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サイドストーリー2(カナコ)

※:本編開始のほんの少し前、ニコと合流する直前のカナコ視点のお話です。

 カナコはシブヤ町の駅周辺を、ウロウロと歩いていた。

 目的はあったけれど、理由はなかった。


 ただなんとなく足の向いた方へ向かった結果、この場所にたどり着いた。

 なんとなく電車に乗って、なんとなく降りたらこの駅だった。それだけ…。


 シブヤ町は大きな町で、一人暮らしを始めてからは最寄りのターミナル駅でもある。

 一方、カナコはここ一年間で、この駅をほとんど利用したことがなかったのを思い返す。


 理由は単純で、人混みが嫌いだからだ…。


 常に自分の世界の中にいたいカナコにとって、こういった雑踏は不快だった。

 自分の世界が常に他人と接しているという感覚が嫌だった。

 自意識過剰だと思いながらも、他人の目を意識してしまうのも…。


 誰がどう思うか、想像しようとさえすれば、簡単に想像がつく。

 「他人の気持ちを考えましょう」というのは、それをそもそもしようとしない人が多いからそういう言葉が決まり文句としてあるだけだ…。

 そして絶望する。自分がいかに他人にとって害となるのかを想像してゾッとする…。

 カナコはぼんやりとため息をつく。


 いつからか、他人のことばかりを気にして生きるようになった。

 いつからか、想像通りのありきたりな周囲の人間に興味もなくなった。

 ただ、ありもしない不特定多数の他人という、視線のイメージだけがカナコにとっては苦痛だった。


 高く立ち並んだ摩天楼のビル群の壁面には、大画面の広告がいくつも並んでおり、目に煩い。

 まるで、どこかのアニメで見たディストピアの近未来都市のようだが、ここは現実、しかも現代である。


<…があればもう大丈夫…。>

<みんなで一緒に…。>

<…に出会えて良かったと…。>


 最近は、なのか、実は昔からあったのかもう思い出せないが、音声のある広告も多い。

 ちょうどそれらの真ん中あたりに位置するスクランブル交差点では、複数の音声が不協和音を奏でている。

 周囲の雑踏が、それに拍車をかけている。


 どこかで聞いたような言葉。

 どこかで聞いたようなメロディ。

 どこかで聞いたような話の冒頭のようだ…。


 カナコにとってそんな状況は非常に不快だったが、今はその不快さですらどうでも良かった。

 あるいは、その方が都合が良かった、と言えるかもしれない。


 だから、いつもは体の一部かの如く外にいる時は常につけているイヤホンも、今日は不要だ。


 …外を歩いていると、意識がぼんやりといろんなことに右往左往する。

 見たアニメや読んだ漫画の内容が思い出されたり、いつのことかわからないことを思い出したり…。

 煩雑な脳内は、今、目の前にある風景とほとんど変わりがない。


<がんばれ!受験生…>

<就活なら…。>

<この保険で…。>


<人生を変えるなら、今。>


 信号待ちをしているカナコに向かって、音声広告が投げかける。


 まるで嫌味のように。


 あるいは呪いのように…。


 変えるということにも色々ある…とカナコはぼんやり思う。

 物事は必ずしも自分にとってよく変わるとは限らない。

 それはそんなに多くのものに配慮しようともである。


 そして誰も、その過程にあった思いやりに目を向けたりはしない。

 機械化された社会では、常に結果だけが全てだ。


 始まりも変化だが、終わりもまた変化である。

 その二つが違うのは、始まりはその先を自分で確認できるけど、終わるとできないってこと…。


 私は、このしょうもない人生をリセットしたくてたまらない。

 カナコはしばしば太陽の光に慣れていない目をしばたかせる。


 だが、使い古された言葉の通り、人生にリセットなんてない。

 どれだけ状況が自分に都合の悪い変化をしようと。

