呆然と互いの顔を見合わせていた。特に奈々と桜は、つい先ほどまで死の恐怖に晒されていたのだ。奈々は桜をきつく抱きしめ、その背中をさすり続けている。

「…村田さん、一人で大丈夫なのでしょうか」桜が、ようやく絞り出したか細い声で呟いた。

「あいつなら…大丈夫だろう」恭二が、どこか力なく答える。「それよりも…俺たちは…」

言葉を切った恭二の視線の先には、先ほど沙耶があまりにも容易く「処理」した活性死者の残骸があった。

「…なあ」恭二は、声を潜めて康二と奈々に問いかけた。「さっき、村田さんが教室に戻ってくる前の…家庭科室でのことなんだが…」

奈々は、沙耶が不在であることを確認しつつ、僅かに強張った表情で恭二を見た。「家庭科室で…何かあったの?沙耶ちゃん、怪我でも…」

「いや、村田さんは無傷だ。だが…」恭二は言葉を選びながら、家庭科室に籠城していた生徒たちとのやり取りと、沙耶が抵抗しようとした男子生徒四人を、武器も使わずに一方的に、そして徹底的に無力化した様を説明した。

「…そんな…」奈々の顔から血の気が引いた。「む、無抵抗の生徒を…?」

「無抵抗ではなかった。彼らは明確に敵対し、物資の提供を拒んだ。そして、僕たちが部屋を出た直後、そこは活性死者で全滅した」康二が、冷静な口調で補足する。「村田さんの判断は…結果だけを見れば、正しかった。僕たちも、もしあの場に長居していれば…」

「だとしてもだ!」恭二の声が、抑えきれない感情で震えた。「俺たちが今、こうして奈々さんたちを助けられたのは、村田さんのおかげだ。それは…痛いほど分かってる。でも、あのやり方は…あれは、ただの暴力じゃないか!同じ人間に対して…!」

正人は、黙って壁に寄りかかり、腕を組んで目を閉じている。彼もまた、沙耶の行動に複雑な思いを抱いているのだろう。

「…沙耶ちゃんは」奈々が、震える声で言った。「私たちを助けてくれたわ…この教室でも、さっきも…。彼女がいなかったら、私たちはもう…。でも…恭二くんの言うことも…わかる気がするの。あの時、教室で最初の化け物を倒した沙耶ちゃんも…なんだか、すごく怖くて…」

彼女は、沙耶の人間離れした強さと、その感情の読めない冷徹さとの間で、心が引き裂かれそうだった。

「村田さんは…僕たちが生き残るための『鍵』だ」康二が、眼鏡の位置を直しながら分析的な口調で言った。「彼女の戦闘能力、判断力、危機察知能力…どれも常軌を逸している。だが、それは同時に、彼女が僕たちとは違う世界の住人であることも示している。彼女の倫理観や価値基準は、僕たちのものとは根本的に異なるのかもしれない」

「じゃあ…俺たちは、これからどうすればいいんだ?」恭二が、絞り出すように言った。「彼女の力に頼らなければ、俺たちは生き残れない。でも、彼女のやり方についていけば…俺たちは、何か大切なものを失ってしまうんじゃないか…?」

その問いに、誰も答えることができなかった。

教室の破壊された窓からは、依然として不気味な風の音と、遠くで響く何かの叫び声が吹き込んでくる。

沙耶がいないこの短い時間、残された者たちは、彼女という圧倒的な「力」への依存と、それに対する漠然とした恐怖、そして自分たちの無力さという現実を、改めて突きつけられていた。

彼らが生き延びるためには、あの謎めいた少女が戻ってくるのを待つしかない。そして、彼女が次にどんな判断を下すのか、固唾を飲んで見守るしかないのだ。

その時、教室のドアが静かに開き、血の臭いを微かにまとわせた沙耶が、表情一つ変えずに戻ってきた。その手には、どこで見つけてきたのか、数本の未使用の包帯と、小さな消毒液のボトルが握られていた。

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