第三十七話:新しいご近所事情とケセランパサランの行方。(前編)
「…相変わらず嵐みたいなやつだな…。」
「エセも相変わらず。」
「そういえば、サトミさんたちと、シノブさんたちは同期なのですよね?」
「まぁそうだな。」
…。
え?終わり?
これまでの疑問が解消されるのかと思えばそんなこともなく。
しかも会話がここで終わるとまた嫌な沈黙が…。
「あぁもう!状況説明でしょうが!なんでそうなのあんたたち!」
と思ったらそうはならなかった。
ハクアの一声で、私たち一行は今やるべきことを思い出した。
しかし先ほどはめんどくさそうだったのに、嫌に乗り気である。
あるいは面倒だからこそ早く終わらせたいのか。
…うん。間違いなく後者だな。
「…えぇ…俺たちの部屋で話すか?何もないけど、他人の家に上がるのはどうもな…。」
そう言って後頭部をかいているシノブ。
まぁ、私も他人の部屋に入ったり、他人に部屋に入られたりが苦手なのでわかる。
そして彼らの部屋なら確かに、こちらとしても気を使わずに済む。
何せまだ越してきたばかりで何もないからだ。
椅子も机もないが、どうせ立ち話ならこの場に居座るよりはマシだろう。
私たちの無言を了解と受け取ったらしい。
シノブは手すりを持って階段を上がり始め、それに白黒、ツムギちゃん、最後に私たちが続く。
だが、階段を上がり切ったあたりで、ハクアが立ち止まった。
「なぁ、私たちの部屋って、ここの奥なんだよな?」
「…そうだな。」
「なんか、すごーく嫌な匂いがするんだけど?」
「そうね。」
「そうなのですか?私にはわからないのですが…。」
「俺もかな。」
ハクアの言葉に、コクウも頷く。
うぅん。なんだろうその反応は?
とってもとっても心当たりがあるような?
「あたしたちの部屋の隣って、あなたたちの部屋よね?」
「…はい。」
「…そうです。」
どうやら本当にそういうことらしい。
ニコの話だと、外には匂いは漏れていないとのことだったが、白黒の狐コンビにはどうやらわかってしまったようだ。
確かに狐は犬科だし鼻がいいと聞いたこともあるが…。
「あんたら、どうやったらこの匂い作れるのよ…。」
「おおよそ真っ当な人間が発生させられるニオイではないわね。」
真顔でどぎついこと言うやんふたりとも。
と思う暇もなく、ハクアがズカズカと廊下を歩いていき、私たちの部屋の前で止まった。
「このドア開けて、窓も全部開けて。早く!」
すごい剣幕で私たちにそう命令する。
剣幕がすごいと言うよりも、どちらかというとニオイで顔を顰めているのか。
どっちにしてもこれに関してはなんの反論もできないうえ、強い口調と態度に圧倒され、私はソクサクと部屋のドアを開けた。
と同時にむわっと広がるこもった湿気と臭い。
ハクアはさらに顔を顰める。
せっかくの可愛い顔が台無しもいいところな顔。
複雑な表情をしているニコ。
苦笑いしているシノブとツムギちゃん。
クロハもポーカーフェイスを保とうと努力しているが、若干表情が崩れている。
え?何この公開処刑?
嘘だろ?ここにきて?
ニコと協力して隠蔽できそうだったのに?
せっかく?
もうやだ。私死にます。
「あの、ごめん、本当に早くしてくれる?」
ぼやぼやしていると、ハクアが今度は少しなるには下手に出てお願いしてきた。
よっぽど切実なのだろう。
「ごめん。すぐに。」
と私が部屋に入ろうとしたところに、ケセパサたちが足元に寄ってくる。
そして見知らぬハクアに驚いて私の足元に隠れた上で、威嚇している。
「ケセ!」
「ケセケセ!」
なんじゃそりゃ。
安全なところから威嚇するとか、地味に嫌なやつだな。
いや、むしろこれが野生で生きていくす…。
「ケセパサ!どうなってんのよあんたの部屋!?というか早くしてお願い!」
ハクアが驚くやらなんやらかんやらで大変なことになっている。
私たちですら少しならず心や肺など心身にダメージがある臭いなのだ。
鼻がいい狐には耐えられない臭いに違いない。
私は靴を踵をふん付けて無理やり脱ぐと、リビングの窓を開け、台所にある小さな廊下に面した窓も開ける。
ケセパサたちもそんな私についてくるが、窓を開けるたび、入ってくる少しの風で吹き飛ばされる。
軽すぎるだろ。
そして玄関まで戻って、ハクアに告げる。
「開けた。」
「おっしゃ!ケセパサたちも外に出して!」
いうまでもなく、私が外にでると、今度はケセパサたちもついてきた。
RPGの仲間キャラかお前たちは…。
ハクアは開き直ったような強気な声と共にどこからか杖を取り出す。
先ほども振るっていたものだ。近くで見ると、ニコのものと若干デザインが異なる。
ハクアはそのまま無駄のない所作で杖を振るう。
「浄化せよ!白銀の風!」
ハクアがそう叫んだ瞬間、杖の先から宣言通り、銀色に輝く気体が私の部屋に向けて吹き出した。
〜次回予告〜
カナコ:「とうとうやってきましたよ。」
ツムギ:「何がなのですよ?」
カナコ:「前後編で分けられる日が!」
ツムギ:「な、なんの話なのですよ…?というかそんなにテンション上がることなのですよ?」
カナコ:「ううん。全然。」
ツムギ:「えぇ…。」
カナコ:「というかこのやりとり前もしたような…。」
ツムギ:「というか、カナコさん荒んだ暮らしをしていたのですね…?その上今度は収束点になってしまうなんて…いやむしろ収束点だからこそこんな生活だったのですかね…?」
カナコ:「うぅん?この生活を始めたのは半年くらい前からかな?」
ツムギ:「じゃあ…どっちかわからないのですよ…。」
カナコ:「はぁ。私のせいですよ。私の怠惰ですよ。ごめんなさい反省します。」
ツムギ:「ま、まぁ不摂生な生活を送ってしまうことくらい誰にだってあるのですよ!それより大事なのはそこからどう立ち直るかなのですよ!」
カナコ:「干支の神鼠様に言われると有り難さが違いますね。有り難やー!」
ツムギ:「そんなたいそうなもの…でもあるかもしれないのですよ…。」
カナコ:「いや、そんな真顔で言われても…。ということで、次回は第三十八話:『新しいご近所事情とケセランパサランの行方。(後編)』をお送りします。」
ツムギ:「なんと、次回で第二章本編終了らしいのですよ!」
カナコ:「お楽しみに!」
幕