 その過程でどれだけ理不尽なことが連続して起きようとも、である。


 そのことについてとやかく取り立てて無理ゲーだクソゲーだと言ってみても仕方がない。

 何せ、そう思っている自分以外の人たちの多くは、そのゲームをそれなりに楽しんで、そしてそれなりに満足のいく結果を出しているから…。

 おそらくこれはソフトの問題でもハードの問題でもなく、プレイヤーの問題なのだ。


 逆にどんなに面白いゲームだろうが…。

 というよりアニメとか漫画とか小説とかなんでも、どんな面白いストーリーだとしても。

 それを読む人間の肌に合わなかったら、そこまで。

 その先はどれだけ読んでも時間の無駄…。


「人生を変えるなら…。」

 カナコはその言葉をぼんやりと繰り返す。


 信号が赤から青に変わる。

 カナコは大勢の人たちの後ろを、ぼんやりと歩く。


 ふと目の前に、白ゴスロリ姿の少女が立っているのが見えた。

 その年齢にしては…という表現が正しいかはわからないが、珍しい格好だ。

 自分の趣味なのか、親の趣味なのか…。


 自分の好むと好まざるとに関わらず、そんな服装の一つだけで、多くの人が勝手なことを考える。

 現にカナコ自身がそうであるように。


 勝手につけられたレッテルに、勝手に惹かれたり、辟易したり…。

 カナコは自分のそんな気持ちに、心の奥で自嘲する。

 自分がやられて嫌なことを他人にするなよ…。


 そこへ、明らかに荒い運転のトラックが突っ込んでくる。

 カナコは仁王立ちのままでその場所に立ち止まっている。


 リセットはなくていい。

 この人生はただなくなればいい。


 クソゲーのコントローラーをぶん投げるのと同じことだ。

 誰にも届かないとしても、なんの意味もなくても、それは精一杯の抗議…世界への反抗だ。


 私の人生は、ここで終わっていい…。

 カナコはその時半ば恐怖ですくんで動けなかっただけだが、一方で、半ば自分の意思でそこに立ち尽くしていた。


 それが、わざわざ半年ぶりに外に出てきた目的…。


 しかし、その瞬間、全く予想外のことが起こった。

 それはまるで、寝耳に氷水を流し込まれたような衝撃と異常性を兼ね合わせた状況…。


 カナコの方へと一歩踏み出した白ゴスロリの少女が杖を取り出したかと思うと、それを振るい…。

 そして、世界の時間が停止したのだ。


 トラックで轢かれて異世界転生なんて今時、ストーリーの中では珍しくもない。

 むしろ、ありきたりな部類に入るとさえ言える。

 実際にそれがあり得るかどうかは別として…。


 だが、まさか死ぬこともできず時間が止まるとは誰が想像しただろう?

 カナコも腰を据えて考えれば、似たような話を思いついたかもしれない。

 けれど少なくともその時カナコは、この世界が初めて、自分の想像を超えるのを目撃した。


 この時、カナコについて回っていた枷のようなものが外れてどこかへ消えた。

 止まった時の中で、止まっていた時計の針が動き出す音が聞こえるような気がした…。

〜次回予告〜

カナコ:「さて、今回は私一人の次回予告な訳なんですが。

 …なんだかこんな昔のこと…っていうのは体感時間の話だけど…引っ張り出されると、なんとも言えない気分になるよね…。

 まぁでも今はこの時とは違うし…。そうやって変われたのは、紛れもなく、ニコのおかげだよね…。

 それが伝わってるのかは、わからないけど…。

 ということで次回は『幕間:前回までのあらすじ9』をお送りします。第六章は本当に新しい人と出会うことも多かったなぁ。

 ちなみに、次回でシリーズ第一部となる『日常系リセットのはずが、魔法少女でリスタートなんだが?』は完結となります。

 お楽しみに…って言っても次回はただのまとめなんだけど。

 後書き部分には第二部の情報もあるから、絶対チェックしてくれよな!」

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