表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇百合トランスフォーメーション  作者: 沖田 ねてる
7/34

え、キモ。何言ってんのこいつ?


 それから彼女は、陽が暮れるまで戦い続けておった。設置されていたトレニアの花灯はなあかりが点灯してからも、寄生害虫(ニーズヘック)側の勢いもまだあるかと思われたが。


「おっかわりー。はーい、次の方どうぞー」

「ま、まだ戦ってますよ、あの娘」

「なに、まだまだこれからじゃよ」


 まだまだアヲイは戦っておった。動きのキレは、一切鈍っておらん。やはり、アオイと同じ力か。お陰でわしも、そろそろ再起できそうじゃわい。


「さてと、わしも行くかのう。どおれっ!」


 アヲイの元へと駆けていき、彼女の近くにおった寄生害虫(ニーズヘック)を真紅の大太刀で真っ二つに裂いた。


「あれれー、せんせーじゃないですかー。お昼寝はどうでちたかー、よく眠れまちらかー?」

「寝てなどおらん。無駄口はここまでじゃ、さっさと終わらせるぞ」

「あーあ。これで最初にヘバってなかったら、恰好もついたのにー」

「やかましいわ」


 全く元気なアヲイに軽口を返すと、わしらは互いに背を預けた。そのまま息を吹き返したわしら寄生害虫(ニーズヘック)を斬って斬って斬りまくって。


「お、終わったわい」

「ップハーッ! だ、駄目だ。もう動けねえ」

「よ、良かった。これで海水浴場が再開できる」

「うーわ。良い歳した男共が一人も立ててないなんて、だっさー」


 日が半分以上暮れる頃。遂に発生していた寄生害虫(ニーズヘック)の、全てを狩り終えることに成功した。結果的にこの数で退けられたんなら、群衆暴走(スタンピード)ではなかったな、本物はもっと酷いからのう。

 浜辺には死骸があちこちに転がっており、その合間に戦い疲れたわしらが座り込んでおる。ヒルデさんも安堵からか、ドサッと腰を下ろしておった。その中でアヲイは一人だけ立っており、元気にわしらを煽っておる。


「な、なんで彼女だけ元気なんでしょうか。他の方は、こんなになっているというのに」

「あたしってタフなんでー、この程度じゃ満足できないんですー」

(よく言うわい。本当はその参華(ぎょっこう)のお陰の癖に)


 ヒルデさんに対して得意げなアヲイ。疲れ過ぎて口を動かすのも億劫じゃったわしは、心の中で悪態をついた。

 彼女の参華(ぎょっこう)首萎之大鎌(クビナエノオオガマ)。その名と彼女の状態から察するに、アオイと同じ斬った相手の命脈を吸い取る大鎌なんじゃろう。


 月華瞳法(げっかどうほう)華弁かへんの一つに、相手の命脈を奪う奪片(だつへん)という力もある。彼女の純白の大鎌はその奪片(だつへん)の力を強化し、斬った相手から瞬時に奪ってすぐに他に転用できるというもの。

 通常の奪片(だつへん)では奪う為に相手に触れ続けなければならんのじゃが、彼女はそれを一瞬斬るだけで済ませることができる。参華(ぎょっこう)を維持し続けられるペース配分と合わせて、奪った命脈で自身を回復させ、ずっと戦い続けられるのが強みじゃ。


 そこに派手さはない。堅実であり、基本に忠実であり、同じペースで長距離走を走り続けるようなもの。しかしその内実は、確かに培ってきた努力と才能に恵まれた、紛れもない天才。


「ほーんと、ザコばっか。あたしに最後の最後まで付き合ってくれる人、いないかなー?」


 空に昇った満月を背に、こちらをチラリ見ておるアヲイ。わしはそんな彼女の姿を見ながら、心の中で一つの仮説に行き着く。もしや、こやつは。


「……で、アヲイ。すまんが手伝ってくれんか? もう動けんわい」


 そんな訳ないかとかぶりを振った後、わしは彼女にヘルプを送った。

 相手から体力の源でもある命脈を奪い続ける彼女とは違い、わしの体力は有限。流石に昼間っから戦い通しだったのは、疲れたというレベルではすまん。起き上がる気力もないわい。


