第三十一話:何かを手に入れることは何かを失うこと。(後編)
「ってまぁ、私の話をしても仕方ないか…。
角谷君の場合はまた事情が別だからね。」
「いや、そんなことは…。」
そんなことはないのだが、確かに話している間にも私たちはかなり森の奥深くにやってきてしまっている。
そろそろ話を本題に進める必要がありそうな感じだ。
「でも、ここの木が杖に向いてるのは分かりましたけど、なんでここに?」
「派遣機構への移動だとまた結界の裏をかかれる可能性もあるからね。
…と言うのもあるけど、さっき言った通り、人間に杖を渡したくない派遣機構の幻獣たちは多い…だから、派遣機構で作ったものを受け取るとなると面倒なことも増えそうだしね…。」
「あれ?でも望月さんも、シノブも、自分の杖持ってるんだ…ですよね?」
ついシノブだけに話しかけるような気持ちでフランクに進めようとしてしまった。
そんな私を別に気に留めるでもなく、二人が答えてくれる。
「いやぁ、私のは自作だから…。」
「俺も正規のルートで手に入れた杖ではないからな…。」
「…なるほど。」
望月さんはある意味予想通りという感じだが、シノブが言葉を曖昧なままにするのがすごい気になるんだけど?
…まぁ今は深く考えないようにするか。
また話し出すと長いパターンな気がするし。
「そう、ただ杖って別に人間や幻獣が作るものだけじゃない。
森の精霊には人間が使える杖を作れるものがいる…この森はそもそもそういった精霊が多く住んでいる場所なんだよ。」
精霊が人間に杖を与える?
…というかそもそも精霊ってなんだ…。
地味に今まで一度も聞いたことがない単語な気がするんだけど。
正確には聞いたような気はするけど、出会ったことがない。
私たちは、まぁもちろん人間。
ニコたちのような魔法少女は幻獣。
ヨドミノヌシにような存在は神霊。
確か初めに出会ったドラゴンや、デパートを出たところで追われた巨大火球は妖魔だったか。
「精霊っていうのは、まぁ簡単にいえば、神霊よりもより狭い範囲を守護する存在ね。
神霊…いわゆるカミは土地を守護するのが基本なんだけど、それに対して樹木や河川、岩石とかを守るのが精霊ね。」
「…なるほど。」
「精霊に杖をもらおうって話なのか?」
「そうだね。角谷君のケースはかなり特殊だし、本人も魔法がある世界の中で生きてきたわけじゃない。それにその魔法が使える体質っていうのも後天的なものなんだろう?」
「はい、そう…らしいです。」
その辺は私自身よくわからないけど…。
「そうだとすると余計に、おそらく誰かに作られた、それもしっかり自分に合った杖を使うことが重要だと思うんだ…。
ただ、さっきも言った通り派遣機構に頼れないとなると、より古典的な方法…つまり精霊から受け取るという形を取るのが最適だと判断したんだ…上層部がね。」
上層部…というのは、現首領だというシノブの弟や、シノブより強いらしいヤミさんのことだろうか?
…なんというか今更だけど、望月さんはその辺の事情全部知ってるっぽいけど、大丈夫なのかな?
というのは今彼女が話していることって、禁書の内容入ってないかな?
ヤミさんでさえ、直接私が質問しないと聞くことができなかった内容なのに望月さんはどこから…?
やっぱりその、シノブが人知れずに提出していたという報告書かな?
というか今更だけど、あそこで知ったことって私も誰かに話す時気をつけたほうがいいのかな?
でもこの感じだと、チサトや望月さんといった、今のシノブの上司に当たるような人は大丈夫なのかな?
「じゃあ私はその精霊さん?に杖を貰えばいいってことですか?」
「あぁ、まぁそう…なんだけど。」
ここにきて、望月さんの表情が曇り、言葉が澱む。
彼女は私に振り返ると、少し困ったような表情で言葉を続ける。
「ちょっと問題があって…。」
〜次回予告〜
カナコ:「前に聞いた話だと、妖魔、人間、幻獣、神霊であとは精霊に出会えば、大体全員と出会ったってことになるのかな?」
ニコ:「そうですね。まぁあとは、幽霊さんがいますけど、それは死んだ元の人間や幻獣とほぼ同じものとして扱うのが基本ですしね。」
カナコ:「えぇ…それめっちゃ初耳…。というか、人間の幽霊もびっくりだけど、幻獣にも幽霊っているの?」
ニコ:「はい、幽霊は死ぬ前の念が幽界にとどまったものなので、念を持ち、肉体を持つものは幽霊になります…人間さんや幻獣、それに場合によってや動物や植物もそうですね。」
カナコ:「確かに、動物霊とかもいうもんな…やっぱり世界って難しい…。というわけで次回は『第三十二話:代償をくれなきゃいたずらするぞ。』をお送りします。」
ニコ:「お楽しみに!」
幕




