第三十話:身近すぎて忘れがちだけどすごく大切なこと。
しかし、何かが引っ掛かる。
つまり、この埃の塊のような生命体は、私が生み出した?
「そうですね、多分。」
だがケセランパサランを生み出せるのは、なんらかのエネルギーを持ったものだけ。
だが、そんなもの、私は一度も感じたことがない。
「はい、カナコの場合は収束点という特徴もありますからね。エネルギーが集まってくるのは事実です。」
なるほど?
それでケセランパサランが発生したということか…。
いや本当か?
いや本当なのかも知れない。
なんの実感もないこの収束点という能力が、昨日から唐突に、私の人生を狂わせている。
というか、数年前からこの能力は他の人から私にうつってきているという話だったが、ではなぜよりにもよって一気に、こんなに多くのことが起こるのか?
いや、ケセランパサランについては、数年前から私の周りにいたのかも知れないが。
しかしここに越してくる前の家でも、ここに越してきてしばらく、まだ部屋が綺麗だった時にもこんな未確認生命体は見かけたことがない。
ドラゴンに殺されかけたり、よくわからない変質者に殺されかけたり、散々である。
ニコとの契約の日時に合わせて起こっているとしか思えない。
あるいはドラゴンが暴れ回るくらいならば、魔法少女界隈ではあまりおかしな話ではないのかも知れない。
改めて振り返ると、猫耳一人で結構な瞬殺だったようだし…。
だが、それに当時まだ一般人だった私が巻き込まれる道理がない。
とはいえ、直近の問題はケセランパサランたちである。
この生命体を、私はどうすればいいのだろうか。
相変わらず私たちの一挙手一投足に怯え慄いているケセランパサランたちに向けてしゃがみ込む。
こちらが少し小さくなったで、向こうも少しだけ警戒を緩めたようだ。彼らの体の震えが少し治ったような気がした。
犬や猫に近づくときと同じ感覚である。
目線を近づけて、改めて目を凝らして数えてみると、大きな毛玉が一つ、中くらいの毛玉が二つ、小さな毛玉が四つある。
これはおそらく、七匹?七玉?のケセランパサランがいるということか。
確かに虫なり、カビの原因になる生ごみを処理してくれていたというのはありがたいが、これが部屋の床を這い回っていたと思うと若干気持ち悪いような?
「これ、どうすればいいんだろう?」
ニコを振り向き尋ねてみる。
外に逃した方がいいのか、家で飼うのか?
これはペットなのだろうか?このアパートはペット禁止だったはずだが…。
「そうです、確かに。野生のケセランパサランもいるらしいですし、放してもいいかも知れませんが…無責任な気も確かにしますね…。」
「うぅん?」
意図していないにしても、私のせいで生まれてしまったらしいからな。
なんとかしてやらねぇと。
でもどうすればいいか何にも分かりません。
何せケセランパサランなんていわばUMAのようなものなわけで。
有機物ならなんでも食べるというが、あんまりなんでも食べられすぎても困るわけで。
ゴミ袋をまとめるのに必死で注意深くみていなかったが、もしかしたら家具なり本や漫画なりは齧られたりしているのかも知れない。
何せ木材や紙は有機物である。
そんな見方をしたのは中学で習った化学以来だ…。
「うぅん?」
そんなことを思いつつ改めてケセランパサランたちをみる。
すると、流石に長い間私たちが何もしてこないので、彼らも震え固まった姿から変化していた。
一番大きなものに小玉がみんな乗っかっていて、中玉の二つはそのすぐ前に立っている…というよりは転がっているのか?
目のようなものも口のようなものも毛に隠れているのか確認できないが、どうやら七玉全てが、こちらの出方を伺っているようだ。
「こんにちわ?」
とりあえず犬や猫に時々そうする人がいるように、人間に話しかけるのと同じように話しかけてみた。ついでに慣れない笑顔なんぞを浮かべようと努めてみる。
すると驚いたことに、向こうからレスポンスがあった。
「パサ!」
「パサケセ!」
「パサパサ!」
誰から発されているのかは判別しきれなかったが、そんなような効果音のような声のような音が聞こえてくる。
だが、幻獣といえど魔法少女たちとは違い人間の言葉を話せるわけではないらしい。
これでは何をいっているのかは愚か、何を思っているのかも…?
「多分、彼らはカナコに敵意がないことがわかったんじゃないでしょうか?」
と、ニコが後ろから屈んできて言う。
「なんでそう思うの?」
「いや、流石にこれだけ思考が単純な生物だと、明確に何を思っているのかはわからないんですが、なんとなくは…。」
「え…?」
そうか、つまりニコの能力は?
先入観に囚われ気が付かなかったが、どうやら人間だけが対象ではないと言うことか?
〜次回予告〜
ニコ:「まさかケセランパサランがいたとは思いませんでしたよぅ。」
ケセランパサランたち:「パサパサ!」
ニコ:「うぅん、この土地は確かにやばそうですけど、カナコにはやっぱり何かというのは感じないんですよね…。」
ケセランパサランたち:「ケセ?」
ニコ:「でも、それがカナコの特殊性なんですかね…?」
ケセランパサランたち:「パサ!」
ニコ:「うぅん、流石に何をいっているかまでは分かりませんね…。」
ケセランパサランたち:「パサ!ケセ!」
ニコ:「単純とか複雑とかではなく、想いに含まれる認識の差なんでしょうか?」
ケセランパサランたち:「ケセ?パサ?」
ニコ:「次回は、そんなケセランパサランたちとコミュニケーションをしようとする話です!」
ケセランパサランたち:「パサケセ!」
ニコ:「なんだかやる気十分って感じですね…次回は、第三十一話:『レッツゴー異種族間コミュニケーション!』をお送りします。」
ケセランパサランたち:「パッサ!」
ニコ:「お楽しみに!」
幕




