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第五十九話:リセット?リスタート!

 ケセパサたちへのお土産や、自分たちの必要品、食べ物なんかを買ってアパートに辿り着く頃には、かなり夜闇も深まってきていた。


 だが大丈夫だ、問題ない。

 なぜなら、明日は待ちに待った週末、土曜日だからだ…。


 多分これまでの人生で、ここまで休日があっという間だったことはない…。

 ある意味、空前絶後と思えるほど密度の濃い一週間だったので、無理もないか。

 現実世界の充実度…これがリア充ってやつなんだろうか?


 いやまぁ、私がここ数日で経験したことが「リアル」という言葉の範囲に収まっている実感は、まだ湧かないんだけど…。


 それと同時に、こんなに休日になってホッとしたのも久々だった。

 いや、それに関しては、ここ半年私が毎日が休日状態の日々を過ごしていたからそういう気お持ちとは無縁だったっていうのも大きいけれど…。


 ケセパサたちにお土産として買ってきたものを渡す。

 ケセパサたちに買ってきたのは大きめのプラスチックの家っぽい形の置物や人工の水草…これは後からなんか違うと気がついた…だった。

 ケセパサたちは渡したばかりの時は目新しい物体に驚いたりもしていたが、数分後には興味を持ってくれて、最終的には気に入ってくれていたようで、買った甲斐があった…。


 初めは百円ショップでとか言っていたけれど、最終的には全部ペットショップで買ったので、そこそこの値段がした。

 これだけでも結構財布に打撃なのに、でかいアクアリウムとか作っちゃう人って、本当にすごいなと思う。

 まぁ考えてみるとそういう水槽って、アニメやドラマだと大抵、研究者かお金持ちのキャラの家にあるイメージだよね。


 そうこうしているうちに、料理ができない私、ニコ、ハクアのためにコクウが料理を作りに来てくれたりして、ご飯を食べて風呂に入って…。

 …と特別な事件もないまま一日は着実に終わりに向かう。


 まぁ杖をもらったところで魔法を使えるようになったわけじゃないし、何か変わるわけでもないよな。


 最終的には料理とかその他の家事も、魔法とかで全自動で作れると楽なんだけどなぁ。

 そんな映画あったよなぁ。最終的に魔法が暴走して全部やり直しになるみたいなオチだった気がするけど。


 コクウは料理を作り終えると、今日は自分は食べずにシノブの元に帰ってしまった。

 料理の手伝いをしながらコクウと話していたニコによると、彼女の分はシノブが向こうの部屋で作っているらしい…。


 コクウとハクアが交代でやってくる制度のせいで、無駄にややこしいというか、非効率なことになってるな…。

 最終的には何もかもやってもらっている私がいえた話じゃないけど、大変申し訳ない気持ちになる。


 これじゃまるで家政婦さん状態…どう考えても時間外労働だ。

 コクウはなんでもないって言ってくれたけど、早いこと私とニコだけでも料理をなんとかできるようにしないとな…。


 …というわけで、あとは寝るだけという状況の今、寝室には私とニコ、それにハクアの三人きりである。

 ニコは初めに出会った魔法少女だし、ハクアは大学で一緒なので、実質的に一番共に過ごした時間が長い二人と集まっているということになる。


 ただ、コクウの時同様、個別ではそこそこ話せても、三人ってなるとと途端に何話していいかわからなくなるんだよなぁ。

 ってハクアに言ったらコミュ障だとか内弁慶だとかまた言われそうだ。


「あ、あの…。」

 そんな私の気持ちを最大限に汲んでくれたのだろう。

 ニコが、無言でスマホを見ていた私と、雑誌を読んでいたハクアに声をかける。

 私もハクアも、その一声で顔を上げる。


「どうしたの?」

「いや…なんというか…今日は、杖が手に入って、本当によかったですよね。」

「え?うん…。」


 この会話は実は、三人で食卓を囲んだ時にも一度している。

 つまりこの話題振りは、この短い時間ですでに二回目ということになる。

 ちなみにその時は、私が話し始めたけど…結局食べ終わるまでしか続かなくて、それ以降話は発展しなかった。


 大学では私が沈黙に耐えられないということもあって話しかけることが多くて気が付かなかったが、案外ハクアは口数が少ない方なのだということが、ここにきて初めてわかった。

