第三十二話:代償をくれなきゃいたずらするぞ。
「問題って…?」
望月さんの態度の変化にちょっと戸惑いつつ、私は尋ねる。
だがその言葉に答えたのは、何かを思い出した様子のニコ。
「そういえば、この森は精霊がイタズラ好きで有名で、生徒だけでは入らないようにって言われたような…。」
「へぇ…。」
その精霊さんに今から杖くれって言いに行くのか私は…?
というかイタズラって何?ピクシーとか妖精とかそういう感じ?
…っていうか、なんでそんな重要なことを忘れてたんですか、ニコさん?
「あ、いや…第三種は実技はそれほど練習しないので、この森に入る機会がそもそもあまりなくて…。」
まぁ、私も思い出がなさすぎて高校までの人生の記憶ほとんどないしな…。
同じようなもんか…。
「あははは…。」
笑って誤魔化された。
「まぁそれもそうなんだけど、杖に向いているような木はそれ自体が霊力を持つような強力なものも多いし、要するに古いのが多いんだけどね…?
そういう木になってくると、この土地にまだ学校が建っていない頃からこの土地にいる精霊も多いんだ。」
「人間嫌いの精霊が多いのか。」
「道理でさっきから時々感じ悪い雰囲気のやつがいるわけね。」
「学校の創設と樹木の移植を全ての精霊が承諾していたわけではないからね…。」
えぇ…。
まぁ確かに、トンネル工事とか土地の開発とかで祟りがあるみたいなのはよく聞く話だけども。
そう言った存在と密接に関わっている派遣機構の施設を作るのですら、そういうことになるのか…。
というか私、そんなところでノコノコ出て行ったら祟られたりしない?
それ以前にこの場所に学校たってて?しかも森の中で演習?ってあまりにも危険っていうか、面の皮が厚いっていうか…。
知らずに入ってきちゃった私たちも同罪かも知れないけど…。
「だ、大丈夫なのですか?」
「そうですね…あまり危険なら別の方法を…。」
ツムギちゃんやニコが心配そうにいう。
「もちろん、多くの精霊は納得してくれていたし、それ以上に多くの精霊が、人間や幻獣とは深い関わりを持ちたがらないから、普段ならあまり問題はないんだ。
せいぜいものがなくなるとか、数日神隠しに会うくらいで…。」
それは大丈夫の範疇なのかな?
人間世界で三日も音信不通だったら行方不明届け出されてもおかしくないよ?
まぁ私は半年間誰とも音信不通だったけど、そういうのはなかったんだけどね?
「ただ、それはあくまでこちらから関わろうという意思がない場合に限る…今回はそうじゃないからな。」
望月さんは、そう言って作り笑いをする。
特にそれ以上フォローがあるわけでもない。
「いやでも…これからどうするんですか?」
みんなで一緒なら流石に神隠しってことにはならんだろうと思ったのだが、そういえば、ここまできてこれからのことをまだ聞いていないことに気がついた。
話が脱線してしまっていたことに気が付く。
きっとこれまでもそうやって聞きそびれたことが山ほどあったんだろうな…。
って今朝からそんなことばかり考えてるけど、私は今日で死ぬんか…。
「ここからは、角谷君とニコ君の二人で行ってもらうつもりなんだ。」
うん、やっぱ今日死ぬかもしれん。
死なないまでも行方不明になるかもしれん。
いや、魔法少女の卵たちなら数日行方不明でも問題ないかも知れないけど、私はやっぱり死ぬかも…。
というか、それは「イタズラ」ってレベルじゃねぇぞ…。
「そ、それはまたなんで?」
焦りのあまりユウトのような喋り方になりつつ、尋ねる。
護衛とかそういう話はどこに行ったんだ…。
そもそも私の安全のための杖ではなかったのか…。
っていうのはなんかちょっと自意識過剰というか、勝手な主張っぽくて気持ち悪い感じするけど…。
でも、辻褄が合っていないっていうのは事実だと思うんだけどなぁ。
〜次回予告〜
カナコ:「なんか、守られてる側で色々とやかくいうのは嫌なんだけど、今回はかなり不安だなぁ…。」
ニコ:「そ、そうですねぇ…。私もこの森にはあまり入ったことがないので…。」
カナコ:「第三種のグループだったからだっけ?学校のクラス分けって、第一種…はあまりいないって話だったから、第二種と第三種の二つってことだよね?」
ニコ:「そうですね。…十歳になる時に、契約相手を決めるんですけど、その時に決まるんですよね。」
カナコ:「なるほどねぇ。でも魔法で実習以外で何があるの?」
ニコ:「意外に学ぶことは多いですよ?それこそ杖や魔法陣の技術とかも学びますし…人間さんと契約するわけでもないので、自分だけでもある程度人間の世界のことがわかるようにならないとならないですし…。」
カナコ:「でもその割には、ニコは色々知らないことも多いよね?」
ニコ:「い、いやぁそれは…そういうこともありますよ!」
カナコ:「そうなのかな…いやまぁそうか…。というわけで次回は『第三十三話:二人きりでも生きていかなきゃならない。』をお送りします。」
ニコ:「お楽しみに。」
幕




