第二十話:チュウと鳴いて宙に浮いてさようなら。
「なんで置いていくのですか!」
私たちの元についてから、しばらく息を整えていた少女がいう。
コクウよりも若干背の低いニコよりもさらに背の低いその少女の側頭部には、丸っぽい顔に、丸っぽい耳がついていた。
こういった耳の形、よくある感じで言うと、クマとかだろうか?
だが色は灰色に近い。灰色の耳のクマを思い浮かべることができなかった。
「いや、急がないとやばそうだったから。」
「コクウさんの空間跳躍って、誰でも連れていけるのですよね!?なんで私だけ置いていくのですか!?」
「跳躍先がどうなってるかわからないから、最小限の人数で…。」
「管原さんたちは私という監視がついているから自由にやれているのですよ?そんなに勝手ばかりやっていると、また権利剥奪なのですよ!」
また意味不明な会話が繰り広げられている。
これで何度目だろう蚊帳の外なのは。
まぁ元々この界隈は私の世界ではないので仕方ないのだが…。
と言うか魔法少女界隈ってなんだ?
「あ、そちらが角谷カナコさんですね?契約したニコさん?」
そしてどうやら私は、そのなんとも如何わしげな界隈では有名人らしい。
個人情報保護とかどうなってんだって感じだ。
「こんにちは。私はこの三人を監視することになり、この地に滞在することになりました、神鼠族のツムギと言うのですよ。」
「シンソ?」
「はい、神使のネズミ。わかりやすくいえば、干支のネズミの一族なのですよ。」
エト…あ、干支か。
と言う生まれた国を疑われそうな思考を挟んだ上で、沸々と驚きの心が湧いてくる。
干支の動物といえば、該当の年の歳神でもあったような?
つまり目の前にいるのは魔法少女であり神なのか?
そんな威厳は感じないが、それは今年が子年じゃないからである可能性もある。
と言うか、さっきからいっていたが、監視ってなんだ?
そんな神のような少女が監視しなくてはいけないとは。
この青年白黒三人組は何をしでかしたと言うのだろうか?
久々に質問が頭の中で弾けて飛んでいくが、答えは考えても出ないような事柄ばかり。
こう言う状況は困るので非常にやめてほしい。
と言うか、この状況で困らない人を知っていたら是非とも紹介してほしい。
そんなことを思っていると、いつの間にかBGMとかしていた、白黒の喧嘩が、いつの間にか止んでいるのに気がついた。
「足音が聞こえる。」
「四人ね。」
ハクアとコクウが交互に言う。
先ほどシノブを蹴り飛ばした時といい、仲がいいのだか悪いのだか…。
「きっと音羽チサトさんたちなのですよ。この土地の守護者の…。」
「逃げるぞ!」
「え?」
「そうね。」
「え?え?」
「ハクア、コクウ、頼んだ。」
ツムギの言葉を聞いた途端、先ほどまで喧嘩したりなんだり全く息のあっていなかった三人の呼吸が合い始める。
シノブの号令と共に、コクウは杖をどこからか取り出し、ハクアはツムギににじりよった。
「え?ちょっとまってくださいなのですよ!今の現状をこの土地の守護者さんに説明しな…。」
「知らん!」
「ぎゃうっ!?」
そして、とやかく言っているツムギの頭にチョップをかますと、くらっとしているうちに自然な所作で小脇に抱え込んだ。
何を言っているかわからないと思うが、私も何を見せられているのかわからない。
「じゃあ、また。アイツは多分、チサトらがなんとかしてくれると思うから!」
シノブがこちらに向かってそういうとコクウが杖を一振りする。
すると、瞬きする間もないうちに、四人の姿は、どこかへと消えてしまった。
〜次回予告〜
カナコ:「なんか私の人生、唐突に鼠算式に知り合いが増えて怖いんですが…?」
ツムギ:「知り合いが増えることはいいことなのですよ!」
カナコ:「今日もお相手は神鼠族のツムギさんと他ゲスト一名でお送りしております。」
ツムギ:「え!?私はレギュラーではないのですよ?」
カナコ:「ノリツッコミ的なものを期待していたら、ものすごく正論で返されて辛い。」
ツムギ:「あれ?す、すみませんなのですよ。」
カナコ:「だから他人と話すのは嫌なんだぁ!」
ツムギ:「あれ?というか、予告だと結構お話しするんですね?」
カナコ:「そうしないと話が進まないからね!独り言だと思って頑張ってます!」
ツムギ:「えぇ…。」
カナコ:「というわけで、なんだか色々ワケありそうな四人組には説明のないまま逃げられ、次回は現場検証ですね。」
ツムギ:「ご迷惑をおかけするのですよ…まさかお三方がここまで話が通じないとは思っていなかったのですよ…。」
カナコ:「ということで次回、第二十一話:『よくわからない他人の因縁には足を突っ込まない。』をお送りします。」
ツムギ:「乞うご期待なのですよ。」
幕




