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REVENANT: SHONAN ZERO  作者: 狐目の仮面
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第一章:生存への選択 [第五話] 武器を求めて

第一章:生存への選択 [第五話] 武器を求めて


第一章:生存への選択 [第五話] 武器を求めて


 「よし、バリケードはこれで一応大丈夫だろう」恭二は、息をつきながら言った。「だが、いつまでもここに籠城しているわけにはいかない。それに、俺たちの武器はあまりにも心許ない」

彼の手には、理科準備室から持ち出した古い指示棒が握られている。正人は、折れた椅子の脚を拾っていた。他の生徒たちも、定規やコンパス、あるいは清掃用具などを手にしているが、それらが「化け物」相手に通用するとは到底思えなかった。

「部室棟だ」沙耶が、静かに口を開いた。「運動部の部室なら、金属バットや木刀、竹刀…あるいは、もっと使えるものがあるかもしれない」

彼女の言葉には、常に具体的な目的と、それを達成するための冷静な道筋が含まれていた。

「確かに…でも、部室棟までは距離があるぞ。廊下や階段には、奴らが…」恭二が懸念を示す。

「だから、行くんだろう」沙耶は、こともなげに言った。「ここにいても、じり貧だ。食料も水もない。より安全で、より物資のある場所へ移動し、そのための武器を手に入れる。それが今の最優先事項だ」

彼女の言葉に、異論を挟む者はいなかった。沙耶の先ほどの戦闘は、彼女の判断がこの状況において最も信頼できるものであることを、嫌というほど証明していたからだ。

「わかった。部室棟へ行こう」恭二は頷いた。「俺と正人、そして村田さん。それから…宮増、お前も来れるか?何か使えそうな道具があるかもしれないし、情報も必要だ」

康二は、顔を上げて眼鏡の位置を直した。「…行くよ。僕にできることがあるなら」

工藤奈々が心配そうに「私も…」と言いかけたが、沙耶がそれを制した。

「お前と桜はここに残れ。他の生徒たちと、このバリケードを守るんだ。何かあった時のために、連絡手段も確保しておきたい」

「でも…」

「これは命令じゃない。役割分担だ」沙耶の瞳が、真っ直ぐに奈々を見据える。「お前には、お前にしかできないことがある」

奈々は、沙耶のその強い視線に押され、小さく頷いた。

準備は迅速に行われた。沙耶を先頭に、恭二、正人、そして康二の四人が、バリケードの一部を静かに取り除き、息を殺して廊下へと踏み出す。薄暗く、血の臭いが微かに漂う廊下は、シンと静まり返っていたが、それが逆に不気味さを増幅させていた。

沙耶は、まるで猫のように音もなく進む。その動きには一切の無駄がなく、全身が研ぎ澄まされた刃物のようだ。彼女の視線は常に周囲を警戒し、僅かな物音、僅かな空気の流れも見逃さない。恭二と正人は、その背中に続くのがやっとだったが、沙耶の存在が彼らの恐怖をいくらか和らげているのも事実だった。康二は、最後尾で震えながらも、必死に周囲の状況を記録しようと努めている。

角を曲がった瞬間、彼らは数体の奴らと遭遇した。それは、先ほど教室で見たものと同じように、焦点の合わない濁った目で、獲物を求めるようにふらふらと歩いていた。

「来たか…!」恭二が息を飲む。

しかし、沙耶は微動だにしない。それどころか、その唇の端に、ほんの僅かだが、挑戦的な笑みのようなものが浮かんだように見えた。

「数は三体。動きは鈍い。私が一体目を仕留める。残りは、お前たちでやれ」

言うが早いか、沙耶の体が弾かれたように前へと躍り出た。それは、人間のものとは思えないほどの瞬発力と、しなやかさを兼ね備えた動きだった。彼女は、最も近くにいた敵の懐に一歩の加速で潜り込むと、手にしていた指示棒の先端を、寸分の狂いもなく相手の側頭部に突き立て、そのまま体重を乗せて抉るように捻った。骨が砕ける鈍い音と共に、一体目が崩れ落ちる。

