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第二十九話:何かを手に入れることは何かを失うこと。(前編)

 望月さんについて、私たちは「学校」の校舎の裏手に回る。

 一直線に校舎の方に向かってきたので、てっきり校舎内に用があるのだと錯覚していた私は少々驚く。

 とはいえ、その程度のことで今更歩みを止めることはなかった。


 校舎裏には花壇なんかが設置してありそうなちょっとした空間があった。

 実際は薄暗く日が届かなそうなその場所には、花壇はもちろんおおよそ空間を有効活用できそうな工夫は見当たらなかったが…。


 雰囲気としては、うちのアパートの裏のベランダを建物の長さ分横に引き伸ばしたような感じだ。

 ただし、校舎の向かい側にあるのは塀などではなく、どこまでも続きそうな木々の連なりである。


 これからここで何が始まると言うのだろう?

 校舎裏といえば、喧嘩か告白が定番である。

 まぁそんな雰囲気でもないけど…。


 校舎裏のある地点で、望月さんが立ち止まったので私たちも立ち止まる。

 その場所には、見たところ特になにもない。


 だが、望月さんはその場所で鬱蒼と茂る森の木々を正面にしてたち、まるで「自分と森のある場所との間に透明な壁がある」かのように何かに手をかざす。

 まるでパントマイムである。


「特例権限により、結界の一部解放を要請。」


<新都中央A地区守護管理者、望月リコの要請に基づき、第一結界の一部を、一時解放します。>


 望月さんの言葉に応えるようにどこからともなく機械的な音声が聞こえてくる。

 だがそれはハコニワの時の中性的で現代的な声でも、派遣機構の書物庫の時の古びて摩耗したような声でもない。

 落ち着いた女性音声で、今まで聞いた中で一番人間味がある。


 その声が聞こえたかと思うと、瞬間、望月さんが手をかざした場所が一瞬白く輝き、その光は盾のように横に広がっていき、ドアのような形になったところで止まる。

 望月さんがそれを軽く手で押すと、白いドア状の板のようなものは、向こう側へと開いた。


 どうやら彼女の行動はパントマイムでもなんでもなく、単にそこに「見えない壁」が実在していただけだということが、わかる。

 私は結構びっくりしたのだが、周囲にいるニコも、シノブたちも驚いた様子がない。


 唯一ツムギちゃんだけが予想外という表情をしていて安心する。

 おそらくツムギちゃんだけはこの学校にきたことがなかったので、結界システム?のことも知らなかったのだろう…。

 初見なら私の反応が普通だよな。うん。


 みんなでその扉を超えて森の中に入っていく。

 なんか、学校の裏山でどうのこうのっていうの、めっちゃ夏放送のアニメ映画っぽいな…。

 まぁそういう感じの話にしては、ここにいるメンツの平均年齢高すぎるけどね。

 大体二百弱くらいかなぁ…。

 改めて考えてみると、平均年齢とは、って感じだな。


「角谷君はみんなが、どこでどうやって杖を手に入れるか聞いた?」

「は…ん?あれ?」

 学校に入る八歳の時にもらえるのが普通みたいな話は聞いたけど、そういえば、そういう話は聞いてなかったかも?

 っていうか、本当に今更だけど、そういう話が聞きたかったんだよ事前に?


 まぁ私も思いつかなかったし仕方がない。

 私の場合は他の人と違うやり方だろうっていう予想は一致してたしな。

 聞いても仕方ないって思って忘れてた節はあるかも。


「杖は今、派遣機構の職人が作ってるんだけど、その時に使う材料の木は、幻獣の方のエリアにある森で採取してるのよね。」

 確かに、派遣機構に行った時に、幻獣側のエリアは森みたいになってるっていってたような気はするな?


「ただもちろん、向こうの世界に初めからその木々が生えてたわけじゃない。

 派遣機構を創設した段階で、杖に使える木々の一部を移植したんだ…。」

「杖に使える木なんてあるんですか?」

 プラスチックでも金属でも杖にできないことはないみたいなことを言っていたので、割とどんなものでも杖にできるものだと思っていたのだが…。

〜次回予告〜

カナコ:「そういえば、魔道具の開発って具体的には何やってるんですか?」

リコ:「うーん。例えばさっき使ったミョウガは式神で、これもこの国の伝統的な魔道具の一種だよね。」

カナコ:「式神を魔道具で総称されるとだいぶ違和感ありますけど、まぁ話を聞く限りそうですよね。」

リコ:「一応他に妥当な部署もないから、杖の職人なんかも所属してるし。」

カナコ:「なるほど…。なんかこう空飛ぶ箒とか透明になれるマントとかないんですか?」

リコ:「あー、まぁそれくらいなら、作ろうとすればそんなに難しくないけど、別に道具を作らなくても個人の能力とか、それこそ自分で魔法使って同じことできたりもするからさ…わざわざ道具にする意味がね?」

カナコ:「そう言われると確かに?」

リコ:「まぁファンタジー小説とかに出てくるようなアイテムに文句はないけど、時代的には箒とかマントとかランプとか剣とか持ち歩くのはスマートじゃないしね…。」

カナコ:「ロマンがない…というかそういうのじゃないとしたら逆に本当に何を作ってるんだ開発部…というわけで次回は『第三十話:何かを手に入れることは何かを失うこと。(中編)』をお送りします。」

リコ:「お楽しみに。」

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