普通の人知らない?
窓の外を眺めていた。
「ああ、そういえば」
「どうしたの?」
「いや、さっきも言ったけどさ。この学校って『異能』を持っている人しか入れないじゃん? だから『異能』を持っていない人は、どうやって入学したんだろうなーって
「そんなやついたっけ?」
僕は記憶をたどるが、思い当たる節はない。
「まあ、俺達と同じ中学からこの学校に来ているやつはそんなにいないし、いたとしても別のクラスだろうけど……」
確かに、この学校は一学年八クラスもある。僕の知っている人が一人くらいいても良いはずだ、
そもそも、この学校はどうかしてる、異能ばかり集めたからといって、1学年だけで200人を超える異能者がいてたまるか。
「う~ん…….でも気になるわね……そうだ!私ちょっと調べてみるよ!」
彼女は突然何かひらめいたのか、勢いよく立ち上がった。
「えっ?どうやって?」
僕が聞くと、彼女は得意げな表情で答えた
「普通の人知らない?」
「って聞くの」
ガクッ、お前の頭は普通の人か?いや、逆に普通の人はこんな事は言わないか。
一緒に話を聞いていた田中に至っては、異能を駆使して天井まで吹っ飛んでいた。
「おい、よく考えてもみろ、この学校で普通とは異能者の事だ、普通の概念がおかしいぞ」
田中が正論を言う。
「じゃあ、田中君ならわかるの!?」
彼女が少し怒り気味で言う。
「いや、俺はその手の知識には疎くてな、すまない」
彼は素直に謝った。
「そういえば、異能実習の時にいつも見学してるやついたよな、あいつの異能ってなんだったっけ?」
我が校は異能者が集まるだけあって、異能を正しくコントロールできるようにする実習が存在する。
先ほどの田中のように、うっかり異能を発動させて天井に頭が突き刺さる位ならまだしも、異能の力で学校が大爆発してはたまらない。
「なるほど、実習に参加していないということは、異能を持ってない可能性があるな」
田中は顎に手を当てながら考え込む。
「そっかぁ、ありがとう二人とも!じゃあ早速行ってくるね!」
そう言うと彼女は教室から出ていった。
「おい待てよ、俺を置いていくなよぉ!!」
田中の声は彼女の耳に届かなかったようだ。
「っていうか、見学してた奴っていうのは鈴木のことだ、この教室にいるぞ・・・」
僕はぼそりと言うと、田中の動きがピタリと止まった。
「・・・マジで?」
そしてゆっくりとこちらを振り向く。
「ああ、今だってほら、席に座っているだろ」
僕は後ろの方の席を指し示す。
そこには確かに鈴木の姿があった。
確かに彼は目立たない、目立たない異能だと言っても誰も疑わないだろう。
「なあ、普通ってなんだろうな?」
と田中は鈴木に問いかけた。
「それ私に聞いてます?」
彼は困惑した様子で答える。
田中は空中に浮きながら座禅を組んで言う。
「ああ、普通の定義について考えていたんだ」
「それでどうして私に質問するんですかね?」
鈴木は明らかに嫌そうな顔をしている。
「まあいいじゃないか、暇なんだろ?」
田中が笑顔で言う。
「・・・わかりましたよ」
鈴木は諦めたようにため息をつく
「私がいつも異能実習を休む理由が聞きたいんですよね?」
彼は話し始めた。
「実は私、異能が無いんですよ」
「嘘つけぇ!!お前の異能なんて『影が薄い』くらいしかないだろ!?」
田中が叫ぶ。
「うるさいですよ、田中さん。私の異能はその通り、『存在感が薄い』、極めて地味な異能です。
あなたのように空中浮遊してみたりしたいものですが、この異能だって便利ですよ」
鈴木は声を潜めて田中に少し寄った
「田中さん、佐藤さんに告白して振られてますよね」
田中の異能が解けて盛大に尻餅をついた
「二人きりだったはずなのにっ」
彼は床の上で悔しそうに呟いた。
「ふっ、まだまだですね」
鈴木は勝ち誇った笑みを浮かべていた。
内緒話をする時には、彼の存在に気をつけよう・・・
「振り出しに戻ってしまったな」
「異能がない生徒を探しているんでしたね、
それならやっぱり、さっき出て行った佐藤さんが見つけてくるんじゃないですか?」
鈴木が僕の方を指さす。
「いや、あいつはダメだ。あいつはバカだからな、多分何も考えずに行動してしまうタイプだ。」
田中が言うと説得力があるな。
「そうですかねぇ?時に皆さん、入学試験の時にどんなことしましたか?」
「どんなことって、そりゃこうやって飛んだぞ?」
「そうだな、僕も指先から炎を出した」
「私は、いつまで経っても面接試験に呼ばれなかったので、文句を言いに行ったら、そこで合格を言い渡されました。」
いつの間にか、教室に戻ってきた佐藤が自慢げに言った。
「あたしは、ペン回ししたわ!」
おわり