「えっ、やだ」


 ノータイムで却下された。何故にホワイ。


「だってー、せんせーってば戦ってるあたしを、嫌らしい目で見てたしー」


 どうやら揺れ動くおっぱいと太もも、尻を堪能しておったことに腹を立てておるらしい。股間のビッグボーイこそ失ったものの、わしの心はまだまだピチピチの六十歳男子。女体を目で追うのは本能レベルの行為なのでどうしようもないが、それを気に入らんご様子。


「す、すまんかった。つい」

「えー? 聞こえなーい。それに言うこと、足りなくないですかー?」


 耳と腰に手をやって謝罪を促してくるアヲイ。何そのポーズ、絶妙にイラっとくる。


「……助けてくれて、ありがとうございましたっ! あと胸とか見てすみませんでしたっ!」

「もっともっとー。できれば舌っ足らずな感じでー、情けなさを前面に出してー」


 こっちが下手に出ておれば、つけ上げありおってっ! 爆発しそうな思いを全てブチ撒けるつもりで、わしは息を大きく吸い込んだ。よおく見ておれ、わしの全力の謝罪をぉぉぉっ!


「ごみぇんにゃしゃいぃぃぃっ! わしがわりゅかったのぉぉぉっ! わしは胸見てこーふんしてた変態しゃんでしゅぅぅぅっ! こんなわしを許してぇぇぇっ! 許してぇぇぇっ! そりぇがらめなら、もっといぢめてぇぇぇっ!」


 頭を地面につけ、尻を上げ、情けない土下座の見本となるような態勢を取ったわし。どうじゃ、これで文句あるまいっ!?


「え、キモ。何言ってんのこいつ?」

「くぁwせdrftgyふじこlpっ!?」

「あーっはっはっはっはっはっはっはッ!」


 こんな感じで、わしらの寄生害虫(ニーズヘック)討伐の日雇いは終わった。一番の功労賞は、もちろんアヲイじゃ。誰よりも多くの報酬をもらい、ついでのモヒカン男にザマアを突きつけておった。性格悪いのう。

 ともあれ、これ金を得ることができた。これを元手にして、エイヴェの奴を探さねばならん。「えー、これあたしが稼いだお金なんですけどー?」とケチってきたアヲイに再び三点倒立の土下座を決めつつ、わしは奴の足取りを追う為の金の使い道を考えるのじゃった。



 仕事を終え、カナメとアヲイの二人は瞳場(どうじょう)に帰ってきた。


「じゃーせんせー、おやすみなさーい」

「    」


 すっかり疲れ切って口すら利かなくなったカナメは、白目をむいたまま気絶するように眠りについた。そんな彼女を布団に置いて布団をかけた後、自室に戻っていったアヲイ。後ろ手で扉を閉めて鍵をかけ、敷いてある自分の布団にゆっくりと歩み寄った後に。


「ッハ。はーッ、はーッ、はーッ」


 口から息を突発的に吐き出した後に、布団へと倒れ込んだ。肩どころか全身を使って荒く息を吸っては吐きを繰り返している。身体中から汗が一気に噴き出し、めくることもしなかった掛布団を湿らせていった。


「はーッ、はーッ、こ、こんな、程度で、ップハーッ」


 酷使し過ぎた全身の筋肉が震えており、今になって痛み始めている。強がりを口にしてみたものの、むしろ呼吸を阻害したが為に、一層の胸の苦しみを覚えていた。


「こんな、ザマじゃ、笑われ、痛ゥッ!」


 何とか言葉を吐ける程度に回復してきた頃、次に襲ってきたのは頭の痛みだった。酷使し過ぎた華脳帯(かのうたい)が悲鳴を上げ、痛みが広がっていく。顔を歪ませながらも、彼女は歯を食いしばっていた。


「こんな、とこ。せんせーには、見せられ、ない。あたしは、天才なんだ」


 重くなっていく瞼に抗うこともできず、彼女の視界はどんどん暗くなっていく。


「せん、せー。あたし、ちゃんと、頑張って……」


 最後まで言い終わらない内に、アヲイは眠りの世界へと滑り落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