第一話
注意
・「!」や「?」、「―――」、「、、、」もしくは「…」をよく使います。苦手な方はご注意ください。
・誤字、脱字があった場合は修正します。
NOside
「お母様っ、待って!」
お屋敷の静かな廊下を幼い少女が足音をパタパタとたてて走っていた。
「何、どうかしたのシルバ」
輝く金色の髪をなびかせて、どこかたい雰囲気の女が振り返った。静かな青い瞳が鋭く少女を射抜く。
少女は寂しげに瞳を伏せて女に近くと、その小さな手をぎゅうと握りしめた。しばらく視線を迷わせた後、女と視線を合わせると、蚊の鳴くような声で言った。
「いってらっしゃぃ…」
女は鋭い瞳をさらに細め少女を睨みつけた。
はぁ、と小さくため息をつき、手で顔を覆うと口を開いた。
「…そんなことのために私を呼び止めたなんて」
「ッッかわいいっ可愛すぎる、大好きッあいしてるー!」
叫んだ女はすかさず少女を抱きしめ、震えながら悶え始めた。
「この、まん丸でキラキラの瞳!」
「白銀の美しく、輝く細やかな髪!」
「可愛さと美しさのバランスが天才的ぃぃ!」
しばらく女は少女への愛を爆発させ荒ぶる。
「今日はいつもよりあらぶってるね、なんか説明口調だし」
少女は少し引いたような表情をした。
ところで――、少女は壁にかけてある時計を指さす。
「時間だいじょうぶ?」
ピシリと固まった女はダラダラと汗を流すと時計をそろりと見やった後、物凄い勢いで玄関へとかけ出した。
「っいってきます!」
静かだったはずの廊下にはバタバタという足音が響き渡った。
女の背が見えなくなるまでニコニコと笑顔で手を振った少女は、その見た目にそぐわない、それはそれは大きなため息をつき、ボソリと言った。
「何でこんなことになったんだ…」
だれもいない廊下にポツンと立った少女、もといシルバ・ローザイはひとり頭を抱えた。
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シルバside
―――7年前。
「ただいまー」
午後7時、会社から帰ってきた私は一人暮らしで誰もいない部屋に、ただいまと呼びかけた。もちろん返事は帰ってこない。
私はごく普通の会社員である。
ブラック企業に勤めている訳でもなく、
最近話題の前世とやらの記憶なんてものもない。
少し人と違うことといえば、オタクということぐらい。
かと言っても、オタクなんてものはこの世の中に沢山いる。さして変わったことでもないのだろう。
そして、髪色も黒、瞳の色も黒、顔も平凡、どこにでもいる日本人である。
毎日、変わったこともなく、平和な世の中を生きる。
もちろんこれからも漫画やドラマのような経験はしないのだろう。
シャワーを浴び、ご飯を食べ、食器を洗う、録画しておいたアニメを観て、漫画を読んで、、、
そうこうしてる間に時計の針はてっぺんを指していた。
「明日も仕事か、、、」
まだ続き読めてないなと思いながら漫画を見つめる。
『転生するならモブにして!~乙女ゲームのヒロインになりたくありません~』
通称『転乙』
ある日、主人公の桜井香里が事故に遭い、乙女ゲームのヒロインに転生してしまう。
初めは画面越しのキャラクターを実物で見れると喜ぶカオリだが、ある時、大変なことに気づく。
それは、高難易度乙女ゲームと言われるほど、難関であったことである。失敗すれば死に至ることもある。
そうだモブになってキャラクターを眺めつつ、平和な学校生活を過ごそう!....そんな物語である。
でも、なんやかんやで主人公は誰かを助けたり、キャラクターと仲良くなってしまうし、恋愛っぽい描写はあるし、ベタな感じだ。 私はあまり好きじゃない。
なにより悪役令嬢が可哀想なのだ。境遇も主人公をいじめる理由も。
「…不憫だよなぁ」
漫画を持ったまま背中からベッドに倒れ込みぼーっと天井を見つめた。…眠いな、もう寝よう―――。
――自然と目が覚めた。まだ暗い、今は何時だろう。
そんなことよりも凄く寒い。掛け布団が無い、寝相が悪いから離れたところに蹴っ飛ばしてしまったのだろうか。
布団を探すべく身体を起こす、いや、起こそうとした。
あれ、体が動かない??
どういうこと、と呟こうとするも、
「おぉぅ、、、ぅえ?」
…喋れない!?てか、声高い!?
混乱していると、外から声が聞こえた。
「ここから聞こえた気が、、、」
「お嬢様、もう遅い時間ですよ。帰りましょう」
「確かに聞こえたのよ!私が嘘をついてるとでも!?」
「いえ、そのようなことは、、、ですがお嬢様」
「もう、うるさあーい!」
「そんなに帰りたいならひとりで帰ればいいじゃない」
喧嘩してるのか、ん? お嬢様ってどういうこと?
「あ!見つけたっ!」
いきなり目の前が眩しくなった。目が痛い。
目の前にいるのは、まばゆい金髪、南の国の海のような瞳、幼いが整った顔立ちの少女。
あれ、この顔どこかで見覚えがある―――
『不憫だよなぁ、、、』
―――あ、似てる。転乙の悪役令嬢に。
私が考え込んでいる間に話が進んだのだろうか。
どこか嬉しそうな少女は私に笑顔を向けた。
「決めたわ!この子を私の子にする!」
は?え?何を言って、
「私はルゼリア・ローザイ」
悪役令嬢の名前そのまんまだ。本物…?
悪役令嬢(?)はそして、と続ける。
「今日からあなたは」
「シルバ・ローザイよ」
―――拝啓、この心の声が届いている人へ
この度私は悪役令嬢(?)の娘になりました―――
「いあぉぉうぅおぉ」
続く