第三十話:何かを手に入れることは何かを失うこと。(中編)
「正確には杖として使えるっていうのは、棒状のものならなんでもいいというか、なんなら杖を使わなくても魔法って使えるらしいしね…。
だから、どちらかというと、向いてる木、かな。
杖はそれ自体に魔力を込めて使ういわゆる『魔道具』ではないから、媒体はなんでもいいという考え方もあるんだけど…。」
なんだか嫌な予感がした。
嫌な、というか、これはツボにハマったな、という感覚があった。
早口で捲し立てるような喋り方はまさにオタクの専売特許。
身近なところで言うと時の教授なんかもこういう喋り方…まぁ私もそう言う時はあるかも?
望月さんは一呼吸おいて、とは言っても私たちに言葉を挟む隙は与えず、また喋り出した。
「ただ魔法は生命力なんかにも深く関わるし、だから伝統的に杖を生物である木で作るっていうのはあって…。
まぁこの国の幻獣たちの場合は、ただの杖よりは楽器とか傘に加工する場合が多かったみたいだけど、どっちにせよ、生み出すエネルギーの調和みたいなものを重視する傾向は一緒で。
そうなると木の種類とかによってもかなり違いがある。使う者との相性も大きいし…。まぁその中でも、特に『使いやすい』特徴のある木が重宝されるわけだ。
単純に加工しやすい硬さや、ふしの少なさとかもそうだけど、一番は霊力のある土地で育ったと言うことが重要。
霊力の高い土地の木々は、霊力を通しやすい性質に育つことが多いから、杖に最適なんだ。それも数代にわたってそう言った土地で育った木々は性質もより強くなる。だけど、その辺の木々を移植したんじゃあんまり効果が期待できない。
それで移植用に選ばれたのがこの土地の木々だったわけ。ちなみに学校が立っている空き地が、ほぼそのまま移植されたと言われてる。
幻獣はそもそも自然と共存共栄してきた種族だから、幻獣のいる土地は植物も育ちやすい。だから、今となっては、派遣機構の幻獣の森は、この学校の面積を遥かに上回る面積があると思うけどね。」
…。
ほとんど息継ぎなしに話していたリコの言葉がやっとひと段落ついた。
シノブたちは「またこれか」と言うような態度でもはや聞いてすらいない様子だったが、私、ニコ、ツムギちゃんは真面目に聞いていた。
ただ流石に後半の知識は魔法少女なら誰しも持っているものなのか、二人とも頷いていた。
「つまり、ここに生えている木は杖に適した木ってことですか?」
このままだとまたいつまでも話し続けられそうだったので、言葉を遮るように尋ねる。
「えらくバッサリだね…まぁでもそう言うことかな。」
まさかここにきて聞き取りと要約の技術がまた役に立つとは思わなかった。
…ただ、ここまでの言葉で少し気になることがある。
それは、望月さんの言葉はまるで自分も杖を扱ったことがあるような物言いだったからだ。
契約によって使えるようになった場合でも、奇異の目で見られるのを避けるために杖は持たない人間が多いと言う話だったが…。
「望月さんも、杖を持ってるんですか?」
「ん?あぁ、まぁね。私の相方は月兎族。<同化>の能力の魔法少女…と言うか幻獣だからね。」
そう言って望月さんは、服のポケットからすっと何かを取り出す。
それは黒い杖だった。
今まで見た中ではかなり短い方で、せいぜい広げた手のひらぐらいの長さ。
「月桂樹の枝をコーティングしてるんだ。いかにも月の兎の契約者に相応しい杖でしょ?」
なんの臆面もなくそう言い切る望月さん。
杖を持ってるとどうのこうのと言う話はなんだったのか…。
いや、他人の目をも気にしないほど、彼女の心が図太いのか…。
彼女は言うなら魔道具オタクだ。あるいは杖オタクかもしれない。
どちらにせよオタクなら、それくらいの図太さがあっても不思議じゃない。
自分の好きなものを好きといえて一人前みたいはところはあるもんな。
そもそも私の場合は?尋ねられなかったので言う機会もなかったが?
「まぁ、人間が杖を持つのをよく思わない奴は、人間でも、幻獣でも、少なくはないけどさ…。」
私が不思議な顔をしていた理由を察したのかもしれない。
望月さんは私に向けて、不意に真面目な口調になって、そう言葉をかける。
「ただ、もし自分が魔法を使えたら救えたのにって状態になったら絶対後悔するしね。
だとしたら、ちょっとおかしいと思われても、持ってて損はないかなってね。
…いやまぁ単純に、杖を使ってみたかったって言うのもあるんだけど…。」
絶対最後のが九割を占める理由だとは思うが、言っていることはわかる気がする。
何かを手に入れると言うことは、できることが増えると言うことだ。
そして、できることが増えれば、対応できる状態も増える…。
もし私も杖を手にしたら、自分の身を、そしてあわよくば自分の身の回りの人たちを、守れるのだろうか?
〜次回予告〜
カナコ:「ほんと、どの世の中にも、どんなものにでも、オタクっているもんだよね…。」
ハクア:「でも逆にあんたって、考え方とかは確かにオタクっぽいけど、望月みたいにコアな話延々と話してるみたいなの聞いたことないわね?」
カナコ:「えっ!?えぇっとそれは…確かに?」
ハクア:「いや、納得されても困るんだけど?」
カナコ:「いやいや、確かにそう言うの今のところ誰にも見せてないけど、それは私が心のうちで思うだけにとどめる謙虚なオタクだからで…。」
ハクア:「好きなものを好きといえてこそのオタクじゃなかったの?」
カナコ:「だから!それは私がコミュ障なオタクだからで…。」
ハクア:「コミュ障じゃなくて内弁慶でしょ…。」
カナコ:「うがぁ!とにかく私は引きこもりでオタクでコミュ障な大学生なの!」
ハクア:「元、引きこもりね…。」
ニコ:「あんまりカナコをいじめないであげてくださいね?」
ハクア:「いや、むしろフォローしてるような気もするんだけど…まぁいいか、とりあえず次回は『第三十一話:何かを手に入れることは何かを失うこと。(後編)』をお送りするわ。」
カナコ:「うがぁ!」
ニコ:「ここまでキャラ崩壊したカナコは初めてみました…。」
幕