「(これが…村田さんの本当の…!)」

恭二は、そのあまりにもスタイリッシュで、しかし恐ろしく効率的な殺人技術に、改めて戦慄した。

「残り二体だ!新井、加藤!」

沙耶の冷静な声が飛ぶ。恭二と正人は、ハッと我に返り、それぞれ武器を構え、残りの活性死者へと向かっていく。恐怖はある。だが、沙耶が切り開いた道を、自分たちも進まなければならない。

彼らの、本当の意味での最初の戦いが始まった。


 恭二は、敵の振りかざす腕を必死にかわし、指示棒でその胴体を滅多打ちにする。だが、金属製の棒は活性死者の分厚い制服と肉に阻まれ、有効なダメージを与えられない。奴らは、痛みを感じていないかのように、鈍重ながらも確実に恭二との距離を詰めてくる。

「くそっ、効いてないのか!?」

焦りが恭二の動きをさらに鈍らせる。

一方、正人は持ち前の膂力を活かし、椅子の脚を棍棒のように振り回していた。彼の渾身の一撃が活性死者の肩に叩き込まれ、ゴシャッという鈍い音と共に相手の体勢が大きく崩れる。

「やったか!?」

正人が一瞬安堵しかけたその時、体勢を崩したはずの化け物が、常人ではありえない角度で首を捻じ曲げ、正人の腕に噛みつこうと口を大きく開けた。

「危ない、正人!」

恭二の叫びも虚しく、鋭い歯が正人の制服の袖を捉えようとした――。

その瞬間だった。

まるで黒豹が闇から飛び出すかのように、沙耶が音もなく二人の間に割り込んだ。彼女の体は、重力など存在しないかのように軽やかに宙を舞い、信じられないほどの速度で肉薄する。その動きは、まるで重力という法則を無視したかのような軽やかさと予測不能な角度で変化するアクロバティックな体捌き、そして暗殺者の冷酷な精密さを兼ね備えていた。

正人に襲いかかっていた化け物の側頭部目掛け、沙耶のしなやかな脚が鞭のように空気を切り裂き、鋭い回し蹴りが叩き込まれる。

――パァンッ!

乾いた破裂音が響き渡り、化け物の頭部が不自然な角度に折れ曲がり、そのまま壁に激突して崩れ落ちた。沙耶は、その反動を利用して空中で体勢を立て直し、猫のように静かに着地する。一連の動作は、コンマ数秒の出来事。あまりの速さと人間離れしたアクロバティックな動きに、恭二と正人はただ息を飲むしかなかった。

「新井、集中しろ。もう一体だ」

沙耶の冷たい声が、呆然とする恭二の意識を引き戻す。

見れば、恭二が相手をしていた活性死者が、彼に向かって再び腕を振り上げていた。

「う、うわっ!」

恭二が慌てて後退る。

沙耶は、その光景を一瞥すると、床を滑るようなステップで間合いを詰め、敵の攻撃を最小限の動きで回避。その動きは、まるで重力という法則を無視したかのような軽やかさと予測不能な角度で変化するアクロバティックな体捌き、そして暗殺者の冷酷な精密さを兼ね備えていた。そして、回避と同時に、彼女の体は鋭く回転し、その勢いを利用した肘打ちが、化け物の顎を的確に打ち抜いた。

――ゴッ!

化け物の体が大きくのけ反り、一瞬動きが止まる。沙耶はその隙を見逃さない。彼女の体はさらに低く沈み込み、まるで蛇が獲物に巻き付くかのように活性死者の足元に滑り込むと、強靭な脚力で相手の軸足を払い飛ばした。バランスを失い、大きく体勢を崩す。

沙耶は、倒れ込もうとするその巨体の上を軽々と飛び越えると、空中で身を翻し、落下する活性死者の首筋に、先ほど正人が使っていた椅子の脚の先端を、まるで槍のように鋭く、深く突き立てた。

「グ…ギ…」

短い断末魔を残し、三体目の化け物もまた、完全に沈黙した。

沙耶は、武器として使った椅子の脚を引き抜き、付着した血を軽く振り払うと、それを正人に投げ返す。

「…行くぞ。時間は限られている」

彼女の端正な顔には、激しい戦闘の痕跡も、感情の揺らぎも一切見られない。ただ、その黒曜石のような瞳だけが、次の獲物を求めるかのように、薄暗い廊下の奥を鋭く見据えていた。