 そりゃ、そんなに長い間一緒にいるわけじゃないし、知らないこともあるのは普通なんだけどね。

 シノブもコクウも本読んでばっかりなイメージだから、そんな二人と一緒にいた結果として、そうならざるを得なかっただけかもしれないけど…。


「…でも、カナコは…本当にこれでよかったですか?」

 ニコが落ち気味の声のトーンで、ぼそっと呟くように言った。

「…どういうこと?」


「え?あーいや…なんというか、結局巻き込まれる形になっちゃったわけですし…。」

 私に尋ねられて、少し焦ったように、ニコが答える。

 独り言のような声だったが、本当に独り言のつもりだったのかもしれない。

 だとしたら拾ってしまって申し訳ないが…。


「巻き込まれるって言っても、仕方ないというかなんというか…。」

 正直私的には、巻き込まれたってこと自体にはそれほど引っかかりがあるわけではないというか…すでにその問題はクリア済みというか…。

 それにここまで来れたおかげで、魔法の杖をゲットし、全人類の夢である魔法使いになれる可能性まで出てきたわけで…。


「そんな気にすることないでしょ。

 カナコの場合、魔法を使えるってことの方が、面倒ごとに巻き込まれたっていうマイナスに勝ってそうだし…。」

 ずっと黙っていたハクアが口を開いたかと思ったら、そんなことを言う。

 ニコと違って心が読めないのに、相変わらず私のことをよくご存知で…。


「あはは…。」

 ニコはですよねって感じで笑っている。

 どんな表情しててもほんと可愛いなこの子は…。


「まぁ、それもあるけどさ…。それ以上に感謝してるんだ。」

「感謝?って何にですか?」


 ニコに尋ねられたことに、私は逆に驚いた。

 だって、ニコは心が読めるわけで、「感謝」って感情やその理由は当然知っていると思ってたから…。


 でも案外、言葉にしないと伝わらないってこともあるのかな?

 こういう感情ってややこしいし、詳しいことまではわからないとか…。

 ってなんだか恋愛ソングの歌詞みたいになっちゃってて非常に嫌なんだけれども?


「いや、なんて言うかさ。

 これまでの私の人生って、良くも悪くもあんまり外に開かれてなかったというか…。」

 ハクアはその言葉を聞いて何かつっこみたいような素振りを見せたが、空気を読んでくれたのか、結局は何も言わなかった。


 「あんまり」じゃなくて「全く」って言いたいだろうな。

 実際その通りだから、言われたら何も言い返せない。


「でも、ニコに会って、これまでじゃ考えられないくらい色んな人と会って、知らない世界に触れて。生活もちょっとずつ人間らしくなってるというか…大学にも行けるきっかけもくれわけだし…。

 それに何よりさ。私は本当は、ニコに初めて会った時、トラックに跳ねられて死ぬところだったのを、ニコに助けてもらってるわけだから。

 感謝してもしたりないくらいだよね、本当に…。」

「…。」


 ニコは何か言いかけたけれど、結局何も言わなかった。

 ただ、その目は涙に潤んでいた。


 彼女なりに、今回の事件に対して色々と責任を感じる部分があったのかもしれないし、背負っているものの重圧を感じていたのだろう…。


 ニコも、十四歳の少女ということだ。

 そんな彼女に、私はずっと守られてきた…思えば、一番初めの瞬間から…。


 だから今度は、ちょっとずつでもいいから、私が彼女を守れるようになれるといいな…。


 …ハクアはそんな私たちの様子を見て微笑ましいものを見る顔をして黙っていた。



 望月さんの最後の言葉を思い出す。

 社会に生きているということは、必ず助けてくれる誰かがいるということ…。

 なんだか正しいのかどうか判断に困る言葉ではあるけれど、少なくとも私のこれまでの一連の流れの全てが、それを証明しているような気がする。


 あの日終わるはずだった私の人生は、ニコや、ミサキちゃんや、シノブたちや…これまでであってきた多くの人たちに守られ、支えられて、なんとかここまで続いてきたのだった。

 そして私は今、自分自身で魔法の杖を手にした。


 これからどうなるのかはわからないけれど、少なくとも、ここまできてみすみす死ぬわけにはいかないよな…。

 なんてね。



 …こうして、コミュ障というか内弁慶で、オタクで、元引きこもりな私の人生は、だいぶ一般の人間の「普通」から外れつつも、なんとかリスタートを切ったのだった。

〜次回予告〜

カナコ:「というわけで打ち切り漫画のような終わり方ですが…。」

ニコ:「思ってもそういうことは言うものじゃないですよ。」

カナコ:「思い返すと、本当によく生き残ったなって思うよね。」

ニコ:「あはは、そうですね…最後まで大変でしたもんね。」

カナコ:「コボクノセイは一応、殺すつもりはなかったんだと思うけど…。いや、どうだろ?」

ニコ:「あはは…。」

カナコ:「まぁでも、こうして生きているのも、元を正せばニコのおかげということで、本当にありがとうございます。」

ニコ:「いやいやそんな…。照れますよぅ。」

カナコ:「こんな感じで、第一部の本編は完結となります。」

ニコ:「このあとは、少しだけ番外編が続きます…。いつものアナザーサイドストーリーの代わりですね。」

カナコ:「というわけで次回は番外編の一つ目『サイドストーリー1(ニコ)』をお送りします。…アナザーサイドは結局一回もニコが主体になることはなかったもんね…。」

ニコ:「なんというか、こうやって改めて言われると恥ずかしいですね…。」

カナコ:「これで恥ずかしいとか言ったら、いつも心の中の出来事が全部発表されちゃってる私って一体ってなっちゃうからね?」

ニコ:「それは…確かに?」

カナコ:「認められた…。まぁそんなわけですけど、どうやら今回が二人で次回予告をやる最後の回らしいので、せっかくだし久々にあれやりますか?」

ニコ:「そうですね…じゃあ、せーの!」

二人:「「お楽しみに!」」

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