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第二話:昨日の明日の明日は明日。

 そもそも私の部屋としては綺麗すぎるとか、人間臭いあの臭いがしないというのが違和感極まりないのだが。


 ゴミ袋をひとまとめにしたのだから、足元がスッキリしているのはおかしな話ではない。

 だが、そのまとめたゴミの山すらないのはおかしい。


 パソコンがある机にばかり意識がいっていたので、瞬間的には気づけなかった。

 ゴミの山があったはずのその場所には、何もなかったのだ。

 あれだけの存在感のものがなくなっていて気づかないとは…。


 いや、正確には何かはある。

 山があったはずの場所の床には、白い灰のような砂のような粉が、砂場に作られた山くらいの規模感で積もっていた。

 これが、あのゴミたちの浄化された姿だとでもいうのだろうか?


 というか、概念としては浄化されたかもしれないが、ものがあるということは、結局片付けなければならないわけで。

 これはこれで掃除がめんどくさそうではある。

 当然ちりとりやらほうきなんてないわけで。

 というか、これは何ゴミなのだろうか…?


 そんなことを思いつつも、急にがらんと、しかも数段明るくなってしまった自分の部屋を見回す。


 わぁ、他人の部屋みたい。

 あの部屋の状態に罪悪感こそあったものの、一方で自分の痕跡だけで構築された部屋は私に安心も与えていたのだということを、今更知る。

 これはこれで悲しいような?


「カナコー!変なこと考えてないで、行きますよ!」

 ニコが、隣人への配慮が感じられる声量で、玄関から呆然としている私を呼ぶ。


「はーい。」

 今行きますよって。


 とりあえずはゴミの山も片付き、おそらく最終的に問題になるであろう臭いもなくなったということで、めでたしめでたし。

 リビングの砂の山は考えないことにしよう。

 …それにしても、なんだかずいぶんあっさりだったなぁ…。

 ん?

 そこでまた一つ、新たな疑問が浮かんだ。


 そういえば、ニコは日常生活では魔法はあまり使うべきでないと言っていた。

 それを私は魔法は融通が効かないのだという風に解釈した。

 だが、ハクアは掃除を呪文一つで終わらせてみせた。

 つまり、魔法で掃除はできるわけだ。


 だが、ハクアは魔法を使って倒れそうになっていた。

 シノブが手を握るだけで回復させてみせたものの、明らかにあの一瞬、ハクアは危険な状況にあったようだ。

 あれはハクアがエネルギー管理ができないせいだとコクウは言っていたが、そもそもそのエネルギーとはなんなのか?

 陰の気とか陽の気とか穢れとか、いまいちその判定がよくわからない。


 と、ぼやぼやしているうちに玄関にたどり着く。

 そこにはニコとコクウが待っており、シノブとハクアはすでに自分たちの部屋のドアを開けようとしていた。ツムギちゃんはそんな二人を見守っている。


 改めて大所帯である。六人とは。

 比較的大人数で集まりやすい幼稚園や小学生の時でも、自発的にそんな大人数でいたことはなかった。

 せいぜい集団下校の時くらいだが。

 なんにせよ、違和感が半端ない。


「ごめんごめん。」

 と待たせたようなので謝って、私は靴をやっぱり踵を踏ん付けて履き、部屋のドアを閉め、一応鍵までかける。

「あの。」

 そんな私に話しかける声がある。コクウである。

「ごめんなさいね。そんなに驚くとは思わなくて?」

 相変わらずの仏頂面だが、顔の傾きで反省しているように見える。

 というか、おそらく反省しているのだろう。声にも少し力がないような。少なくとも、ハクアと言い合いをしている時の威勢はない。


 考えてみれば、初対面でもこの子はシンパシーを感じるものがあった。

 喋るのが下手な結果として変な冗談言ったり、きつい言葉を発したりしてしまうのかもしれない。

 おかしいな、他人の話のはずなのに私の胸が釘が刺さったように痛い。


「いや…まぁいいよ。そういうこともあるよ。」

「ありがとう。」

 コクウはそう言ってはにかむ。

 …んんん?

 なんか今すげービビッときたような?

 可愛い?

 もしやこれが、萌え?

 いや、二次元に対してはいつだって抱いてきた感情だが、まさか三次元に感じる日が来ようとは?


 ニコは萌えを通り越して尊いので、それはそれで神なのだが。

 このコクウという子もなかなかやりおるということですねわかります。

 目の保養とはまさにこういうことなのだろう。


 というか、いつも冷たいから、素直な表情でギャップ萌えという王道。

 それこそニコなりサトミさんなり相当な美人のなかでいうと、印象に残りにくい容姿ではあるがそんな子だからこその?

 最強かもしれん。いや、最強はニコだから?


「…余計なこと考えてないで行きますよ?」

 ニコが呆れたような表情で、私の袖をひく。

 見ると、シノブ、ハクア、ツムギちゃんはすでに家に上がっており、件のコクウもすでに部屋に入るところであった。

 私も、ニコと連れ立って、シノブたち四人の新居に入っていく。

 親戚以外の他人の家に入るのなんて初めてだなぁなんて、また無駄なことを考えながら…。

〜次回予告〜

カナコ:「というか、そもそもハクアさんが大出力で魔法をぶっ放すのが悪いような?」

ハクア:「なぁにコクウに懐柔されてんだあんたは!」

カナコ:「オタクなんてたったワンカットしか出てこないモブに恋しちゃう民族なんだから、チョロいのなんて当たり前だろうが!」

ハクア:「なんの逆切れなのそれは?」

カナコ:「わからん!」

ハクア:「なんかいつもあたしにばっかり当たり強くない?」

カナコ:「そんなことないもん。」

ハクア:「何キャラなのそれは?何ボケなの?」

カナコ:「というわけで次回は『第三話:読心とか閉心とかそういうややこしい色々。』をお送りします。」

ハクア:「お楽しみに!」

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