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第十八話:力の幻影と幻影の夢。

「杖って、魔法が使える、あの杖?」

 私よりもはるかにテンションが上がっているマナを見て、逆に戸惑う。

「…まぁそう…かな?」

 思えば杖で何ができるのかわかっていない私は、ツキヨに救いを求めるように視線を逸らす。


「あなたたちって、ほんとに適当よね。」

「この説明はコクウがやるはずだったのよ。コクウにいってほしいわ。」

 ジト目でハクアを見るツキヨと、そんなツキヨから視線を逸らすハクア。


 そういえば、コクウに杖について聞こうと思ってはいたけれど、結局諦めちゃったもんな。

 というか、聞いても仕方ないとは思ったんだけど…。

 私が諦めたせいでコクウに風評被害が…申し訳ねぇ。申し訳ねぇ。


「まぁ、魔法の杖っていうとそれだけでお話に出てくる魔道具みたいに魔法が使えそうだけどそうじゃないわ。

 正確には魔法を使いやすくする道具、形があることで何も持たずにやるよりもイメージがしやすくなるからね。」


「ずっと気になってたんだけど、魔法って誰にでも使えるの?

 確か管原先輩はこの前使ってたと思うけど…。」

 マナがそんな質問をする。

 私からすると通り過ぎた話だが、マナからすると知り得ない情報だろうから、その質問は妥当か。


「誰でも、というわけではないわ。幻獣と契約すればできるようになるパターンもあるけど…。

 でもその中でもシノブは特別よね。」

 ツキヨはそう言って、それ以上の説明をするかどうか悩んでいるようだった。


 ここから先にあるのはおそらく、私が昨夜コクウから聞いた内容だ。

 要するに、シノブや私のようなタイプは派遣機構内でもあまり立場がよくないという話。

 ツキヨは私がそのことを知っているということを知らない。

 だから悩んでいるのだろうか…。


「それでツキヨも私を止めてくれたんでしょ?」

「それは…まぁね。シノブが人を教えるのが不安っていうのもあるけど…。

 ただ、あなたの能力を考えるとおそらく教えるのはあいつが一番適任でしょうね…。」


「どーいうこと?」

 私とツキヨがしている話はマナにはわからないだろう。

 一応そのつもりで話したのだが、ツキヨはしばらく考えてから、話を続けた。


「シノブは先天的に、カナコは後天的にだけど、幻獣との契約とは関係なく魔法を使える能力があるのよ…。

 これは、派遣機構や魔法少女、その前身になる組織の歴史の中でもかなり珍しいの。」


「え!?」

 マナは、嬉しそうな驚きの声と共に、私から一歩後ずさる。

 私からすると、まだ自分にそんな能力があるということすら半信半疑なところがあるので、その反応はかなりオーバーな感じがしてしまう。


 けれども、歴史から見て、社会から弾き出されたのちの派遣機構員たちや、その中からさえ弾き出された魔法を使える人間たちのことを考えると、その反応は正常なのかもしれない。

 いや、嬉しそう、というのはやっぱり異常だと思うけど…。


「やっぱり私の目に狂いはなかった…けどそこまですごいとは言ってなかったわよね?」

「まぁ、わかってないことも多いしね…カナコちゃんが魔法を使えるかもっていうのも、半ば歴史からの推論みたいなところがあるし…。」

「へぇ…じゃあ逆に、歴史上にも、カナコみたいなことができる人がいたってこと?」


「ええ。おそらくは二人。」

「この国の魔法を確立した人と、死霊術の始祖って言ってたよね。」

「そう、ミコトとヨミ…。」

 え?今なんて?


「え?今なんて言った?」

 ついびっくりしすぎて思ったことがそのまま口に出てしまった。

「何が?」

 私から突然ヴォリュームの大きい声が聞こえたので、ツキヨの方がむしろ驚いている。


「ヨミっていう名前なの?死霊術の始祖は?」

「…まぁあくまであだ名というか、正式な書物が残ってるわけじゃなくて、一般的にそう呼ばれてるだけだけどね…。」


 ヨミ…<黄泉の妃>…安直な連想ゲームだとすると?

 いや、はじめにこの話をしてくれたヤミさんもこの世間での名前は知っていたはず…。

 それでもあえて言わなかったことを考えると、むしろ、そういう安直なミスリードを防ごうとしたのか?


 いや、夢の中でリンネが言っていたことが、仮に正しいとすると…。

 派遣機構がなんらかの事実を私に伝えたくないのか…?


 いやでも結局仮にどちらが正しいとしても、今の時点では情報が少なすぎる…。

 ただいたずらに混乱するだけ…だとするとやっぱり前者か。


 なんにせよ一つ言いたいのは、「ミコト」「リンネ」「ヨミ」…。

 ややこしいので、会話の中でも出てくるような単語を名前にしないでほしいということだ。

〜次回予告〜

カナコ:「派遣機構の人たちって、隠し事をしながらじゃないと会話ができない縛りみたいなのがあったりする?」

ツキヨ:「いや、そんなことは…。というか、『ヨミ』はこの国の死霊術師全体の信仰の対象のようになってるし、そうじゃなくても死者の国として『黄泉』っていう単語はあるわけだし、流石に考えすぎだと思うけどな…。」

カナコ:「そうかなぁ。魔法少女派遣機構内とか、巫術者協会とか、そういう安直なネーミングをする集団ってこと考えると、案外安直な答えっていう可能性も…?」

マナ:「なんでもいいけど、私おいてけぼりなんですけど!?」

キララ:「そんなこと言ったら貴様ら、このキララ様を無視して会話を続けよって!」

ツキヨ:「次回予告なのに収集がつかないことに…というわけで次回は『第十九話:今日の仲間は明日の敵って使い古された言葉。』をお送りします。」

カナコ:「お楽しみに!」

マナ:「強引にまとめたわね…。」

キララ:「無視するな!」

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