第二十六話:ウサギに導かれてやってきた世界で。
というか、ウサギが喋っていて大丈夫なのだろうか?
腹話術か何かと思われているのだろうか?
幸い周りに、こちらに必要以上に気を留めている人はいないようだが…。
というか、周りに人がいないようだが?
そんなわけあるか、いや、そんなわけない。
だって仮にもここは駅前で、しかもまだ授業も行われている大学の校内なのに?
というか、さっきまでいたはずの人たちはどこに行った?
「人払いでここまでする必要あるのか?」
「念には念を入れてってことだな。」
「何か起こってるの?」
私には、人がいないだけでいつもの大学周辺の景色にしか見えないのだが…。
ニコの方を見ても、首を横に振るだけだ。
どうやら基礎教養的な現象ではないらしい。
「結界術は知っているな?」
「え?まぁうん。」
アサヒノモリの一件の時に少しだけ説明を受けた。
…だが、正直いまいち理解してはいない。
ただ、よくファンタジーとかでも出てくる「結界」っていうものとさして変わらないという印象くらいしかない。
「これはその簡易版のようなものだ。
結界を発生させた時にここの空間の中にいたものは外の世界にいるものには認知されなくなり、逆もまた然りだ。」
「つまり、一時的に自分たちだけの世界を作れるってこと?」
「理解が早いな。その通りだ。」
なんだかすごい久々に理解力を褒められた気がする。
まぁ理解するとかそういう次元じゃない出来事が多かったし、その割に説明は少なかったから無理もない。
いや、あくまで、状況に対して説明が少ないって話で、説明を受けている時間はかなり長いと思うけど。
というか、ほとんどその記憶しかないくらいだけど。
「でも、ここでどうするの?」
結界ということは、外に出るわけにもいかないだろうし…。
私たちしか含まれない範囲の結界ということは、そんなに広くもないだろうし…。
「さらに別の結界の中に移動するのだ。
まぁこの結界の中ならば、こちらの動きも悟られない。」
なんだそのフラグみたいなセリフは…。
ただでさえ世の中なんて「押すな」と言われたら押したくなる人間で溢れかえってるんだから。
そんな完璧な作戦みたいなこと言い出したら、破られちゃうだろうが!
「って、ことは、場所も準備はできたのか?」
「いや、今回は魔法少女派遣機構派遣員育成機関に移動する。」
「それって…。」
なんだかこう、聞いたことがあるような気がする単語なんだよなぁ。
「『学校』…ですか?」
ニコが少し表情を歪めて呟く。
まぁせっかく出てきた学校に再び行くのは色々嫌なのはすごいわかる。
「ああ。派遣機構では世界間の移動になるため相手に悟られた可能性がある。だがあの場所は結界の中というだけでこの世界の場所だからな…。」
なるほど、わからん。
そもそも話だけ聞くと万全を期しているらしかった派遣機構のシステムでダメなら、何やってもダメそうな感じしちゃうんだけど…。
世界と世界を移動するのが異世界転移。
一昨日の一件で、これだとダメだったから、今回はこの世界の中での移動にしたと…。
それってようはシノブが使ってるあの<飛脚の足>って術みたいなこと?
「あれ、でも瞬間移動みたいなのって難しいって話してなかったっけ?」
「え?あぁ、そうだな。」
「ふん、そのために私がきたのだ!」
そういってミョウガがぴょこんと跳ねる。
何度見ても、額に黒い模様がある白ウサギにしか見えない。
こんないかにもか弱そうなウサギちゃんに、一体何ができるというのだろう…。
いや、少なくとも結界発生させたのはこの子なのか…?
「式神には事前に、一定の条件で発動する術を仕組んでおくことができるのよ。」
「パソコンの自作キーボードみたいなものかしらね。」
「あんな鉄塊と一緒にするんじゃない!」
コクウの補足は逆にわかりにくいが、ハクアのいう言葉だけでもなんとなくは様子が掴める。
要するに、その場に魔法少女がいなくても術が発動できるわけか…。
「それで、瞬間移動ができるの?」
「あぁ、移動は狐の専売特許ではないからな!月の兎は月までも飛ぶぞ!」
「あんたはただウサギ型なだけの式神でしょうよ…。」
「何!?月の兎と私とではまさにツキとスッポンだと!?」
「いってない、いってない…。」
〜次回予告〜
ニコ:「なんだか、ウサギに導かれて別の世界へっていうのは昔読んだ童話を思い出すシュチュエーションですね。」
ミョウガ:「ふふん。まぁ私は有能だからな。」
ニコ:「そういう話ではない気が…いや…そういえば、ミョウガさんは術がいくつも使えるんですね?式神さんは基本的に一つづつしか術が使えないものだと思ってました。」
ミョウガ:「我が主人は式神の研究の第一人者だからな。」
ニコ:「へぇじゃあ、術もいっぱい使えるんですね。」
ミョウガ:「ああ、二つだ!」
ニコ:「…二つ?」
ミョウガ:「ああ、二つだ。えっへん。」
ニコ:「へ、へぇ…というわけで次回は『第二十七話:久々の登校ですが何卒よろしくお願いします。』をお送りします。」
ミョウガ:「せいぜい楽しみにしておくのだな!」
幕




