第三十四話:暗い森は迷いと戸惑いの森。
いや、行きますというのはいいけども、どこへ?
ここまで歩いてきたのは獣道というか道なき道というか。
少なくとも都会のコンクリートの上しか歩いたことがない私からすると、辿って歩けるかどうかも怪しいようなものだった。
背の高い樹木のせいで陽の光が届かないからか、木の幹が並んでいる根本の部分は他の植物はあまり生えておらず、視界がそれほど悪いというわけではない。
だが、遮るものは木の幹しかないはずなのに、それでも見渡す限り木の幹とその先の闇以外見えない。
つまり、この薄暗い森は目で見える限りどこまでも続いている。
そして、同じような木が並んでいるだけなので、目印になりそうなものが何もない。
何も考えずに進んだら、まぁ間違いなく遭難ですな。
「…でも、どこへ行けばいいんですか?」
ニコが私の代わりに尋ねてくれる。
「森の精霊は、基本的に古い木にいるものほど序列が上ね。」
「そうだね、この森もそうなんだけど…。一番古い杉の木が森の中心にあってね。角谷君とニコ君には、とりあえずそこを目指してもらうよ。」
「森の中心…。」
すでにあるてきた方向すら自信を持っていえない私にとっては、どこにあるのかわからない場所を目指すというのは至難の業であるように思われた。
それでもやるっきゃないにしても、せめてどうすればそこに辿り着けるかくらいは教えて欲しいのだが…。
「でもどうやっていけば?」
「多分、今までの話を聞いて、角谷君たちに会う意思が向こうにあれば、歩いているうちにたどり着くと思うよ。」
「…えぇ……。」
まさかのノーヒントかよ!?
いや確かにこっちも、確かな答えを求めていたわけじゃなかったけども!
これまでの様子から、地図とか方位磁針とかではたどり着けないんだろうな、とは思っていた。
けれどもまさか、この状態で気ままに進みなさいと言われるとは?
それこそなんか魔法の見えない力でどうたらこうたらとかじゃないんだ?
というか、向こうに会う意思があったらっていってたけど、なかったら永遠に会えないのかな?
それってまさに遭難じゃないかな?
というか、さっきから「森の中で遭難RTA」やるとしたら正攻法になりそうなことをそのまんま全部やれって言われてる気がするんだけど気のせいかな?
「とりあえず、どこにいるかは把握できるから、大丈夫。」
コクウがそういって励ましてくれる。
まぁそうなんだろうけどね…。
でもそれって神隠しとかされても大丈夫なのかな?
というか今更だけど神隠しって何?
「いざとなれば、こちらの協力してくれる精霊もいるから、大丈夫だと思うよ。」
じゃあその協力してくれる精霊さんに今の時点で助けてもらうことってできませんか?
…できないんだろうなぁ。話の流れ的に。
「…まぁ一応ヒントというか方法としては、まっすぐ進み続けることかな。振り返らずに…。」
有名映画のラストシーンかな?
確か別れた相手とは二度と会えないって裏設定あるらしいけど、私今まさにそういう状況になりかけてますよね?
「要は、辿り着こうと思ってたどり着ける場所じゃないってことよ。」
ハクアが捕捉した。
そんな…どんな場所にでもスマホの地図で行ける時代に非科学的な…。
いや、それに関しては非科学的な現象を山ほど目の当たりしてきて、今更か…。
でもまさか、こんな少数民族のイニシエーションみたいなことを、なんの予告もなく、しかもこの現代に、やることになろうとは…。
「健闘を祈るわ…。」
そういって望月さんは、私と向き合う一から少し移動して、私の前に道を作る。
えっ。今から!?
ニコの方を見ると、流石にニコも不安そうだ。
そりゃそうだろ…。今から遭難してください、いざとなったら助けに行くんでって言われているようなもんだ。
それでも行くしかないのか…。
夢の中でリンネが投げかけた疑念が一瞬頭をよぎる。
派遣機構が信用できないとしたら?
でも、仮にそうだったとしても、わざわざこんなに回りくどい、しかもこんなに運や、私たちの自由意志に大きく左右されるような方法は取らないはずだ。
殺そうと思うえば、いつだって彼らは私たちを殺せたはず。それも跡形もなく。
そもそもそんなことを考えること自体、自分を落ち着けるための現実逃避でしかない。
私はシノブたちを信用している、という状況は変わらない。
だとしたら、彼らが命綱になってくれることを信じて、前に進むだけだ…。
それに今回は私一人じゃない。ニコがいる…。
一人でなんとなならないことが、二人でなんとかなるというのは甘い考えかもしれないが。
それでもかなり心強い。
大丈夫だ、私は一人じゃない…。
〜次回予告〜
カナコ:「次回からは特別編、森の中で遭難RTAをお送りしますお楽しみに。」
ニコ:「わかりやすい嘘予告…というか、縁起でもないしやめてくださいよう…。」
カナコ:「でもニコ、頼りにしてるからね?今の時点では少なくとも魔法を使えるのはニコだけだし…。」
ニコ:「え!?…いや、はい!そうですよね!いざとなったら私がカナコを守ります!」
カナコ:「うん、自分で言っといてなんだけど、五歳下の子にこれ言わせるのすっごく情けないね?」
ニコ:「いや、こういう場合年齢は関係ないんじゃ…?」
カナコ:「そういうもんかなぁ…というわけで次回は『第三十五話:遭難デートってハードル高すぎない?』をお送りします。」
ニコ:「お楽しみに!」
幕




