第二十話:意外なところで意外なものがつながっていく。
三限の東洋美術史の授業は南棟の012号室。
西洋美術史の授業を受けたのと同じ、南棟の一階の教室である。
美術史の授業はどうやらどれもこの教室を使うらしい。
一階なのは、階を上がる面倒がなくて良い。
特に今の私たちのように急いでいる学生にとっては、なおさらである。
南棟の一階に入るための階段を駆け上り、教室にラストスパートをかける…。
とは言っても、文化系の校舎の一番辺境にあるサークル棟のから、正門の目の前の南棟まではかなりの距離なので、流石に息切れしてスピードは歩くのと変わらなかったと思う。
私だけ。
ハクアってなんとなく怠け者なイメージあるわりに身体能力は高くて非常に納得がいかない。
なんてったって、私は肺に空気がなさすぎて死にそうになってるのに、ハクアは息一つ切らしていない。
「な゛んで…ぞんなに…。」
教室の前で一旦立ち止まって深呼吸をしながら、ハクアに抗議する。
「せめて息整えてから喋りなさいよ。
…というか、あんたは魔法云々より先に、体力つけた方がいいんじゃない?」
「ぐはっ…。」
「あ、死んだ。」
勝手に殺すな…。
まぁでも、体力はつけた方がいい、それはそうかも。
このままだと身を守るどころか、逃げるだけでもままならなそうだ。
というわけで、教室に入る。
教授はもう授業の準備を始めている。
私の親くらいの年齢の女性だが、髪をかなり短くしていて、気の強そうな印象を受ける厳しい顔つき。
…遅刻しなくて良かったぁ。キララ、今回はナイスだ。
教室全体で言えば、西洋美術史の時よりは若干人が少ない。
ただ、ここは小教室で、しかも時間がギリギリになってしまったこともあってか、三人がけの机が全て空いているというところもない…。
今回は流石に、知らない他人の隣に、恥を忍んで座るしかないか…。
今度からは絶対早めに来よう…。
と思いながら、とりあえずハクアと縦でも横でも並べる席を探していると、教室の窓際の席に、伊藤さんを発見した。
伊藤さんもこちらに気がついたようで、軽く手を振ってくれる。
私はコミュ障らしく小さく会釈で返す。
ただ、彼女の席の周辺には、友達らしい女子が数人固まっていて、迂闊に近寄れない。
フィクションの世界でも「友達の友達」とのやりとりは、気まずいということで相場は決まっている…。
…のだが、この教室は小さい。
席もほとんど残っていないし、せっかく手を振ってくれたのに、挨拶しないのもそれはそれで…。
というわけで、結局私は屈した。
何に屈したかは自分でもよくわからないけど、とにかく何かに屈した。
くっ殺せ…。
「お…おはようございます。」
「おはようございます。角谷さん、管原さん。」
相変わらず小柄で小声で小動物然とした可愛さのある人である。
「なになに?友達?」
伊藤さんの横に座っていた女性が、こちらに話しかけてくる。
後ろの机に座った二人も同様。
どうやら伊藤さんも含め、この二脚の机に座った四人で他人グループらしい。
「そう…同じオカケンで美術史学科の、角谷さんと管原さん。」
伊藤さんが丁寧に紹介してくれたのを聞いて、三人がまじまじとこちらを見る。
まぁハクアは目立つ見た目だしあれとしても、なんで私まで…?
いやまぁ、二年生になってぽっと出で友達って言われても、違和感あるのはわかるけど…。
「角谷さんってさ…。」
伊藤さんの隣にいた、最初に話しかけてくれた人が何かを言わんとしようとしたが、そこで士業のチャイムが鳴った。
伊藤さんと、その後ろの同じグループらしい女子二人が席を詰めて、それぞれ私たちがいる通路側に席を一つずつ作ってくれたため、私とハクアはとりあえずそこに収まる。
鮨詰め状態になってしまったが、他にもいくつかそういう席があるようだ。
まぁ本当に知らない人とこの状態になるよりはいいか、と自分を納得させる。
正直申し訳なさがすごいけど、仕方がない。
向こうも素性が全くわからない人とこの状態になるよりはいくらかマシだろう…と思いたい。
でも、私は伊藤さんの隣になったからいいけど、ハクアなんてまだ一言も喋ってない人と隣同士…。
それこそ「友達の知り合い」っていう無駄な情報があるだけに、逆に気まずいかも…?
〜次回予告〜
ソノ「鈴木ソノっす!」
ミカン:「横山ミカンです!」
ショウ:「東山ショウ…です。」
ソノ:「三人合わせて!!?」
二人:「「え?」」
ソノ:「もー。ノリ悪いっすよ二人ともぉ。」
カナコ:「…私は何を見せられてるんだ今…伊藤さんの友達の三人ですね?」
ミカン:「はい!一年の時から!」
カナコ:「うっ…なんで次回予告でまで心を抉られないといかんのじゃ…。」
ソノ:「心抉られ…?というか、次回予告って何するんすか?」
ショウ:「次回の…予告?」
ミカン:「それじゃまんまじゃない?」
カナコ:「あー収集つかねぇ…最近こんなのばっかりな気が…ということで次回は『第二十一話:実は思い描いていたキャンパスライフは遠く。』をお送りします。」
ソノ:「せーの!…お楽しみにっす…ってアレェ…?」
カナコ:「だから何を見せられてるんだ何を…。」
幕
カナコ:「…というか仮にもこのショウで終わろうって話で出てくる新キャラの量じゃないだろ…。」
ショウ:「まぁ…どうせ今回くらいしか、出番がないから。」
カナコ:「悲しい声で悲しいこと言いますね?」