恭二と正人は、言葉もなく顔を見合わせる。彼らは、今度こそ自分たちの無力さと、沙耶という存在の規格外の「力」を、骨の髄まで理解させられたのだった。宮増康二は、壁に背を預けたまま、震えを隠せずにその一部始終を記録していたタブレットを落としそうになった。

「いつまでも感心している暇はない。次が来る前に、部室棟へ急ぐぞ」

沙耶の静かな声が、三人の意識を現実に引き戻した。彼女は既に、次の行動へと意識を切り替えている。その背中には、血の気配と共に、近寄りがたいほどの覚悟が漂っていた。

恭二は唾を飲み込み、頷いた。「ああ、そうだな。行こう」

四人は再び、息を潜めて廊下を進み始めた。先ほどの戦闘で奴らの数は減ったかもしれないが、油断はできない。沙耶を先頭に、恭二、正人、そして最後尾を康二が続く隊列は変わらない。時折、遠くから聞こえるガラスの割れる音や、正体不明の叫び声が、彼らの緊張感を高める。

いくつかの教室を通り過ぎ、階段を下りて一階へ。部室棟は、校舎の裏手にある別棟だ。そこへ続く渡り廊下が見えてきたとき、沙耶が不意に立ち止まり、片手を挙げて後続を制した。

「…待て。数が多すぎる」

彼女の視線の先、渡り廊下の向こう側、部室棟の入口付近に、十数体の奴らの影が蠢いていた。その中には、明らかに先ほど倒したものよりも動きが素早い個体や、体格の大きなものも混じっているように見える。

「どうする…?あそこを突破するのは…」恭二が声を潜めて尋ねる。

「正面からは無理だ。別のルートを探す」

沙耶は即座に判断し、踵を返した。彼女の頭の中では、既に校内の地図と、考えられる限りの侵入経路が高速で照合されているのだろう。

彼らは一度校舎の中に戻り、沙耶の誘導で、普段はあまり使われない体育館裏の薄暗い通路を進んだ。そこは用具室や倉庫が並び、埃っぽく、カビ臭い空気が漂っている。

「ここからなら、部室棟の裏窓に近づけるかもしれない」

沙耶は、校内図を元に、最短かつ最も発見されにくいルートを選んでいた。

そして、数分後、彼らはついに部室棟の裏手にたどり着いた。いくつかの部室の窓は割れていたり、鍵がかかっていなかったりする。沙耶は、最も侵入しやすそうな野球部の部室の窓を指差した。

「ここから入る。中は警戒しろ」

沙耶が音もなく窓枠を乗り越え、内部の安全を確認する。続いて正人、恭二、そして最後に康二が、ややぎこちない動きで部室へと侵入した。

野球部の部室は、汗と土の匂いが染み付いていた。金属バットが数本、壁に立てかけられている。グローブやスパイク、ボールなどが散乱しているが、幸いなことに活性死者の姿は見当たらない。

「よし…!」恭二が安堵の声を漏らし、早速金属バットを手に取った。ずしりとした重みが、心細かった指示棒とは比べ物にならない安心感を与える。正人も、より太く頑丈そうな木製のトレーニング用バットを選び、数回素振りをして感触を確かめている。

「康二、お前も何か持っておけ。気休めでもないよりマシだ」

恭二に促され、康二は隅に転がっていた少し短めのノック用バットをおそるおそる手に取った。

沙耶は、部室内を見渡し、バットよりもむしろ、隅に置かれていたグラウンド整備用の、柄の長い金属製のトンボや、折れたバットの先端部分など、より「突く」「刺す」ことに適したものを手に取り、そのバランスや強度を確かめている。彼女にとって、振り回す武器よりも、リーチを活かせるものの方が性に合っているようだった。

「他の部室も見てみよう。剣道部や弓道部があれば、もっといい武器が見つかるかもしれない」

恭二が提案する。新たな武器を手にしたことで、彼らの士気はわずかに向上していた。

沙耶もそれに頷き、一行は、より強力な「力」を求めて、薄暗い部室棟の探索を再開する。だが、この建物の中にも、新たな脅威が潜んでいないという保証はどこにもなかった。

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