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STORIES 088: 残されたメッセージは上書きされる運命か

作者: 雨崎紫音

挿絵(By みてみん)



音楽以外で、録音された音声。


ボイスレコーダーとかスマホでビデオ録画とか、今は気軽に音声を記録できる時代。


でも。


自分の声って、どうして録音されたものは気恥ずかしくて聞いていられなくなるのだろう。


あんな声で、こんなつまらないことを、とっておきの面白いネタだよなんて言わんばかりに…

日常会話であるほど恥ずかしい。


頼むから消して欲しい。


.


留守番電話…


かつては大活躍していた頃もあった。

今では殆ど使われていないけれど。


携帯電話が普及し始めたのは、僕の場合、社会人になって暫くしてから。

だから20代前半の頃なんて、固定電話がまだまだ主流で、留守録機能もすごく需要があった。


簡単に連絡がつかなかったからね。


.


いま電話で連絡がつかない場面を考えてみる。


個人同士なら…

とりあえずメッセージ送っておこう、なんて伝え方が一般的になった。


取り寄せた本が入荷しました、という連絡ならメールで送られてくるし…

そもそも、街の書店で見つからなければ、通販で簡単に取り寄せられる。


ルスデンが重宝されていた時代は終焉を迎えた。


.


もう少し遡ってみる。


大学に進学したばかりの頃は、実家にあった電話機をアパートに持って行って取り付けた。


普通サイズのカセットテープを使うタイプ。

電話機がデカい。面白いよね。

何年かはそれを使い続けた。


就職活動を始めた頃には…

企業の人事担当者との連絡が取りやすいように、外出先の公衆電話から留守録を再生できる機種に買い替えた。


記録メディアはマイクロカセットテープ。

半分くらいの多きさになったのかな。


その頃は、面白いメッセージとか音楽なんかを吹き込む人たちもいたので、消すのが勿体なくて新品のテープを買い足したりしていた。


.


何年か後、引っ越しの時だっただろうか。

不要なものを色々と処分したりしていると、マイクロカセットが何本か出てきた。


ひと通り再生してみる。

当時の友人たちとか、実家の親からとか。

やはり、捨てるには惜しいものもいくつかある。


無理に捨てなくてもいいけどね…

そう思いながら他の作業を進めていた。


そして…

それまでにない少し暗い声のメッセージに、片付けをしていた手が止まる。


気分が沈んでいるのか、眠たいのか。

残された時刻は朝なのに、酷く重たい。


 もしもし…起きてる…?

 出かける時間だよ…

 じゃあね…


ああ、そんなものまで残っていたのか。

何度も巻き戻しては、懐かしい声に耳を傾ける。


彼女の声だ。


朝が苦手だった僕が、実家暮らしをしていた彼女に頼んだモーニングコール。


何度かけ直しても、僕は応答しなかったのだろう。

まるで別れ話でも切り出しそうなトーンダウンした声に、胸が締め付けられるようだった。


けれど、繰り返し再生して…


.


写真や映像、音声。

誰のために、いつまで残し続けるのか。


あるよね、そういうもの。


天国まで持っていける訳じゃないのに。

手放せない記録たち。

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